第15話
ハリィメルにとっては授業の合間の休み時間も予習や復習に費やす勉強時間だ。
だが、彼女以外の生徒にとっては友人達と楽しくおしゃべりする時間のようだ。隣の席で寄り集まって笑い声を響かせる少女達はなにも悩みがなさそうに見えて、その気楽さがうらやましい気もする。
「隣のクラスの子が階段から落ちそうになって、ロージス様に助けてもらったんですって」
「まあ! 素敵ね!」
「うらやましいわ!」
恋愛小説の一場面のような光景を想像しているのか、助けられたヒロインが自分だったらよかったのにと溜め息を漏らす。
聞きたいわけではないのに聞こえてくる話に、ハリィメルは内心で悪態を吐いた。
(そのかっこいい公爵令息は、地味でガリ勉な女を見下すために嘘告なんてするクズですよ)
そう教えてやったら、皆、幻滅するだろうか。
いや、誰もハリィメルの言うことなど信じまい。
ハリィメルだって、あの日、嘘告を目論む会話を聞くまでは、ロージスのことは賢くて真面目な好青年だと思い込んでいたのだから。
ハリィメルの足を引っ張るために、恋したふりをするような卑怯な人間だとは、思っていなかった。ハリィメルはいつだって、すぐ後ろに自分を追い抜かそうとするロージスが迫っていると思って、いっさい気を抜かずにテストに挑んできたのだ。
(……勝手ながら、よきライバルのようにも思っていたのかもしれないわね)
ハリィメルはふっと自嘲の笑みを浮かべた。
残念ながら、ハリィメルの「よきライバル」は消えてしまった。いや、最初からそんなものは存在しなかったのか。
「よきライバル」ならば、成績を維持するハリィメルの努力を認めてくれただろう。
間違っても、嘘の告白でこれまでの努力を踏みにじるような真似はしない。しないはずだ。
(でも、そろそろ飽きるでしょうね)
ハリィメルの無礼な態度に腹を立てて、嘘の交際を続けるのが馬鹿らしくなっている頃だろう。自分をちやほやしてくれる女の子にかまう方が遥かに有意義だと思い出して、ハリィメルなんかには見向きもしなくなる。
それでいい。ロージスにかまわれたい女子はたくさんいるのだから。
ハリィメルに労力を割いたって無駄だと、早く気づいてくれればいい。
ロージスに気づかせるためにも、次のテストでもハリィメルは一番をとらなければならない。嘘告なんかでハリィメルの足を引っ張ることはできないと、証明しなければ。
(負けないわ、絶対に)