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8話

 次の日の朝、私は頭が痛くてこめかみを押さえた。


「うぅ……何かしらこれ」


 私はそう言って体を起き上がらせると、扉がノックされ、ローリーがカートを押して部屋へと入ってきた。


「おはようございます。大丈夫ですか? こちらを。酔い覚ましの薬湯です」


 手渡された薬湯は苦々しそうな匂いがする。


 私はこれが二日酔いというものなのだろうかと思いながらぐっと一気に薬湯を飲み干した。


 しばらくの間は苦さと気持ち悪さで悶絶したのだけれど、ローリーが差し出してくれた飴を口へと入れてほっと息を吐いた。


「甘い……」


 口の中で溶けていくそれは、リベラ王国の飴とは違う感じがした。


「シュルトンでは、これは非常食にも用いられるんです。甘くて栄養価が高くて保存もきくので、貯蔵しておくのです」


「そうなのですね」


「はい。そうだ。シャルロッテ様、よければ城の中を案内しましょうか?」


「いいの?」


「もちろんです」


 私はその言葉にうきうきとして、ローリーと共に朝の支度を済ませると、簡単に朝食を済ませた。


 アズール様は朝一から訓練と、溪谷の視察等が入っているらしい。昼食は一緒に食べてくれるとのことだったので、私はそれを楽しみにしながら午前中は城の中を見て回ることにした。


 シュルトン城は、石造りの城であり、全ての窓に鉄格子がはめられていた。ただ面白いのが、至る所に外に出る扉があり、そこから町や広場が見下ろせる仕組みになっているのである。


「いつ何があるか分かりませんから、町の状況をすぐに外に出て確認できるように作られているのです」


「すごいですねぇ」


 暮らす場所が違えば城の形も違うのだなと、私は驚いたのであった。


 また、シュルトンはリベラと違い、無駄な装飾品などもなかった。


 貴族社会のリベラとは違い、シュルトンでは舞踏会などの煌びやかな行事はないとのことであった。


 そもそも広さはあっても住まう人の数は少なく、国王と国民の距離もすごく近いのである。


 だからこそ雨祭にも皆がアズール様のことを知っていても笑顔で輪を囲むのだ。


「素敵な国ですね」


「常に危険ではありますが、シュルトンの民は強いのです」


 それを誇っているローリーの言葉に、私はシュルトンのことをもっと知りたいと思ったのであった。


「シャルロッテ様、ここは図書室です。見ていかれますか?」


「見たいわ。いいかしら?」


「もちろんです」


 扉を開けてもらい中に入ると、本の香りがする。


 インクと紙の匂いはどこの国も共通なのだなと思いながら、私は本棚を見て回り、そしてシュルトンで育つ植物という本を手に取った。


 不毛の大地。だけれどそれでも作物を育てようとした人はいるのだ。


「あら、これはトルト」


 トルトとは、育てやすく実が付きやすい植物である。シュルトンでも育てようとした人がいたのだなと思ったけれど、中を読んでみると、うまく育たなかったことが記録と、何度も何度も失敗を重ねた上でやっと成功した記録が書かれていた。


 ただしやはり通常のトルトは育てることが出来ず、今後も改良の余地があるとのことで締めくくられていた。


「トルトか」


 たしかにこの不毛の大地であってもトルトならば育てられるかもしれない。


 そんなことを考えていると、ローリーは言った。


「なんでもいいから、植物が育てられる土地ならよかったのですが……」


 自国の生産率があがればシュルトンはより豊かになるであろう。


 他国からの援助がある為、貧しいと言うわけではない。ただし、だからこそもしそれがなくなればどうなるかは分からないのだ。


 私自身、この国に嫁ぎいずれこの国のためにと活動していく必要がある。


 たくさん学び、シュルトンの可能性を広げていきたい。私はそう思ったのであった。


 昼食の時間になり、私はローリーと共に昼食の会場へと向かった。


 アズール様はすでに着いており、私は昨日ははしゃぎすぎてしまったなと思いながら嫌がられていなかっただろうかと少し心配になった。


「ごきげんよう。アズール様」


 そう声をかけると、アズール様はうなずき、私の為に椅子を引いてくれた。


 リベラ王国とは違い、長い机で食事を摂るのではなく、丸テーブルで席も近い。


 なんだかこんなに近くで昼食を向かい合って摂るのに私は少し緊張する。


 シュルトンの食事は基本的には食べきれる量を出してくれるのだけれど、アズール様の食事の量には内心驚いてしまう。


 お国柄なのか基本的にスープにたくさんの野菜が入れて煮込まれている。また、肉は本当にドンっと出てくる。


 アズール様の肉は私の五倍はありそうな大きさであり、それがぺろりとなくなるのは見ていて気持ちがいい。


「シャルロッテ嬢、もう少し食べた方がいいのではないか? 味が好みではないか?」


 心配するような視線を向けられ、私は首を横に振った。


「いいえ。あの、元々このくらいしか食べないのです。ですが、アズール様はすごいですねぇ。ふふふ。魔法みたいに消えていきます」


 私の言葉にアズール様は笑う。笑うと、少し子どもっぽく見えるので可愛らしいなんてことを内心思ってしまう。


「俺が大食いというわけではないのだ。はは。魔法か。それならば大抵の者が魔法使いになってしまうな」


「そうなのですか?」


「あぁ。そこにいるローリーは俺よりもよく食べるぞ」


「え!?」


 私が驚いて振り返ると、ローリーは何故か少し自慢げに笑みを浮かべている。そして小さな声で私に言った。


「私の旦那の方が良く食べます」


 食べる自慢はもしかしたらシュルトンの国柄なのかもしれない。私はそう思いながら、ローリーが結婚しているということに驚いた。


「結婚していたのですか?」


 尋ねるとローリーはちょっと照れくさそうにうなずいた。


「はい。新婚です」


 結婚をしても働けるということにも衝撃を受け、シュルトン王国とリベラ王国とではやはり違うことが多いのだなと、私は思ったのであった。



最近、美味しいものが食べたいと思った時に、Twitterにて上がってたご飯の画像とかを参考にして作ったりします(●´ω`●)お腹パンパンになるので、おすすめです。

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