Episode 3:Burnt Potato
数日後の夜。王都の北区、ひとけのない倉庫街。
黒いマントに身を包んだ貴族たちが、蝋燭の灯る小部屋にひっそりと集っていた。
「……これが計画書の最終稿だ。あとは王宮の警備配置さえ変更できれば、当日に動ける」
薄笑いを浮かべながら渡される、封印された羊皮紙の束。
それは、国家転覆のための綿密な手引きであり、すべての証拠だった。
「問題は、あの若造に顔を見られたことだな。あのまま泳がせておくのは危険だ」
「だが特定には至っていない。……奴は“木の精”と名乗ったらしい」
「……フザけたヤツだ」
静まり返った部屋に、微かな足音。
──と、そこへ。
天井の隙間から、ふわりと何かが落ちてきた。
ひらり、くるくる。
軽やかに宙を舞い、蝋燭の炎の上に落ちる。
「……ん?」
小さな“焼き芋の皮”だった。
次の瞬間──
ボッ
皮に残っていた油分に火が移り、小さな炎がメモの端を舐める。
「やめ──ッ!? それを!!」
貴族の一人が慌てて書類に手を伸ばしたが、時すでに遅し。
蝋燭の灯りに炙られた羊皮紙は、乾燥しきっていた。
数秒後には書類全体が燃え上がり、黒い灰と化した。
「……」
「…………」
「……これ、まずいんじゃないか?」
「まずいどころじゃない!! バカな……っ!」
情報の要。資金計画。兵力の配置。名前のリスト。
すべてが、焼き芋の皮で──無に帰した。
沈黙の中、誰かが呟く。
「……計画書が、何も、ない……」
一方その頃、屋根の上をふらふら歩いていたライオは、ようやく気づいた。
「あ……芋の皮、落とした」
軽く肩をすくめる。
「ま、いっか」
そしてその夜遅く。
密談現場の周囲を、銀の鎧を着た男が黙々と捜索していた。
「……お嬢様の命令で調査中ではあるが……やはり、足取りが掴めんな」
元騎士であり、現在はセリナの執事兼護衛──クラウス。
地面に落ちた芋の皮を拾い、じっと見つめた。
「また、あの男か……」
片眉をぴくりと動かし、深く溜息をつく。
「まったく、なぜこのような男にお嬢様は……」
こうして、誰にもバレず、何の努力もせず、
焼き芋の皮ひとつで国家的陰謀を未然に防いだ男がいた。