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第60話




 翌朝、ハリィメルが一階に降りていくと、母が目を見開いた。


「おはよう」

「……お、おはようハリィメル」


 ぎこちなく微笑む母の前を素通りして、食堂の席に着く。


「ハリィ……」

「私、まだ退学になっていないのよね?」


 ハリィメルが確認すると、母は首をがくがく上下に揺らした。


「ならいいわ」

「ハリィメル……」

「私、絶対に学校辞めないから」


 とりあえず、登校する体力を取り戻すために栄養をとらなければならない。

 ハリィメルはメイドが運んできたミルク粥をかっ込んだ。


 すっかり小さくなってしまった胃では食欲を戻すのが大変だったが、少しずつ食べる量を増やし、二週間ほどでどうにか元の体型を取り戻し、医師からも通学の許可を得た。


 こうして、泣きながら飛び出したあの日から約一ヶ月ぶりに登校したハリィメルが教室の扉を開けると、クラスメイト達がしんと静まりかえった。


「ハリィメル! もう大丈夫なのか?」


 いち早く駆け寄ってきたロージスを冷たい目で一瞥すると、ハリィメルは彼を無視してすたすたと自分の席を目指して歩き出した。


「ハリィメル……」

「誓約書はまだ有効ですので」


 とりつく島のない態度でそう言い放つと、ロージスがぐっと黙り込んだ。

 ハリィメルはつんとすました態度でロージスを無視した。ロージスは唸り声でも漏らしそうな形相でハリィメルを睨んでいたが、やがて諦めたのかすごすごと自分の席に戻っていった。

 それでも、ハリィメルが登校してきたことでロージスが安堵しているのは周りで見ていた者の目にも明らかだった。


「レミントンさん、もう大丈夫なの?」

「元気になってよかったわ」


 ロージスが引き下がると、女子達がわらわらとハリィメルの周りに集まってきた。

 ハリィメルはにっこり微笑んだ。


「ええ。ありがとうございます。皆さんには、休んでいる間の授業のノートを持ってきていただいたりしてご迷惑をおかけしました」

「そんな、全然気にしなくていいのよ」

「病み上がりなのだから無理はしないでね」

「なにか困ったことがあったら言ってちょうだい」


 ハリィメルはクラスメイトの女子達の顔を見渡して、これまで教科書ばかり見ていて、彼女達の顔を見てまともに話したこともなかったことを反省した。


「では、お言葉に甘えてお願いがあるのですが」


 ハリィメルは思いきってそう口にした。


「なあに?」

「なんでも言って」

「実は……私、次のテストで絶対に一位をとりたいんです」


 ハリィメルの言葉を聞いて、女子達がちらっとロージスの方に目をやる。こちらの会話を盗み聞きしているロージスがぴくっと肩を震わせる。


 ロージスの頼みで公爵の元へ直談判に行ったクラスメイト達は、当然、次のテストでロージスが一位をとったらという条件を知っている。


「次のテストも、その次のテストも、卒業するまで、一位の座を渡したくないんです」


 ハリィメルがきっぱり言うと、女子達は顔を見合わせた。


 ロージスがハリィメルに婚約を申し込むためには、テストでハリィメルに勝たなければならない。

 それを知った上で、ハリィメルが卒業まで一位をとり続けると宣言するのであれば。


「ですから、私が休んでいた間の授業の範囲でわからないところを、皆さんに教えていただきたくて……」

「まあ! そういうことなら協力するわ!」

「私も! 外国語なら教えられるわ」

「放課後にみんなで勉強会をしましょう!」


 女子達は喜々としてハリィメルを取り囲んだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 嘘告してきた最低男の訳わからん最低な申し出になぜクラスメイトが協力したのか不明でしたが、いやお前何言ってんだ?バカなの?お前がそんなこと言えると思ってんの?って思ってた生徒もちゃんといたっ…
[一言] 父親たちー 今の状態って、テストの結果がどうであっても、口約束程度なんだよね いくらロージスが「父に言われた」と伝えたとして、本当なのかは確かめようがないし、どちらかが「そんなの知らない」…
[良い点] あっさり許すとしなかったのはよかった [気になる点] クラスメイトは嘘告された主人公を相手から庇う→主人公の危機に、その相手との婚約をおす→しかし主人公が嫌がっているようだと行動を変える …
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