Episode 4:Sweet Potato
それから数日後。
王都では、不穏な陰謀が“未然に阻止された”という噂が駆け巡っていた。
王室筋の調査によれば、クーデターを計画していた高位貴族たちは、証拠不十分ながらも自ら国外へ逃亡。
計画書の焼失が決定打となったらしい。
その報告書には、こんな一文があった。
「計画の存在をいち早く察知し、情報の封印を促したDランク冒険者、ライオ・クレメンスの功績は大きい」
──誰が書いた、それ。
「……というわけで!」
王都の酒場《ねじれた羊亭》。
今夜も、にぎやかな夜の始まり。
ステージの上では、吟遊詩人のメイベルがリュート片手に歌い上げる。
「国を揺るがす陰謀も〜、焼き芋の皮で灰となり〜!
ラッキーだけで英雄に! その名は──!」
スポットライト(ランプの火)が中央の席を照らす。
「ライオ・クレメンス!!」
「……いやいやいや、誇張しすぎだろ!」
観客のどよめきと笑いに囲まれながら、ライオは額に手を当ててうめいた。
「俺、芋食ってただけだぞ!? しかも皮、落としただけなんだが!?」
「事実じゃない?」
カウンターの端から、メイベルがにやりと笑う。
「『落としただけで事件が解決する』なんて、詩人からすれば最高の素材よ。
あとで曲にして、王宮にも送っとくね」
「やめてくれ、ほんとに」
ライオは椅子にだらりと背を預けた。
王様に感謝され、名声を得て、冒険者ギルドでもやたらと丁重に扱われ始めたが、
本人にとってはそのどれもがピンと来ない。
「……焼き芋、また食いてえな」
ぽつりと呟いたその声は、音楽の中に溶けていった。