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第5話・妄信に巣食う悪意

 エリオットの怪我は三日で治った。だがヴァンパイアの回復能力をもってしても三日間も怪我をして動けない、なんてこと本当にあるのだろうか…相当な深手を負っていたのかもしれない。

 ヴァンパイアの回復能力は、ヴァンパイア自身の強さよって変わる。230年生きているエリオットはおそらく第Ⅲ階級のヴァンパイアだろう。


(【原作】での第Ⅲ階級のヴァンパイアって登場数が少ないんだよな…。例を挙げるにしたってアベルくんの〈ピード・ラメント〉に所属するルシウスやクラウスぐらいしかわたしもイメージできないし…)


 階級とはヴァンパイアの強さの序列を表すもので、〈ガーディアンズ〉が便宜上振り分けられたもので強さもそうだが、どれだけ長い時間を生きているかで判断されている。

 そもそもヴァンパイアの起源は三柱と呼ばれる三人の女性個体のヴァンパイアに遡る。

 突如としてそこに発生した人型の魔物━━━それが、人間の女性の形をしたヴァンパイアの始祖だ。

 彼女たちは人間の男と交わり、子を成した。

 それが、現在に続くヴァンパイアたちの始まりだ。


 こうした背景から「ヴァンパイアというよりは夢魔っぽい設定だな」と、ネット上では言われることもある。



「ユキシア」


 思考の海に浸かっていると、アレンに呼ばれた。

 彼の眉間には非常に深いシワが刻まれており、かなり苛立っているようだった。


「お前は、エリオット様の怪我がただのヴァンパイアにやられたものだと思うか?」

「………」


 それは確かに疑うところではあるけれど、傷口を見せなかったのはエリオット本人の意思で、詮索されたくなかったんだろう。

 それに「何もするな」と言われた。


「アレは人間にやられたんだよ」

「え」

「知ってるか? 〈ガーディアンズ〉って。人類の守護者を気取ったヤツらがいるらしい」

「!!」


 ━━━なんで知ってるの?

〈ガーディアンズ〉の存在は秘匿されている。独自技術である『スティグマ・ギア』や異能力(ギフト)をもっていることから、一国が保有するには非常に強力な軍事力になる。

 だからこそ、アルメリア王国、リンドニウム帝国、イリステリア共和国の三国に構成員を派遣するだけの多国籍の秘密組織であり、三国から秘密裏に運営されている。

 一般人であるアレンが知るには、エリオットから伝わる以外にありえない。

 けど、エリオットはそうした話を一切しない。もしその話をすれば〈ガーディアンズ〉へ敵意が向けられると分かっているからだ。


 アレンは血走った目で「アレはヤツらの仕業に違いない…! 人間だからと、エリオット様が気を使ってしまわれたのだ!!」と一方的な決めつけをする。


「ちょっとアレン…」


 呼び出しておいてこちらの話を聞きやしない。自分の考えを語るだけなら木にでも話しかけていればいいのに。


「俺な、ヴァンパイアになれる方法を知ったんだ」

「………は?!」


 何それ、初耳なんだけど。


「とあるヴァンパイアに誘われたんだ。抽出した因子を体内に入れれば、俺もヴァンパイアになれる」


 ヴァンパイアの因子の抽出は、〈ガーディアンズ〉独自の技術だ。何故ヴァンパイアが知っている?

 それに因子の抽出には、『スティグマ・ギア』が必要で…


「アレン…それはどう考えても」


 騙されている。と口にしようとした途端、「お前もどうだ?」と誘って来た。

 人の話し聞けや!



「━━━悪いけど、そんな根拠のない話し信じられない。やめた方がいい」

「根拠がない? なんでそんなこと言えるんだ? ヴァンパイアが言うことだぞ!」

「ヴァンパイアが何でもかんでも正しい話しするとでも? 騙されてるよ!」

「ヴァンパイアは嘘をつかない!! エリオット様は!!」

「エリオットを基準にしないで! エリオットはヴァンパイアの中でも……なんていうかこう、ちょっと変だから!」


 特殊といえば特殊だけど、人間を助けるヴァンパイアがエリオット以外にいないわけではない。

 ただ子供を引き取り育成する、ということまでするのはエリオットくらいしかわたしの記憶にない。


「変だと…?! エリオット様は俺たちを救ってくださった方だぞ!」

「救ってくれたとか、嘘をつかないとか、なんでそう思えるわけ? エリオットが人間に悪意があるかないかなんて何で貴方に分かるの?」


 エリオットが救ってくれたからといって、必ずしもヴァンパイアが人間を救うとは限らない。それをアレンは考えもしていないんだ。おそらくそのヴァンパイアに揶揄われている。


 ヴァンパイアは純粋な人間が好きだ。そういうのを裏切って、嬲って、殺すことを快楽にするヴァンパイアだっている。〈グリムレーベン〉のヴァンパイアがまさにソレだ。



「ユキシア…!! お前!」

「ハイハイ。喧嘩はそこまでにしなさい」

「エリオット様!」


 ……やっぱり聞いてたか。タイミングがいいんだか、悪いんだが…。


「エリオット様! ユキシアが!」

「そうですねそうですね。アレン、私からも言っておきますのでユキシアを許してくださいね」

「っ……はい…」


 エリオットはアレンに部屋に戻るように伝え、アレンは彼のいうことを聞きこの場から去っていく。


「ユキシア。アレンが苦手なのは知っていますが、言葉は選んでください」

「アハハッ苦手じゃないよ〜。…たった今、嫌いになった」

「はあ…」



 ため息を吐いて頭を抱えるエリオット。

 ヴァンパイアが人間同士の喧嘩の仲裁をして、子育てに頭を抱えるとは。【原作】では見られなかっただろうな。


「で、どうするの? アレンのこと」

「アレンに接触したヴァンパイアを探ります。また少し留守にしますが、いいですか?」

「アレンならエリオットのいうことならすぐ聞くと思うんだけど。

 だから━━━」

「ヴァンパイアに会うのはやめろ、と言えと」


 頷いて肯定した。

 エリオットは悲し気な表情をしながら「……それが出来たらどんなにいいか」と呟いた。


「どういうこと? アレンはエリオットのいうこと聞かないの?」

「………」


 沈黙は肯定だ。だがその雰囲気からわたしに言いたくないのだけは分かった。

 エリオットはアレンをかなり気遣っている。彼が自身に対し盲信的なことを知っているからだ。だからこそエリオットの利益になることをわたしにも強要してくる。けれどわたしは拒否する。思うようにいかないことに苛立ちを覚えてヴァンパイアにならうとしている、ということなのだろうか。

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