第36話
なんだかんだで夏休みはあっという間に終わってしまった。
休み中、ジョナサンとは四回会ったが、彼はいまだに好きな子に告白できていない。どころか、最後に会った時は「彼女に嫌われたかもしれない……」とえらく落ち込んでいた。
なんでも、急に態度がよそよそしくなり、話かけようとしても逃げられてしまうそうだ。
ジョナサンはこの世の終わりのような顔をしていたが、ハリィメルはそれほど深刻な事態とは思えない。これまでの話を聞いていて、きっとその幼なじみもジョナサンのことが好きなんだろうと思っていたからだ。
張り合っているとのことだが、話を聞く限りジョナサンが一方的に突っかかっているのではなく、幼なじみの方からジョナサンにちょっかいをかけてくることも多いらしい。断言する。女の子は好きじゃない男の子にいちいちちょっかいをかけに行ったりしない。
(もしかしたら、ジョナサンが告白しようとしているのに気づいて、照れてしまっているだけかもしれない)
恋する女の子の気持ちはハリィメルにはわからないが、友達から恋人に変化する過程の最終段階『もだもだ期』を見せつけられているようで、ジョナサンと会った後はなんだかお腹いっぱいになったような気がする。
(なんにせよ、早く告白して上手くいくといいな)
そう考えながら登校したハリィメルは、教室に入るなり席に着いていたロージスに睨まれた気がして思わず戸口で立ち止まった。
(――なに?)
すぐに目をそらされてしまったため、勘違いかとも思ったが、ハリィメルが席に着くとロージスの席の方からじっとりと暗い視線を感じる。
何故かはわからないが、怒っているようだ。しかし、休みの間には一度も会わなかったのだから、怒らせた心当たりがない。
まさか、休み中に冷静になって考えたら、ハリィメルの行いの無礼さにいまさらながら気づいたとでもいうのだろうか。
(なんだかわからないけれど、こちらからは近づかない方がいいわね)
なにか言いたいことがあれば向こうからやってくるだろうと思い、ハリィメルはその日一日ロージスから向けられる視線の居心地の悪さに耐えたのだった。