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6話

 扉がノックされてアズール様に繋がっている私室の扉から声を掛けられる。私は驚いてどうしようかと立ち上がると、鍵を開けて扉を開いた。


「あ……す、すみません。煩かったですか?」


 涙がぽたぽたと零れ落ちる中、アズール様を見上げると、アズール様は驚いた表情を浮かべると、慌てた様子で言った。


「何かあったのか? すまない。俺は普通よりもかなり耳が良くてな……君の泣き声が聞こえて……何が、あったのだ?」


 こちらを心配するように、窺うような瞳に私はどう答えたらいいのだろうかと思っていると、アズール様が私を共同の私室の方へと手招いた。


「お茶でもどうだ? 先ほど執事に準備してもらっていたのだ。さぁこちらへ」


「すみません。はい」


 私はアズール様に招かれるままに共同私室へと入り、ソファに腰掛けると、アズール様が手慣れた様子でお茶を淹れてくれた。


 私は温かなそれを一口飲むとほうっと息をついた。


 すると、涙がやっと止まってきた。


 アズール様はハンカチを出すと、私の瞳からこぼれた涙を優しくぬぐった。


 私は優しい人だなと思いながら、正直に答えることにした。


「私が婚約解消をしたことはお聞きになっているかと思うのですが、私、これまでずっと感情を抑えてきておりまして、それで、ここに着いたら、なんだか涙が止まらなくなってしまって……お手を煩わせてしまい申し訳ありません」


 私の言葉に、アズール様が眉を少し寄せる。


「一応、その、お父上から手紙で聞いてはいるんだが……もしよければ、話を聞かせてもらえないか?」


 私はいいのだろうかと思い尋ねた。


「あの、お気を悪くされるのでは?」


「いや、君のことを知りたいんだ。嫌でなければ聞かせてほしい」


 父からは第一王子側からの婚約解消要請で解消したということだけを伝えていると聞いている。


 私は話せる部分だけを選びながら静かに口を開いた。


「そんなに難しい話ではないのです。一部話せないところがあるのですが、簡単に言えば、私は好きだったけれど、第一王子殿下は私のことを好きではなかったという、だけの話なのです」


 簡単にざっくりとそう言うと、アズール様は私のことをじっと見つめてきた。


「……好きだったのか」


 そこを尋ねられるとは思っておらず、私は小さくこくりとうなずいた。


「あ、でも、もう今はすっきりとしています。私が第一王子殿下に愛してもらえなかっただけの……ことっ」


 そう呟いた瞬間、私は自分の中に抑えていたセオドア様の“お前が俺に愛されなかったのが悪い。それだけのことだ”という言葉を思い出してしまい、涙が溢れてきてしまう。


 もう泣きたくないのに、フラッシュバックするように頭の中にその言葉が思い出されて胸の中が締め付けられる。


「す、すみません。もう、割り切ったつもりではいるのですが……」


 こんなにめそめそとした女でいたいわけではない。愛情はもう打ち消してきたと思っているのに、どうしても、記憶が蘇ってくるのである。


 私の頭を、優しくアズール様が撫でた。


「君は優しいのだな。だから全部自分のせいにしてしまう」


「え?」


「……すまないのだが、ある程度はこちらも王国のこれからがかかっているので調べさせてもらっているのだ。だから、君が悪くないことは知っている」


 その言葉に、私は首を横に振った。


「いいえ。私が、愛して、もらえなかったのがいけないのですわ。すみません」


「ふむ。なるほど……わかった。では、俺が貴方をこれからはしっかり愛そう」


「へ?」


 突然の提案に戸惑うと、アズール様は私の手を握り歯を見せて笑った。


「俺の妻となる人を、これから誠心誠意愛し、愛しみ、そして大切にすることをここに誓う。もちろん浮気などしない。当り前だがな」


 髪の毛を指ですくわれて唇を落とされる。その仕草に私はドキドキと心臓が煩くなるのを感じていると、真っすぐな視線を向けられて顔が熱くなった。


 先ほどまで煩いくらいに聞こえていた雨音がピタリと止まり、窓の方へとアズール様が視線を向けた。


「やんだ……か。だが、本当に久しぶりの雨だったな……明日は雨祭だ」


「え?」


 アズール様は私の頭を撫でながら言った。


「魔物は雨が嫌いなようで、雨が降ると現れないのだ。だから雨が降った翌日は雨祭が町で開かれる。城下町ではあるがそこまで大きな町ではない。皆で雨を喜んで祭をするのだ。明日一緒に行こう」


 そう告げられ、私は楽しそうだなと思い心が浮足立つ。


「はい。ぜひ、一緒に行きたいです」


「あぁ。ふふふ。君が来て雨が降ったからなぁ。明日、君は皆に幸運を運んできたと言われるだろうから覚悟をしておいた方がいい」


「え?」


 笑顔でまた優しく頭を撫でられたのであった。


 その日の夜は久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。気持ちがよく、心が晴れ渡っているかのような気がした。


新しい傘が欲しいですね。雨祭を想像しながら思いました。雨の日に新しい傘を下ろす日、なんだかワクワクします(*´ω`*)


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