41話 冒険者たち①
背後から突然かけられた声に、三人は同時に肩を震わせた。
振り返ると、そこには見知らぬ女が立っていた。
燃えるような赤髪をひとつに結い上げ、翡翠のような瞳がまっすぐにこちらを見据えている。気の強さをそのまま映したかのような眼差しだった。
引き締まった身体を守るのは、騎士の鎧を軽装にした装い。金属のきらめきは控えめで、機能性を重視しつつも女性らしいラインに調整されている。
「ラ――」
何かを言いかけたラセルに対し、女性は手のひらを小さく掲げ、その言葉をやんわりと制した。
「“リエラ”っていうの。よろしくね?」
口元に人差し指を添え、小さく首を傾げながらそう名乗った彼女は、すっと目を細めて笑った。
仕草は柔らかいが、視線は油断なく研ぎ澄まされている。
彼女はウィンクのような合図をラセルに向け、からかうような声で言った。
「そっちの騎士さまとは、ちょっとした知り合いなのよ。ねー?」
気安い口調とは裏腹に、その立ち姿には妙な威圧感がある。
何よりも、この女性はラセルにすら気取られず、背後から現れたのだ。
ルナリスはごくりと喉を鳴らした。
ただものではない。直感がそう告げていた。
しかし、ラセルが特に警戒するでもなく、むしろどこか困ったような顔を浮かべているのを見て、疑念は少し和らぐ。どうやら、顔見知りというのは本当らしい。
「彼女の身元については、私が保証できます。ご安心を」
ラセルの言葉に、ルナリスとサフィナは揃って目の前の女性を見つめた。
本人はというと、ひょいと肩をすくめ、あたりを見回すようにして話題を変える。
「で? あなたたち、こんなところで何してるの?」
もっともな問いかけだったが、ルナリスたちの微妙な空気を敏感に察し、リエラはひとつ顎をしゃくって視線を移す。
「あら、冒険者ギルドを覗いてたの? 気になる男の子でもいたりして――」
冗談めかして笑った彼女の瞳が、ギルドの窓越しに見えるフード姿の人物をしっかりと捉えていた。
「……へぇ。“お忍びの王子様”って、物語だけに出てくるわけじゃないのね」
ルナリスは思わず息を呑んだ。
ギルドの中にいる人物の正体。
それがこの国の王子だということを、彼女は一目で見抜いた。
まるで、すべてお見通しだと言わんばかりに。
一体、この女性は何者なのだろう――。
ルナリスの胸に流れ込む感情など知るはずもなく、リエラと名乗った女性は、楽しげに笑っていた。




