プロローグ【2】
「アミュレット・ナイト・サーカス、めっちゃ面白い!!」
「お、おう…」
開口一番がお待たせー、ではなくそれですか。
ここは東京にある写真詐欺で度々ネットを騒がせる某喫茶店。春雨の降る中での喫茶店に入り、お互いの近況や最近のアニメや漫画の話しをしていた。
わたしは東京に住む一般人でありただのオタク。目の前にいる親友は、高校時代からの付き合いで4ヶ月前、彼女にとあるマンガ作品をオススメした。どうやらこの4ヶ月で1期2期を一気見したようで、それはそれは楽しんでいるようだった。
わたしが4ヶ月前に紹介した作品━━━【アミュレット・ナイト・サーカス】国内約2300万部を売り上げた人気漫画作品だ。
異能力バトル×ダークファンタジーの作品で、アニメ放送されてから知名度を上げ現在2期までの放送が終わり、つい最近3期制作が決まったばかりだ。
「いやー思わず二次創作漁りに漁りまくったよね〜」
「わかるわ。アニメ1期の段階だと話題性も相まってやや少なめなんだけどね」
「そうね〜。私も久しぶりに描き描きしてみようかなぁ」
「やった! 貴方の作品好きだから見たかったの!………で? 誰ガ為メの続編は?」
「ぁぁ〜……あ〜……うーん? え〜ぇっとぉ…???」
目線を大きく逸らす。『誰ガ為メ』というのは彼女が書いている二次創作の小説で2000ブックマークを叩き出したヒット作品だ。タグでも続きが見たい! てのが乱立しているのだが…本人がこの様子なのだ。
「あ、アレはテキトー書いてテキトーに設定したものなの! だから起承転結とかないの! 続きは存在しません!」
「やだ! やだやだやだやだやだー! やーだー!」
某ウマが擬人化する作品に出てくる子を真似てみたけれど、やだやだ攻撃は通用しないらしい。
これはまぁ小説を書く人間あるあるだけれど、気合を入れて書いたものほどヒットせず、テキトーに書いて前後感もなくて設定もテキトーな作品ほど何故か人気になってしまうというジレンマ。勿論、面白ければちゃんと評価してもらえるのだろうけれど、おそらく気合をしているせいか強張った表現が増えているんだろう。難しい言い回ししなきゃ、みたいな?
「とまあ設定だけはしているんだけど、どう?」
「ほーう。拝借」
スマホを渡され設定だけされた小説を見た。
設定と簡素な下書きのキャラデザがされていた。仕事速すぎる。
「あれ、夢小説なの?」
「うん。腐向けはもう書いてる」
(仕事が速い…)
彼女もわたしも腐向けも夢小説もどちらも好物な雑食タイプで、アカウントを分けて投稿している。
音読することはせず、設定に描かれたものを見えていく。
名前はユキシア。女の子。〈ガーディアンズ〉に所属するアミュレットナイト・サーカスの一員。アッシュたちとは同期であり、空中曲芸を担当している。異能力は「重力操作」と「自己治癒」武器は日本刀。
下書きで起こされたイラストには青色の瞳に亜麻色のセミロングの髪を三つ編みのハーフアップをしている少女だった。
「かわいいでしょ」
「ウン」
このかわいらしさは彼女の好みの女の子だ。穏やかで、儚げで献身的にみえる男受けを狙ったようなヒロインがドストライクだからな親友は。ギャルゲなんかじゃルート解放されていないが根強い人気があり、FDとかでルート解放されるキャラクターだきっと。
「にしても武器が日本刀って」
「正確には「形は日本刀だけど日本刀じゃない」って感じ」
そもそもチハヤっていうザ・ジャパニーズネームいるじゃん、と彼女は語る。まぁそうね。
「で? ハーレム?」
「ンなわけ」
「え、じゃあオチなし?」
「ない」
まあ、夢小説って何でもかんでも恋愛ものってワケでもないしな。ルートが決まっているものもあれば、愛され系もある。わたしは特定のルートのものも読むが、原作沿いの作品も好きだなあ。
「そういえばルミアちゃんなんだけどさ~」
「アッ」
気づいた時にはもう遅かった。彼女にがっちりと肩を掴まれにっこり微笑まれた。
あぁ~見てしまったんだな。知ってしまったんだなぁ…。
「んでばばばんぁばばばば…!」
「待て落ち着け話せばわかる!」
ルミアちゃん、というのは【アミュレット・ナイト・サーカス】本編に出てくる主人公・アッシュの幼馴染であり、彼の生い立ちを知る少女だ。アッシュを心配しながらも温かく送り出してくれた彼女は、視聴者たちからも『聖女』とも呼ばれ人気が高い。実際聖教会でボランティアをしていてシスターの真似事のようなことしている。彼の心のよりどころであり帰る場所でもある。まぁいわゆる相思相愛の両片想い、というやつだ。
自分からトラブルを招き入れるタイプのヒロインではなく、アッシュとは文通をしていて本編には多くかかわってくるわけではないがこの2人のカップリングが人気な理由はもうひとつある━━━
「なぁんでぇしんじゃうんだよぉぉおウブァ!」
「うわーきったねぇ…」
涙と鼻水を振り撒く彼女の顔はそれはそれは酷い顔をしていた。鼻炎持ちの彼女は質のいいポケットティッシュを取り出し盛大な音をさせながら鼻をかみ、涙を拭いた。
彼女の言う通り本編内でルミアちゃんは殺される。それもなかなかに惨い死に方だと思われる。
アニメ3期ではそんな彼女のシーンが放送されることだろう。わたしは原作から追っていたため、当時それはそれはもう発狂した。
なんでこんないい子が死ななきゃいけないんだぁあああああ!!!! 作者は鬼か!? 家族を人質に取られれて無理矢理書かされたんだぁぁぁああああ!!!!!!
わたしもそうだったけど、ネット上ではお祭り騒ぎだった。
親友が楽しい楽しい沼にハマってくれてわたしも大満足です(愉悦)
「ねえ、今度のコミケ行く?」
「サークル参加はしないけど、推しの作家が久しぶりに同人誌出すんだよねぇ」
「ほほ~う?」
「そういう貴方は?」
「コスプレ参加しようと思てて」
「多趣味なことで」
コスプレをする衣装はすでに用意してある、と意気込む親友は楽しそうだった。
そんなこんなで親友との会合は終わりを迎えた。夏コミを控えたとある夏の日である。
蝉の鳴き声が響く中で、夏コミを終えてゆっくりできる…時間なんて社会人には存在しない。比較的ホワイト企業ではあるが、学生のように1ヶ月も休みがあるわけではないのだ。
あぁ〜ぁ…ニートになりたい。でもニートになったらなったで、何をして良いか分からないかもしれない。
外回りを終えて、そのまま直帰できる我が社は本当に優しい…かもしれない。直帰したらしたで報告書まとめないと、というか頭痛いな。足元もなんかフラフラするというか?
そして、それは突如として現れる。突然のブラックアウト。音が急に遠くなり足元から全身にかけて力が抜けて、頭を支えられなくなる。支えもなくぶっ倒れる。頭は守ろうと思ったが身体が倒れる方が早かった。頭をコンクリートにぶつけて激痛が走る。
うぅっ、いたい…たんこぶできた〜
くらいの判断力しかない。たんこぶで済むならいいのだがこの猛暑。太陽でアチアチになったコンクリートで寝ることになるなんて。というかコレは熱中症か? 目眩みたいに暫くしたら起き上がれるものなのかな? いや、ムリでは?
と、まぁ案の定死んだ。おそらく原因は熱中症だ。もしかしたらコンクリートに頭をぶつけて内出血を落としたかもしれないけど。
我ながら水分補給をよく忘れている。1日何も飲まないことだってよくあった。バカ暑い日の外回りくらいちゃんと水分補給しておけよ、と小一時間自分を問いただしたいものである。
こうして太陽系第四惑星地球アジア大陸日本東京出身のわたしは【アミュレット・ナイト・サーカス】の世界に転生したのだった。
━━━━はあ?!




