Episode2 Fortune Potato
──そのときだった。
密談の一人と、ライオの目がバッチリ合った。
「あっ」
「……!」
芋の甘みが吹っ飛んだ。
男の目つきが、一瞬で鋭く変わる。
「……今の、誰か見てたか?」
「そこの影に、誰か──!」
やばいやばいやばいやばい。
ライオは反射的に、手に持っていた芋を口に突っ込んだ。
そのまま、何事もなかったかのようにベンチから立ち上がり──
ふにゃっと笑った。
「ごめんなさい〜。木の精霊ですぅ〜♪」
とびっきり怪しい声で、両手をひらひらと振りながら踊るように路地の奥へフェードアウト。
「……は?」
「木……?」
「いや、今の人間だろ!! 追え!!」
だよね!? 知ってた!!
全力で路地を駆け抜けながら、ライオは叫ぶ。
「くそぉっ、なんで俺が巻き込まれんだよ!? 焼き芋食ってただけだぞ!?!?」
追ってくる黒装束の男たち。迫る足音。ぐんぐん狭くなる路地。
ライオの脳裏に「今日の運、使い果たしたかもしれん」という文字がよぎる。
そこへ──ふわりと漂う、香水の香り。
「おやおや、お困りのようねぇ?」
突如、裏路地の曲がり角から、紅の法衣に身を包んだ“オカマ神官”アルメスが現れる。
手には杖、表情はいつものように艶やか。
「今、私のお気に入りのDランク坊やを追いかけてた奴ら、どなたかしらァ?」
「アルメス!? なんでこんなとこに!?」
「ちょっとスイーツ買いに来ただけよ。──でも、事情は後で聞かせてもらうわね♡」
その瞬間、アルメスが地面に向けて祝福術を発動。
爆発音とともに砂煙が舞い、追手たちの視界が完全に遮られる。
「え、あの……助かった?」
「当然でしょ? ライオのラッキーは私が守るって、神様にお願いしてあるの♡」
ウインクひとつ残して、アルメスはすたすたと去っていく。
ライオはその背中に思わず拝む。
「……ありがとう神様。そしてアルメス、マジで神様」
とはいえ──これで済んだわけじゃない。
追っては一旦撒けたが、確実に“顔を見られた”と認識されたライオ。
このままでは、いつ命を狙われてもおかしくない状況だった。
──見なきゃよかった。
──なのに、ちゃんと見えちゃったんだよなあ。
でも、もうどうしようもない。