25話
セオドア様が持ってきた物は、私へのプレゼントのようで、ドレスや宝石、装飾品など多岐にわたった。
私はお礼を言いながらも、シュルトンでは不必要なものばかりだなと内心で思ってしまう。
「シャルロッテ嬢の煌びやかな装いが目に浮かぶようだ……そのような粗末な服……あ、失礼」
確かに今の私はシャツにズボンであるが、しっかりとした生地で作られており私は好んでいるものだ。
ここではもしもの時には必要な装いであり、だからといって粗末な装いなわけではない。
「シュルトンの生地はとても丈夫で破れにくく、リベラで買おうと思っても変えないほどの値がするのですよ」
あくまでも自国で流通する分なので他国で売るとなればかなりの金額になるだろう。
するとセオドア様はバカにするように鼻で嗤い、それからアズール様の視線を受けて慌てて姿勢を正す。
先ほどからアズール様の視線を気にしつつも、こちらを小ばかにするような見下すような態度に、私はこんな人だっただろうかと、自分がいかにセオドア様という人間を見れていなかったのかを感じた。
セオドア様に頭を下げる人ばかりの関係性しか見えていなかったからなのだろう。
それからセオドア様も着いたばかりで疲れているだろうと、一旦私とアズール様は部屋を退席し、また夕飯を共にすることになった。
明日には帰っていただきたいと内心思ってしまう自分がいる。
セオドア様と別れ私が廊下で小さくため息をつくと、アズール様に手を握られる。
どうしたのだろうかと顔をあげると、少しだけこちらを見て心配そうに、アズール様が言った。
「……大丈夫か?」
気遣ってくれているということに、私の胸はくすぐったくなる。
私は手を握り返し笑顔でうなずいた。
「大丈夫ですよ」
そう答えるけれど、アズール様はとても心配そうにこちらを見つめていて、可愛らしいなと私は内心思ってしまう。
こんなにも逞しく凛々しい人を可愛いと思ってしまうなんて。
私は、アズール様が愛おしく感じて頬が緩む。
この想いを言葉にしてちゃんと伝えたい。そう思った時であった。
警笛の音が一回鳴り響き、久しぶりのその音にアズール様は視線を向けると私に言った。
「念のために確認をしてくる。すぐに戻ってくる。よいか?」
私はうなずく。
「もちろんです。お気をつけて」
「あぁ。では行ってくる」
アズール様は部下の騎士達と共に駆けて行き、私はその背中を見送る。
久しぶりの光景に、どうか無事に帰ってきてくれますようにと願う。
ただ、魔物が出た後は渓谷の調査や他に魔物が入っていないかなどの確認がある為、帰ってくるまでに時間がかかるはずだ。
「セオドア様との夕食は……二人になりそうね」
それに気分が重くなるけれど、仕方のないことである。
私はその後一度部屋に戻ると、祈りを捧げに向かい、それから夕食の身支度を整えていく。
そして夕食はセオドア様と共にしたのだけれど、私は本当にこんな人だっただろうかと内心驚いていた。
今まで、セオドア様は私のことをある意味一定の距離感で接していたからこそ、見えていなかった一面なのだろう。
私のことを一つ一つ褒めたり、アズール様のことをさりげなく下げたりする言いように、こんなにも卑屈な人だったのかと内心幻滅していた。
「こんな不毛の大地、はぁぁ。君が可哀想でならない」
その言葉にはさすがに呆れてしまった。
「可哀想ですか?」
「あぁ」
憐みの瞳で見つめられ、私は呆れが苛立ちへと変わる。
こんな風に言われる理由はない。
私は背筋を伸ばすと言った。
「シュルトンは素晴らしい国です。私はここに来れて良かったと思っています」
「あー……はぁ、そうか。そんな強がりなど今は俺だけなのだから、する必要はない」
先ほどまでは口調が私だったのが、俺に変わる。
昔から私の前では俺という風に自分のことを言う癖があった。
けれど今ではそれをされるほど自分はセオドア様の身近な存在ではない。
「強がりではありませんわ。私、シュルトンに来てから本当に幸せなのです」
「幸せ? ふっ。だがアズール殿もお前のように笑いも泣きもしない女、本当は嫌なのではないか? なぁ、今なら俺の元へ帰ってきてもいいぞ」
突然の言葉に、私は驚きながら心臓がバクバクするのが分かる。
「突然何を」
「お前だって本当は俺の元へ帰ってきたいのだろう。こんな陰気臭い場所にいたいわけがないだろう。はぁぁ。無理することはない。帰ってきたいならば来させてやる。俺の婚約者に戻れるように手はずは整えてある」
その言葉に、私は次第に腹が立ってきた。
何故そんなことを言われなければならないのであろうか。
私は今幸せであり、セオドア様の元に戻りたいなどと思ったことはない。
むしろセオドア様の婚約者であった頃の自分の方が辛かった。
「……どうやらワインに酔ってしまわれたようですね。今の発言聞かなかったことにしますわ。……では、私はこれで失礼いたします。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
そう告げて立ち上がると、セオドア様が慌てた様子で言った。
「どうしてそんなにかしこまっているのだ! 俺とそなたとの仲だろう!?」
仲とはどんな仲であろうか。
「あの、私達そのように親しくないと思うのですが」
「な!? シャルロッテ嬢!?」
驚いた声を出すセオドア様に、こちらが驚きたいくらいである。
セオドア様は立ち上がると私を止めようと私の元へとやってきて腕を掴んだ。
「こちらが優しくしていれば付け上がり、どういう事なのだ!?」
現在は魔物が出没したという事で騎士は出払っており、部屋には執事とローナだけである。私は視線で私の間に入ってこようとしたローナを制した。
「セオドア様、失礼ですが、はっきりとお伝えいたします。私はこの国にこられて幸せです。セオドア様の婚約者に戻るつもりはございません。私はアズール様と結婚するのです」
そう告げると、セオドア様は目を見開き、それから笑い声をあげた。
「はっははっははは!」
一体何なのだろうかと思っていると、お腹を抱えて笑ったセオドア様は言った。
「残念だな。それは無理だ」
「は?」
一体何を言っているのであろうかと思っていると、警笛が二回鳴る。
その音に、私は驚き目を丸くした。
セオドア様が笑い声をあげたのを聞いて、不安が胸をよぎっていく。
せおどあぁぁぁぁぁ!
土曜日完結予定となっております!最後までお付き合いよろしくお願いいたします(●´ω`●)
 






