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第28話



 放課後にロージスとふたりで勉強するのにすっかり慣れてしまったハリィメルだったが、その日は途中で乱入者があった。


「よう、おふたりさん」

「お邪魔しまーす」


 ダイアンとティオーナが笑顔で声をかけてきた。


「なんだよ、お前ら」

「いやー、最近ロージスのつきあいが悪いなーと思ったら」

「ふたりきりで勉強していたなんてねー」


 ダイアンとティオーナはロージスとハリィメルの隣に腰掛けながら白々しい台詞を吐いた。

 なにか企んでいるのかと警戒したハリィメルだったが、ロージスの様子を見る限り彼もふたりがやってきた理由を知らないようだ。怪訝な顔でダイアンとティオーナを見て眉をひそめている。


「いやあ。ロージスだけが学年一位の才女を独り占めしているのはずるいと思ってな」

「そうそう。テストも近いし、一緒に勉強したいなーっと」


 ダイアンとティオーナが軽い調子で言う。ハリィメルは内心で「冗談じゃない」と憤ったが、先に拒否反応を示したのはロージスの方だった。


「ふざけんな。お前らふたりで勝手にやればいいだろ。俺達の邪魔すんな」


 元はといえば自分こそがハリィメルの勉強の邪魔をしようとしていたことを忘れたようなロージスの台詞に、ダイアンが呆れたように肩をすくめる。


「でも、ここは図書室だから俺達が空いている席に座って勉強するのは自由だよな」

「そうよそうよ」


 ダイアンとティオーナのふたりに口で勝てないのか、ロージスがぐっと押し黙る。

 ハリィメルは溜め息を吐いた。自分には関係ないと思おうと、なるべく三人を視界に入れないようにして勉強に集中しようとしたが、ダイアンとティオーナがいるとロージスも落ち着かないようで「邪魔だ」「帰れ」と文句を垂れている。


(三人まとめて帰ってほしい……)


 そう思いながらふと目線を上げると、もの言いたげな顔の図書委員と目が合った。

 これ以上うるさくすると、職務に忠実な図書委員にハリィメルまで追い出されかねない。巻き添えになってたまるものか。


「ここは図書室です! 騒ぐなら退室してください!」


 ハリィメルが一喝すると、なんのかんのと言い合っていた三人がぴたっと口を閉ざした。


(男爵家の娘に叱られるなんて屈辱でしょうに。怒って帰ればいいんだわ)


 ハリィメルはふん! と鼻を鳴らして教科書をめくった。ロージスはともかく、ダイアンとティオーナはこれで出ていくかと思いきや、ふたりともおとなしく勉強道具を広げ始めた。

 ハリィメルはいらいらしながらもそれ以上はなにも言えないので黙っていた。

 しばし、カリカリとペンを走らせる音と、紙がめくられる音だけが響く。


 ダイアンとティオーナはそれから一時間ほどでお先に失礼と挨拶をして帰っていったが、ロージスはいつもと同じようにハリィメルを送ってくれた。

 次の日も、ダイアンとティオーナはやってきて、ロージスに睨まれながらもどこ吹く風で隣の席に座った。


「レミントンさんのノートとっても綺麗にまとめられているわね!」

「はあ……」

「レミントン嬢、この問題がわからなくてね。教えてもらえないだろうか」

「はあ……」


 誓約書を交わした相手はロージスだけなので、ハリィメルにはダイアンとティオーナを無視することはできない。

 ふたりとも、二、三言話しかけてくるものの、しつこくするわけでも騒ぐわけでもないので退室を迫ることもできない。ふたりがハリィメルに話しかけるたびにぎゃあぎゃあ言っていたロージスだけが危うく図書委員につまみ出されるところだった。


「いやあ。レミントン嬢のおかげで次のテストは乗り切れそうだよ」

「ええ。お礼もしたいし、テストが終わって休暇に入ったら四人で遊びに行きましょうよ」


 一週間ほど経ってから、ダイアンとティオーナがそう言い出した。

 それでハリィメルにも彼らの目論見がわかった。ガリ勉を籠絡するのに手こずっているロージスへの手助けのつもりなのだろう。ダイアンとティオーナであればハリィメルから無視されない。『勉強を教わったお礼に遊びに誘う』という大義名分も手に入る。


 ハリィメルは苦虫を噛みつぶした顔になった。




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― 新着の感想 ―
[一言] ハリィメルもどうしたいのかとモヤモヤ。 そもそも本気で夢にしがみつくなら嘘告に付き合うべきじゃなかったし(物語が始まらない!)、気が散らされてるなら早々に現状を解消すべきだし…うーん、若さか…
[気になる点] いい加減に「嘘こく」だって知ってること。 成績が下がれば母親に学校も辞めさせられて「結婚」させられるかもしれないことを三人組に言う方が無駄な疲弊をしなくてすむと思うんだが [一言] ハ…
[一言] とはいえうまく職業婦人になったとして学生時代になんの関係性も作れていないのは痛いのよねきっと
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