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第26話「協力戦闘と息ぴったりのコンビ」

 スパイの発見から三日後の夜明け前、村に非常事態が発生した。


 まだ薄暗い早朝、家畜小屋から異常な鳴き声が響いた。恐怖に震える鶏や山羊の叫び声が、村全体に不穏な空気をもたらす。


「何事だ」


 早起きの農夫ベルントが小屋を確認に行くと、そこには信じられない光景があった。


「魔物だ、大群の魔物が」


 ベルントの叫び声で、村人たちが次々と家から飛び出してくる。


 森の奥から現れた魔物の群れは、これまでで最大規模だった。狼型魔物だけでも二十匹を超え、さらに熊型の大型個体も混じっている。


「こんな数、見たことがない」


 村長ゲルハルトも青ざめていた。


 普段なら数匹程度の小規模襲撃だったが、今回は明らかに異常だ。まるで魔物たちが組織的に行動しているかのような統制の取れた動きを見せている。


「レオン様はどこだ」


「まだ見回りから戻っていない」


 村人たちがパニックに陥る中、魔物の群れは着実に村の中心部に向かってくる。


 先頭を進む巨大な熊型魔物は体長三メートルを超え、その咆哮は大地を震わせるほどだった。


「子どもたちを安全な場所に」


「家に鍵をかけて隠れろ」


 大人たちは必死に避難誘導を行うが、魔物の進行速度の方が早い。


 このままでは村の中心部で戦闘になってしまう。


「どうする」


「武器はあるのか」


 村人たちは農具しか持たない。鍬や鎌では、魔物と戦うには心もとなすぎる。


 そのとき、セレスティアが村の中央広場に現れた。


「皆さん、私の後ろに下がってください」


「セレスティア様、危険です」


「でも、だれかが時間を稼がなければ」


 セレスティアが魔物の群れと対峙する。武器は持っていないが、毅然とした態度で立ちはだかった。


「来るなら来なさい」


 そのとき、村の外れから馬蹄の音が響いた。


 レオンが駆けつけてくるのが見える。しかし、距離がまだある。それまでの時間を稼がなければならない。


「頼むから、レオンが来るまで」


 セレスティアが心の中で祈った瞬間、体の奥から温かいものが湧き上がってきた。


 以前、子どもたちを守った時と同じ感覚。聖女の血筋に眠る力が、再び目覚めようとしていた。


「皆さんを傷つけさせません」


 セレスティアの強い意志とともに、彼女の身体から淡い金色の光が放たれた。


 それは前回よりもはるかに強く、魔物たちの動きを明らかに鈍らせる効果があった。


「なんだ、あの光は」


「セレスティア様から光が」


 村人たちも驚いていたが、セレスティア自身が最も驚いていた。


 前回は微弱な光だったが、今回は明確な力として発現している。聖女の血筋が覚醒しつつあるのかもしれない。


 光に照らされた魔物たちは苦しそうに身をよじっている。聖なる力は魔物にとって毒のような存在だった。


 しかし、それでも魔物の数は多すぎる。


 セレスティアの力だけでは、完全に食い止めることはできない。


「もう少し、もう少しだけ」


 必死に力を維持しようとするが、未熟な聖女の力では限界があった。


 光が弱くなり始めた時、魔物たちが再び動き出す。


「やばい」


 力を使い果たしたセレスティアが、その場に膝をついた。


 魔物たちが一斉に襲いかかろうとしたその瞬間、黒い稲妻が戦場を駆け抜けた。


「遅くなった」


 レオンが到着した。


 しかし今日の彼は、いつもと様子が違っていた。怒りに燃える瞳、より鋭利になった剣技、そして何より戦闘への集中度が異常に高い。


「セレスティア、よくやった」


 一瞬だけセレスティアに視線を向けると、すぐに魔物の群れに注意を戻す。


「今度は俺の番だ」


 レオンが剣を抜く。刀身が月光を反射して、銀色に輝いた。


 最初に襲いかかってきた狼型魔物を、一閃で両断する。


 続いて二匹、三匹と次々に倒していくが、今回の魔物は数が違う。


「包囲されるぞ」


 魔物たちが学習し、レオンを囲むような陣形を取った。


「問題ない」


 しかし、レオンは動じない。


 回転斬りで周囲の魔物を薙ぎ払うと、すかさず次の攻撃に移る。


 その剣技は芸術的な美しさと実戦的な効率性を兼ね備えていた。


「でも、数が多すぎる」


 セレスティアが心配そうに見守る中、レオンは孤軍奮闘していた。


 そのとき、セレスティアは気づいた。


 魔物の動きに、まだ自分の聖なる力の影響が残っている。完全に回復したわけではないが、わずかに鈍っているのだ。


「この隙を活かせれば」


 セレスティアが立ち上がる。


 力は使い果たしたが、まだできることがある。


「レオン、左の大型個体が死角から」


 セレスティアの警告で、レオンが振り向く。


 巨大な熊型魔物が、背後から襲いかかろうとしていた。


「ありがとう」


 レオンが間一髪で攻撃を回避し、逆に反撃に転じる。


 セレスティアの的確な情報提供が、戦局を有利に導いていく。


 戦闘が本格化すると、セレスティアとレオンの息の合った連携が発揮された。


「右側に三匹まとまってます」


「了解」


 レオンがセレスティアの指示通りに移動し、効率的に魔物を倒していく。


「後ろから大型個体が接近」


「わかった」


 セレスティアが戦況を俯瞰し、レオンに的確な指示を出す。彼女の冷静な判断力と、レオンの卓越した戦闘技術が完璧に噛み合っていた。


「この連携、見事だな」


 村人たちも感嘆の声を上げる。


「まるで長年のパートナーのようだ」


 確かに、二人の連携は驚異的だった。


 セレスティアが魔物の動きを予測し、最適な攻撃ルートをレオンに伝える。レオンはその情報を完全に信頼し、迷わず行動に移す。


「上空から小型個体が」


「見えている」


 レオンが跳躍して空中の魔物を斬り落とす。


 着地と同時に、地上の魔物への攻撃に移る。流れるような一連の動作だった。


「素晴らしい剣技です」


「君の指示があってこそだ」


 戦闘中でも、二人は自然に会話を交わしている。


 まるで踊りのパートナーのように、呼吸を合わせて連携していく。


 しかし、魔物の数はまだ多い。


 特に群れのリーダー格である巨大熊型魔物は手強く、レオン一人では対処が困難だった。


「あの大型個体が問題ですね」


「ああ。正面からでは分が悪い」


「では、私が注意を引きます」


「危険だ」


「大丈夫です。逃げるだけですから」


 セレスティアが魔物の注意を引くために走り出す。


 巨大熊型魔物がセレスティアを追いかけ始めた瞬間、レオンが側面から攻撃を仕掛けた。


「今だ」


 完璧なタイミングでの連携攻撃。


 レオンの剣が魔物の急所を正確に捉え、巨大な体躯が崩れ落ちた。


「やりました」


 リーダーが倒れると、残りの魔物たちは戦意を喪失した。


 しかし、レオンは容赦しない。


「村に被害を出すわけにはいかない」


 逃げる魔物たちを、一匹ずつ確実に仕留めていく。


 セレスティアも、逃走ルートを予測して情報を提供し続けた。


「森の北側に逃げています」


「追い詰める」


 最後の一匹を倒すと、戦場に静寂が戻った。


 辺り一面に魔物の死骸が散らばっているが、村人に怪我人は一人もいない。


 完璧な勝利だった。


「終わったな」


 レオンが剣を鞘に収める。


 その顔には、満足そうな表情があった。セレスティアとの連携に手応えを感じているようだった。


「お疲れ様でした」


「君もだ。見事な連携だった」


 レオンがセレスティアに歩み寄る。


「君となら、どんな敵でも倒せる気がする」


 その言葉に、セレスティアの心が躍った。

 

 戦闘パートナーとしても、人生のパートナーとしても、最高の評価をもらえた気がした。


 魔物の死骸を片付けた後、村人たちは二人を称賛した。


「素晴らしい戦いでした」


「まるで一心同体のようでしたね」


「レオン様とセレスティア様のコンビは最強です」


 村人たちの賞賛に、二人は照れながらも嬉しそうだった。


「皆さんのおかげです」


「村を守れてよかった」


 戦いが終わって、二人は互いを見つめ合った。


 共に戦い、勝利を収めた充実感。お互いへの信頼と愛情が、さらに深まった瞬間だった。


「君は最高のパートナーだ」


「私も同じ気持ちです」


 明確な好意が芽生えていることを、もう二人とも隠そうとはしなかった。


 戦士としてのパートナー、人生のパートナー。


 どちらの意味でも、お互いにとって唯一無二の存在になっていた。


「また一緒に戦おう」


「はい、いつでも」


 夜明けの光が二人を照らす中、新しい愛の物語が確実に進んでいた。


 困難を共に乗り越えることで、二人の絆はより一層強固なものになった。


 これから先、どんな試練が待っていても、二人なら必ず乗り越えることができる。


 そんな確信を持って、新しい一日が始まろうとしていた。

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