紙飛行機を折った。それだけ
1000文字チャレンジ
貴族の落とし種だと知ったのは5歳くらいだった。
「お前は俺の子供だ。さっさと来い」
母子二人で暮らしていたのにいきなり連れ攫われて、冷たい眼差しを向けてくる夫人と憎んでいるような視線を向けてくる。
母は元この家のメイドだった。父である貴族に逆らえずお手付きにされて捨てられた。
王族に嫁がせる娘が生まれなかったからたまたま手を出したメイドが女を生んだのだから連れ去った。それだけの話。
母の安否は分からない。
何度も逃げ出そうとしたが、逃げられず囚われの身の上――。
「薄汚い小娘」
「父上をたぶらかしたようだが、俺には効かないぞ」
夫人と夫人の子は何か気に障ることがあると顔を出して服の下に隠れる場所を鞭で叩いたり、床に座り込ませて踏みつける。
王族に嫁がせるつもりの娘なら扱いに気を付ければいいのに。
自由になる僅かな時間でごみ箱に捨てられていた紙を飛行機に折って、空に飛ばす。
「またやってるわ」
「紙が貴重なのにそれすら知らないなんて」
ひそひそと話している侍女たちに知っていると内心舌を出している。書き損じた紙なのだ再利用してもいいじゃないか。ただの気晴らしだ許してほしい。
紙飛行機は飛ぶ。私の代わりのように柵の外へ―――。
「ラーゲ公爵。国庫横領の罪で逮捕する」
寝耳に水だっただろう。いきなり大勢の騎士が現れて父を連れ去っていく。
ぜいたくな暮らしで湯水のようにお金を使っていた三人は実は国のお金を着服していたのだ。
夫人は自分は関係ないと金切り声をあげるが、その両手には大粒の宝石の嵌った指輪。部屋には山の様なドレスが溢れている。これで知らなかったとは言えないだろう。
息子も息子でいろんな女性関係で揉めていて、性犯罪者であったので同じように捕まっていった。
「貴方の情報提供のおかげで捕まえられました。感謝します」
騎士の一人――柵の外の紙飛行機を回収していたごみ収集の人が本来の格好だと体格いいなと感心してしまう。
平民育ちで何も知らないと思っていたのだろうこの家の者たちは。
自分たちが書き損じていた手紙の内容がかなり問題あるものだったのにそれに気付かず普通にごみ箱に捨てていた。それを紙飛行機にしたのだ。犯罪に気付くように。
これでやっと自由になれる。
あの日の紙飛行機のように外に。