第2話 黙示録の怪獣
アイドル歌手の絵葉リリスが、僕の目の前で服を脱ぎ、全裸になった。
リリスの白くて美しい裸体を、目の当たりにした僕だが、
「あなたも早く脱ぎなさい。男の子でしょう!」
国防省の女性職員、三石美聖に、きつい口調で叱責される。
今は国の非常事態で、僕は超兵器の砲手に選ばれたのだ。恥ずかしがっている場合ではない。
などと思っていると、リリスは早くも全裸のまま梯子を登り、巨人型戦車セイビアの胸部の操縦席に向かっている。
僕も、慌てて全裸になり、はしごを登ろうと上を見たら、
リリスのとんでもない姿をトンデモナイ角度から観ることになった。
なんという眺めだ。全人類のために戦う僕に対しての、神様からの、ご褒美なのか?
しかし、僕の恥ずかしい格好も、下から美聖に見上げられている。思春期の僕にとっては、これは、とんでもない状況なのだ。
そして梯子を登りきると、リリスは胸部の操縦席に乗り込み、少し遅れて僕は頭部の砲座に付いた。
すると、ナビゲーション・ブースに入った美聖が通信装置で話しかけてくる。
「準備はいい。神経系統のブルーツゥースを接続するわよ」
ブオォ〜ンッ。
全身に痺れるような感覚があり。僕は思わず声を漏らす。
「おっ、おおぉッ」
「あん、ああぁん」
リリスも、甲高い声で呻いた。そして美聖が、
「よし、二人とも接続状態は良好よ」
と、言って、この日はブルーツゥースのチェックだけで終わった。
この日の夕食は、豪華なフルコースのような料理がだされ、夜は高級ホテルのような個室で寝ることになる。
だが当然、僕はベッドに入っても、なかなか寝付くことはできなかった。
そして、この世界の混乱の始まりを思い返してみる。
それは小学六年生の冬休み。O阪の川にマッコウクジラが迷い込むという珍事が起こった。
この迷いクジラは発見から五日後に死んでしまうのだが、その直後から、海洋に巨大怪獣が現れ、次々に船を襲い、沈没させたのだ。
その巨大怪獣は、推定で全長四十メートル。今後は我が国に上陸すると予想された。
実は国防省は、この巨大怪獣の存在を何年も前から知っていて、極秘裏に超兵器の開発を行っていたのだ。
そして、三学期が始まった頃に、国防省は、この超兵器の適性検査を全地球規模で実施する。
僕は、この適性検査に合格して、対怪獣超兵器・巨人型戦車セイビアの砲手として選抜された。
まだ、小学生だった僕だが、学校へは行かず、毎日、区役所の一室でゲームのようなシュミレーション訓練を受ける日々が続く。
そして春。ついに巨大怪獣が上陸して、原子力発電所を破壊した。その大爆発は多くの人を殺し、放射能汚染により、国土の半分は人が住めなくなるだろう。
その原子力発電所の大爆発に巻き込まれても、巨大怪獣は健在で、今も、この首都へ向けて歩みを進めている。
そんな事を考えていると、深夜になり、その時、静かにドアが開いた。
「やっぱり眠れないようね」
部屋に入って来たのは、三石美聖だ。
「怖いんでしょう?」
「そんな事ないです」
「強がらなくても、いいのよ。まだ君は、こんな年齢なのだから」
「でも、もう、どうにもならないし」
「それでも私は、君の味方よ。君のためなら、何だってするつもりだし」
静かな夜だった。
「こ、怖い。家に帰りたい」
僕は、感情が抑えきれなくなり、美聖にしがみついて泣く。美聖の体からは、いい匂いがした。
「いいのよ。声を出して泣いて」
ベッドに腰掛けた美聖の、優しい声だけが僕に語りかける。