表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

Episode 3:Burnt Potato

 数日後の夜。王都の北区、ひとけのない倉庫街。


 黒いマントに身を包んだ貴族たちが、蝋燭の灯る小部屋にひっそりと集っていた。


「……これが計画書の最終稿だ。あとは王宮の警備配置さえ変更できれば、当日に動ける」


 薄笑いを浮かべながら渡される、封印された羊皮紙の束。

 それは、国家転覆のための綿密な手引きであり、すべての証拠だった。


「問題は、あの若造に顔を見られたことだな。あのまま泳がせておくのは危険だ」


「だが特定には至っていない。……奴は“木の精”と名乗ったらしい」


「……フザけたヤツだ」


 静まり返った部屋に、微かな足音。


 ──と、そこへ。


 天井の隙間から、ふわりと何かが落ちてきた。


 ひらり、くるくる。

 軽やかに宙を舞い、蝋燭の炎の上に落ちる。


 「……ん?」


 小さな“焼き芋の皮”だった。


 次の瞬間──


 ボッ


 皮に残っていた油分に火が移り、小さな炎がメモの端を舐める。


「やめ──ッ!? それを!!」


 貴族の一人が慌てて書類に手を伸ばしたが、時すでに遅し。


 蝋燭の灯りに炙られた羊皮紙は、乾燥しきっていた。

 数秒後には書類全体が燃え上がり、黒い灰と化した。


「……」


「…………」


「……これ、まずいんじゃないか?」


「まずいどころじゃない!! バカな……っ!」


 情報の要。資金計画。兵力の配置。名前のリスト。

 すべてが、焼き芋の皮で──無に帰した。


 沈黙の中、誰かが呟く。


「……計画書が、何も、ない……」


 一方その頃、屋根の上をふらふら歩いていたライオは、ようやく気づいた。


「あ……芋の皮、落とした」


 軽く肩をすくめる。


「ま、いっか」


 そしてその夜遅く。


 密談現場の周囲を、銀の鎧を着た男が黙々と捜索していた。


「……お嬢様の命令で調査中ではあるが……やはり、足取りが掴めんな」


 元騎士であり、現在はセリナの執事兼護衛──クラウス。


 地面に落ちた芋の皮を拾い、じっと見つめた。


「また、あの男か……」


 片眉をぴくりと動かし、深く溜息をつく。


「まったく、なぜこのような男にお嬢様は……」


 こうして、誰にもバレず、何の努力もせず、

 焼き芋の皮ひとつで国家的陰謀を未然に防いだ男がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ