望愛 1話
都内の大学に通う女の子、栗田望愛。黒いロングの髪を靡かせる彼女には人には言えない願望があった。
きっかけは小学校で体験したある出来事。仲の良い女の子友達3人とお昼休み中にトランプで遊び、負けてしまって罰ゲームと称して3人からくすぐられたこと。
罰ゲームは10秒ほどで終わったが、その日以来、望愛は思いっ切りくすぐられたい、という願望を募らせていく。
「今日も疲れたぁ・・・」
そんな望愛のこの日は、いたって普通の日だった。
いつも通り大学に行き、その後はアルバイトに向かい、それも終われば一人暮らしのマンションに戻り、寝間着に着替えて、眠ろうと寝室に入る。
(・・・?)
寝室に入った望愛はまず、足の感覚に違和感を感じた。寝室の床はフローリングの筈だが、今自分の足は草の生えた土を踏んでいる感触を感じている。
「え・・・?」
目をしっかり開けて辺りを見渡し、少し寝惚けていた頭が急速に覚醒する。
望愛は今、薄暗い森の中の少し開けた草原に立っていた。そして目の前には、森のど真ん中にあるにはかなり不自然なホテルが建っていた。
「これは・・・どういう、私は寝室に・・・。夢・・・?」
このまま考えていても仕方がないと思い、目の前のホテルに入る。
「おや?いらっしゃいませ」
ホテルに入ると、エントランスを掃除していたメイドが挨拶する。
「あの、その・・・ここはどこなのでしょうか?」
「ここは夢と現の狭間にある名も無きホテル・・・。最近ですと、欲望を叶えるホテル、などとインターネットとやらで呼ばれていたりするらしいですね」
「は、はぁ・・・」
思っていたのと違う答えに混乱する望愛。
「えっと、ここは夢と現の狭間、つまり半分夢の世界みたいな感じです。最初は皆さん『そんなファンタジーなことがあるわけ』みたいなことを仰りますが、事実なので受け入れてください」
「え?あ、はい。分かりました・・・?それで、帰るにはどうしたら」
「帰ろうと思えばいつでも帰れますが・・・、ふふっ」
メイドの少女は蠱惑的な笑みを浮かべると望愛に近づき。
「すぐに帰っちゃっていいんですか?」
耳元でそう囁く。
「っ!?」
望愛はびっくりして数歩後ろに下がる。
「ここに迷い込まれた方は、何かしらの欲望を募らせている方ばかりなのです。お姉さんも、そうなんですよね?」
「いや、私は・・・」
「そんな方の欲望を叶えて差し上げるのが、ここのホテルなのです」
「え・・・?」
「どうぞ、こちらに。お部屋に案内いたしますから」
メイドの少女はそう言うと受付の中に入り、何かを取り出す。
「こちらですね。こちらが、貴女様のお部屋のカギになります」
メイドの少女は、一般的なホテルのカギを望愛に渡す。
「部屋の・・・?あの、部屋に入ると何が?」
「それは私にも分かりません。何しろお姉さんがどんな欲望を募らせているのか分かりませんから。ただ、嫌な思いをさせることはありませんよ。多分」
「多分なんだ・・・」
「嫌な思いをたくさんしたい、等の欲望を募らせていた場合は、嫌な思いをすることになりますから」
「な、なるほど・・・?」
「さぁこちらへ。お部屋まで案内します」
メイドの少女に手を引かれ、3階にある一部屋の扉の前まで案内される。
「では私はこれで。どうぞお楽しみ下さい」
一度頭を下げて礼をすると、メイドの少女は去っていく。
「・・・よし」
一度深呼吸して覚悟を決めると、望愛は扉を開ける。扉の中は白く光り輝いており、中の様子を伺うことはできない。
もう一度深呼吸し、意を決して光の中に飛び込む。
「・・・?あれ、ここは・・・?」
眩い光が収まり、ゆっくりと目を開けると、望愛は夕暮れの学校の教室の中にいた。
「高校?」
「何してるの?望愛ちゃん」
望愛は教室の机の一つを、他の3人と囲ってババ抜きで遊んでいた。
「え、いや、何でもない」
「変なのー」
自分とババ抜きをしている他の3人にも見覚えがあった。
小学校の時に望愛をくすぐり、欲望を募らせるきっかけにもなった3人。
ウェーブがかかった黒いセミロングのくせ毛が特徴的な美佳。
茶色いショートボブの恵理那。
栗色の髪をサイドテールに結んだ悠美。
望愛は小学校の高学年で転校しており、3人ともそれ以来会っていないが、高校生姿の3人には小学校時代の面影があり、何よりあの時の出来事を何度も思い返していたため、すぐに気付いた。
(高校はもう卒業したのに・・・。卒業した後また制服を着るのって何か妙に恥ずかしい・・・)
場所が高校だからか、望愛の服装もいつの間にか寝間着ではなく高校の時に着ていた制服に変わっていた。
いろいろ考えているうちにババ抜きは進んでいき、望愛と悠美の一騎打ちになり、望愛がババを持つ。
「どっちかな~?」
(ここは私の願望を叶えるって、あのメイドの子は言ってた。じゃあここで負ければ・・・)
「こっちー!」
また、と期待を心に浮かばせると同時に、悠美がババではない方を取る。
「あがりー!」
「お疲れさま」
「ふっふっふ。それじゃあ望愛ちゃん罰ゲームね?ほら、机の上に寝て?」
「机の上に?・・・こう?」
望愛は言われた通りに、トランプがどかされた机の上に仰向けに寝る。すると3人は手際よく、望愛の両手両足を机の脚に結束バンドで固定する。
「大丈夫?痛くない?」
「うん、痛くはない・・・」
「この光景、ちょっとえっちだね・・・」
「それじゃあ罰ゲームの~、くすぐりの刑だ~」
掛け声と共に机に拘束された望愛を囲む3人が一斉に望愛のことをくすぐり始める。
「やぁんっ!っふふふふふ!あっ、だめっ!~~~っ!あっははははははは!」
望愛は一瞬だけ我慢するが、すぐに限界を迎えて大きな笑い声を響かせる。
「あぁ~~っはっはっはははははは!あぁっはっはっはっはっは・・・!はぁっ!はぁっ!んぅ~~~っ!」
体をくすぐられ、反射的に両手足が動き、そのたびに机がガタガタと音を鳴らす。
「やぁぁぁ~~~はっはっはっはははははは!あぁっはっはっははははははは!」
「昔からくすぐり弱いよねー望愛ちゃん」
「服の上からでこの反応。素肌を直接くすぐったらどうなっちゃうんだろう・・・」
「他に人もいないし、試してみよっか」
そう言うと3人は望愛の上着のシャツを少し捲り上げ、服の中に手を突っ込む。
「っ!?ふはっ!?あぁっはははははははははははは!」
望愛は急に強くなった刺激に、びっくりする。
「すごい声。そんなにくすぐったい?」
「かわいい・・・」
「もっとくすぐっちゃうよー」
素肌を直接くすぐられ、より大きな声で笑い悶える。
「~~っ!やぁっははははははははは!くすぐったぃっ!あぁぁっはっはっはははははははははは!」
「ここ?ここが弱い?」
「こちょこちょ・・・、こちょこちょ・・・」
「ほら、もっと笑って~」
「あっ!あははははははははっ!ひぃ~~やぁ~~~っはっはっはっはははははははは!」
「望愛ちゃん肌も綺麗よね~」
「わかる。普通に羨ましい」
「普段どういうお手入れしてるの?」
「あぁっはっははははははははは!や、めっ、~~~~~っ!」
「くすぐられながらじゃ流石に答えられないか」
そのまま5分ほどくすぐられ続け、ようやく望愛は解放される。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ・・・!」
「ごめーん望愛ちゃん」
「ちょっと夢中になっちゃった」
「そろそろお開きにしましょうか」
3人の内、恵理那がそっと望愛に近づき。
「またいつか、・・・ね」
耳元でそう囁いた瞬間、望愛の意識が途切れる。
意識が戻ると、望愛は自分の部屋の寝室のベッドの上で目が覚める。
「・・・夢?」
随分とリアルな夢を見たものだと思い、ベッドから体を起こすと、チャリンという音が鳴り何かが床に落ちる。
「ん?なに、これ?」
望愛はベッドに何かを置いたりしないので疑問に思いつつも、床に落ちたそれを拾おうとし、固まる。
「っ!?」
床に落ちたのは、あの時メイドの少女に渡されたホテルのカギだった。
「夢じゃ、ないの・・・?」
いろいろと考えを巡らせていたが、目覚まし時計のアラームの音で現実に引き戻される。
「ぇ、ヤバッ!?もうこんな時間なの!?急がないと遅刻するっ!!」
望愛はホテルのカギを机の上に置くと、急いで身支度を整えて家を出ていった。
続きは未定