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第2話・手を差し伸べてくれた、貴方と共に。

「ごめんね、キミのご両親は間に間に合わなかった」

「……うんん」


 魔物に襲われた翌日のこと。

 謝罪をする彼はフードを深く被り太陽の光から自らを守っていた。

 ━━━ヴァンパイア。名をエリオットという。わたしの両親だけでなく、多くの人が魔物に襲われ怪我をし死んだ。

 すでに埋められ墓石になった両親は、五体満足の肉体をしていなかった。母は腹部を中心に、父は左腕だけが残されていた。

 わたしも片足に消えない傷ができた。


 エリオットは墓石を見てじっとしているわたしに膝を折った。質の良さそうなズボンに泥が付くことも気にせず。


「キミの名前を聞いても?」

「…ユキシア」

「ユキシア。いい名前ですね」


 ユキシア━━━前世で親友が作った二次創作の主人公の名前。たまたまとはいえまさか同じ名前になろうとは、思いもしなかった。

 更に何歳か、と聞かれる。


「五歳」

「そう。……キミはこれからどうしたい?」

「わたし、ですか?」


 おそらく孤児院か教会に行くことになるんだろうけど、港街のほとんどが壊滅している。そんな中で孤児院に預けられても、ロクなことにならないのは想像に難くない。それに近々大嵐の時期だ。漁に出れないならこの街の人は食べていけない。

 1人で生きていくほどわたしは強かじゃないし、前世の知識のせいで真っ当な生き方しか思いつかない。犯罪をしたり、身を売ったりは…正直したくない。


「キミさえよければ、私のところに来る気はありませんか?」

「エリオットの?」

「ああ」

「ヴァンパイアなのに、人を保護するの?」

「まあ。…私はキミと同じ境遇の子供たちを孤児院で引き取っているからね」

「ヴァンパイアが!?」


 今更ながらわたしは目の前にいるヴァンパイアに疑いの目を向ける。

 わたしの知っているヴァンパイアって創作物にもよるけれど、それでも確実に共通しているのが吸血行為をすることだ。作品によっては吸血された人は同じようにヴァンパイアになってしまったする。


「ヴァンパイアに吸血されると、ヴァンパイアになる…そんな噂をキミは信じているのかい?

 五歳にしては博識だね」

「っ……」


 いたずらが成功した子供のようにふふっ、と笑うエリオット。

 顔に出てたかな…。


「顔を見なくとも、私たちヴァンパイアの中でも「ヴァンパイアに吸血されるとヴァンパイア」になるというのを聞いたことくらいいくらでもあるさ。

 けれど、残念した。それは根も葉もない嘘ですよ」


 エリオット曰く、そうした噂はヴァンパイア信仰をしている異端が流している噂だそう。

 ヴァンパイア信仰って…そんなものあるんだ…。


「ヴァンパイアは不老長命な種族です。知能も高く、力も人間よりもずっと強い。そうした人型の魔物に憧れを持つ人間が生まれるのは当然ですから。

 ━━━私も正直、迷惑はしているんだが、力の弱いヴァンパイアにはいい隠れ蓑で、いい餌場でもあるんですよ」


 同胞の生き方すべてを否定はできない、と肩すくめて語るエリオット。


「キミは見た目以上に頭が良さそうだ。

 知っているかい? ヴァンパイアにはそれぞれ固有の異能力があるのを」

「固有の、異能力……」


 どこかで聞いた話だけど…


「私の異能力は………心を読むことが出来るんですよ」

「心を、読むことが…」


 え、じゃあ…わたしが転生者ってこともわかるってこと?


「とはいえ、キミは割と顔に出るから考えていることが手に取るようにわかるよ。

 ━━━ユキシア。私はキミに同情をしているし、私自身の力の無さに嘆いている。助けられる命があるのなら、助けたい」

「今のわたしを、助けてくれるの?」

「勿論。…最期まで責任を持つとも」


 とわたしの手を取り、優雅にわたしに膝を付き手を取り手の甲にキスを落とす。

 紳士的な姿勢にドキマギしながら、改めてエリオットの顔を見る。首を傾げて微笑みを返すエリオットには悪意がない、ように見える。


「わたしが一番心配なのは…」

「吸血のことでしょう? 大丈夫。本当はヴァンパイアは血を吸わなくても生きていけますよ。単に栄養補給に人間の血が効率がいいってだけで」


 人の血を栄養ドリンクみたいにいいやがって…。


「まだ、信用…できない…」

「そうです。むしろいい警戒心だ」


 ふふふっ、と笑うエリオットは一息つくと顔を上げて冷たい表情をした。


「ユキシア。この街のことだけど、あまり信用しないほうがいい」

「どういうこと?」

「頭のいいキミなら分かるはずですよ━━━ここを治める貴族は腐っています。近々また動くだろう」

「動くって…?」


 エリオットの言い方はまるで、貴族が魔物を唆して街を襲わせたかのようではないか。魔物ってそこまでの知性が備わっているものなの?


「ねえ、エリオット。魔物って貴方と同じ位頭がいいの?」

「そうか。キミは魔物の定義や前提を知らないんでしたね。

 魔物が通常の獣と違う扱いなのは、その凶暴性もあるけれど、体内に魔力を保有し『魔核』と呼ばれる『核』を持っているかどうかで変わります。

 知能は人間でいうところの7歳くらいで止まり、普通の犬猫よりは確かに頭がいい。だが〝調教〟が出来ないわけじゃない。魔物と言っても獣と同義です」


 だから貴族が命じれば魔物は人の街を襲うのは容易だって?まさか口減らし?魔物を使って?どうしてこの街が標的になったの?

 もし本当の目的が口減らしだったとして、この街の状況も状態をもわたしは知らなさすぎる。エリオットは……


 じっとエリオットを見つめれば、彼は真剣な眼差しをしたままわたしを見つめていた。



 ━━━この世界で、信じられるものはなかった。両親もわたしを煩わしいと思っていたは知っている。前世のように子供時代を義務教育で勉強ができるわけでもなければ、放課後に友達と遊んだり、TVを観たりも出来ない。大人になれば好きなことを好きなだけやっていくこと自体が難しい異世界に転生して…貴族にはいつ命を奪われるか分からない。


 エリオットはわたしを助けてくれた。わたしの知らないことを教えてくれた。手当をして、包帯を巻いてくれた。わたしが怖がらないように決して牙を見せることはしなかった。

 すでに、エリオットなら信じてもいいかもしれないと思っていた。━━━でも、どこかで疑ってもいた。それは、きっと事実だった。

 彼を信じられる根拠はすべて私情だ。わたしが無知なのをいいことに嘘をついていたら?



「わたし、エリオットといく」

「…いいの、ですか?」

「うん」


 この先、どうなるかわからないけれど、わたしがエリオットについていく理由の最もたる理由は、きっと━━━彼を信じたいからで、彼といれば楽しそうだから。


「これからよろしく、エリオット」

「よろしくお願いします。ユキシア」


エリオット

ユキシアが出会ったヴァンパイア。

銀髪の赤い瞳をした美青年。

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