3話
「はぁ……マロ―公爵よ。どうにかならないのか」
王座の前にて現リベラ国王の言葉に、シャルロッテの父であるマロ―公爵は頭を下げたまま言葉を返す。
「第一王子殿下より婚約解消の書類を受け取り、両人が同意して神殿に提出しておりますので、どうにもなりません」
その言葉に国王は大きくため息をつくと、ぎろりと自分の息子である第一王子セオドアを睨みつけた。
「弁明は」
低いその声に、セオドアは焦った様子で声をあげた。
「父上! シャルロッテには了解を得ております! 私は、私は結婚相手くらいは自分で決めてもいいではないですか!」
国王はその言葉に深々とわざとらしく大きくため息をつく。
「シャルロッテ嬢から側室の話もあったとか。何故それを受け入れなかった」
「何故愛する人と結婚してはならないのですか! それに私はシャルロッテを愛していない! 彼女も私のことを愛してなどいません!」
国王は手に持っていた杖をドンッと地面へと打ち付け、そして声は静かであるが黙らせるような威圧的な雰囲気を漂わせる。
「……お前の目は節穴か。シャルロッテ嬢のあの献身的な姿を見て……はぁ。もうよい。マロ―公爵。愚息が申し訳なかったな」
自身が今まさに見限られたことにセオドアは気が付いていないのだろう。話が映ったことに多少ほっとした様子である。
それを横目で見ながらマロ―公爵は国王が別の手を使ってシャルロッテを王家へと引き入れる前に打って出た。
「シャルロッテは第一王子殿下との婚約が解消され、現在婚約者がいない状況です。そして年頃の者達はすでに婚約済み、そこで提案がございます」
「ほう」
マロ―公爵は国王の視線に威圧されながらも、しっかりとした声ではっきりと述べた。
「我がリベラ王国は、隣国シュルトン王国が魔物の森からの魔物の侵攻を防いでくれているおかげで魔物被害がありません。そしてシュルトン国王はまだ未婚とか」
その言葉で全てを察したのだろう。国王は顎髭を撫でながらしばらくの間瞼を閉じると、片目を開けた。
「……シュルトン王国は、かなり厳しい環境だが」
それこそシャルロッテが求めている不毛の大地だという。魔物が影響しているのであろう。
だがしかし、不毛の大地ではあるが魔物の侵攻を防いでくれることから周辺諸国からは支えられており国として機能しているのだ。
シュルトン王国がなくなれば魔物が流れてくることが分かっているからこそ、支援を怠る国はない。
魔物は簡単に倒せるものではなく、シュルトンに住まう者だからこそ倒せると考えられているのだ。
「娘は、第一王子殿下の元婚約者。この国にいても、明るい未来はないでしょう。静かに暮らしたいと申しておりますのでシュルトン王国でも良いかと。ただ、私の方から娘にしっかりと持参金は持たせる予定です」
指で王座をトントンと叩く国王は、ちらりとセオドアを見た後、小さく息をついた。
「わかった。では私からもこれまでの頑張りを称え褒奨を出す。シャルロッテ嬢にはすまなかったと伝えてくれ」
「ありがとうございます」
ここで手打ちかと、マロ―公爵は思いながら、旨く話がまとまって良かったとほっと一安心する。
ただ、セオドアは納得していない様子でこちらを睨みつけている。
マロー公爵としては、娘を傷つけられたうえあのような視線を向けられて腸が煮えくり返るけれども、シャルロッテが我慢したのだからとそれを押さえつける。
その後マロ―公爵は国王と褒奨についても話をまとめた後、シュルトン王国と今後連絡を取っていく旨を伝え、そして屋敷へと帰るつもりであった。
ただ、廊下にてセオドアに止められてしまう。
「第一王子殿下、どうかなさいましたか?」
「マロー公爵。一応言っておくがマロー公爵家に害を為そうとしたわけではない。分かってくれるな?」
おそらくは今後後ろ盾がなくなったことで、マロ―公爵がどのように出るのか心配しての声かけだろう。
マロ―公爵はにこやかに笑みを浮かべて言った。
「もちろんでございます。殿下のご意思は分かっております。我が家は王国の繁栄を今後も祈っております」
「そうか! はは。なら良かったのだ。遺恨は残したくないのでな」
セオドアはそう言うとマロー公爵の方をポンポンと叩いて廊下を立ち去って行った。
マロ―公爵は上着をその場で脱ぐと、侍従へと手渡した。
「捨てておけ。では、屋敷へ帰るぞ」
「はい」
シャルロッテがリベラ王国から出て行かなくてはならないほどに傷つけたというのに、涼しい顔をしているセオドア。
マロ―公爵はにやりと笑みを向けた。
「若造が。笑っていられるのも今だけと思え」
今でこそ温厚なマロ―公爵だが、結婚する前までは今とはかけ離れた性格をしていたことを若い世代は知らないのであった。
おはようございます(*´▽`*)
今日も一日が始まりましたが、布団から出たくない日々ですね。おやすみの方は、ゆっくりしましょう。お仕事の方も無理せずぼちぼちいきましょう。めっちゃ忙しい人は無理なさらずに(/ω\)