Episode 1:Mistake Potato
昼下がりの王都。日差しはやわらかく、風はちょっぴりあたたかい。
「……はぁ~、やっぱ焼き芋ってのはさ、幸せのかたまりだよな~」
そんな呑気なことを口にしながら、ライオ・クレメンスは焼き芋片手に歩いていた。市場の端っこの屋台で見つけた、炭火でじっくり焼いた逸品である。皮を少しだけ剥き、湯気を逃がさぬように中身をかじっては、うっとりと頬をゆるませる。
王都での依頼をひとつ終えたばかり。報酬は安かったが、昼飯代くらいにはなった。彼にとっては十分すぎる幸運だ。
「んー、どっか静かなとこで腰下ろして食べたいなぁ」
そうして足の向くまま辿り着いたのが、路地裏のちょっとした広場。朽ちた石のベンチが一つ、軒下の影に差し掛かっている。
誰もいないことを確認してから、ライオはそこに腰を下ろした。
「よーし、第二ラウンドだ」
芋を構えて大口を開けた、そのとき。
「……で、例の準備は?」
低い声が風に乗って聞こえてきた。
ライオはもぐもぐ咀嚼しながら顔を上げる。声のした方──壁の向こうの隙間から、何人かの人影が動いているのが見えた。
「……大丈夫です。王宮の動きは把握しています。問題はあの騎士団長だけですが……」
ん?
え、なにそれ? やばい話してない?
ライオはごくりと芋を飲み込む。
見なきゃよかった、と本気で思った。
だって明らかに──
**国家転覆の密談**してるっぽいんですけど!?
見ちゃった。
完全に見ちゃった!!
なんか書類とか回してるのも見えたし、顔もバッチリ見えたし!!
焼き芋片手に裏通りで、人生最大級の厄介ごとを“見ちゃった”男。
それが、運だけでここまで生きてきた ライオ・クレメンス(Dランク冒険者) であった。