第4話
「なんなんだ、あの女!」
図書室から逃げ去ったロージスは、様子を見にきたダイアンとティオーナと合流して憤りを吐き出した。
「人前で会話できませんって、すました顔で言いやがって! 俺だって好きで声をかけてるわけじゃねえんだよ!」
「うーん。ロージスに告白されたら、もっと舞い上がるかと思っていたんだけど、レミントン嬢はずいぶん冷静だなあ」
「冷静っていうか、誓約書を用意していたのがそもそもおかしいでしょ」
彼らの計画では、美貌の公爵令息に見初められたと思い込んだハリィメルがもっと恥じらったりするはずだったのだが、実際は恥じらうどころか優秀な文官みたいな手際の良さで誓約を交わされてしまった。
「ねえ、もしかして、嘘告だってばれたんじゃない?」
ティオーナが眉を曇らせる。
「ロージスから呼び出された時点で、なにか企んでいると疑っていたとか」
「あり得るな。レミントン嬢はロージスの告白が本気か嘘か疑って、試しているのかもしれない」
「試す?」
ダイアンの言葉に、ロージスはぴくりと眉を跳ね上げた。
「ほら、あんな態度を取ってロージスが怒るかどうか試しているんだよ。本気で好きな相手ならちょっとそっけなくされたぐらいで諦めないだろう? 怒って話しかけてこなくなるなら、本気で好きじゃなかったってことだ」
「疑り深いわねー。さすが才女」
ティオーナがダイアンの言葉に同意して苦笑いする。ロージスは「チッ」と舌打ちをした。
自分の方からあんな地味女に声をかけなければならないと思うと腹立たしい。
しかし、このまま引いたら、あの才女は「やっぱり本気じゃなかったのね。私が簡単に引っかかると思ったのかしら?」などとロージスを馬鹿にしてせせら笑うに違いない。
ロージスはぎりりと奥歯を噛みしめた。
かくなる上は、ハリィメル・レミントンを心の底から惚れさせて、ロージスにめろめろになったところで冷たく振ってやる。
失恋のショックでぼろぼろになって成績を落とすがいい。
「ダイアン、ティオーナ。あの女を俺に夢中にさせるのに協力しろ。「人前では話せません」なんて二度と言えないようにしてやる!」
ロージスはポケットに畳んで入れていた例の書類をつかみ出して握り潰した。