21話
「わぁぁ。大きくなっているわ」
私はアズール様にお願いをして、王城の横にあった不毛の大地であった場所を借りると、そこに小さな畑を作ってみた。
本当に小さな畑で自分で管理できる分だけ。
私はこうやって自分が野菜を育てるなんて思ってもみなかった。ただ、不毛の大地と言われていた場所に、緑が生え、そして生き生きと伸びる姿に心揺さぶられた。
それをアズール様に話したところ、何か育ててみてはと言われた。
アズール様は、恐らく花か何かを想像していたのだろうけれど、私は迷わず野菜を選んだ。
このシュルトンの地が不毛の地では無くなったならば、野菜が育ち、自国の生産も増やせるかもしれない。
そうなったら、きっと今よりも国はさらに豊かになる。
小さな畑はしっかりと耕し、畝を作り、イモ類を植えた畑と豆がなるという苗木をもらい、それの為にツタが伸びやすいように支柱を用意した。
やっと地面に育った緑を抜いてしまうのがもったいない気がして、畝と畑の場所以外にはたくさんの雑草が生えている。
風が吹けば芽吹いた花々が揺れ、花と土の香りがふわりと香った。
「シュルトン王国が、もっともっと、笑顔のあふれる国になるといいなぁ」
私がそう呟くと、後ろから笑い声が聞こえ、振り返るとアズール様が立っていた。
「ははっ。シャルロッテ嬢は、本当に可愛らしい人だな」
「あ、アズール様! どうされたのですか? お仕事中なのでは?」
「休憩時間だ。それにしても、ほら、土がついている」
私の頬を指で拭うと、アズール様は畑を見て声をあげた。
「まさか王城の横の、枯れた地でこんな畑が出来るとはな。しかも結構よく育っているな」
「はい。結構よく育ってくれているんです、ほら、少しずつ大きくなって、先日一つ花が咲いたんです」
私が指をさすと、アズール様は驚いてすごいなぁと言葉をこぼす。
空も青く晴れ渡っており、心地の良い陽気である。
風が吹き抜けていくのを感じていると、アズール様が小さくため息をついてから、二通の手紙を懐から取り出し、私に差し出した。
「君の父上からと、あと、リベラ王国から一通手紙が届いた……すまないが、嫌な予感しかしない」
一体なんだろうかと思いながら私は手紙を受け取り、まずは父からの手紙、そして次に王国からというか、セオドア様から届いた手紙を開いた。
私は、静かに読み終えると、手紙を畳み、そして視線が地面を映す。
風に揺れる花を、一瞬ぼうっと見つめ、そして顔をあげて青空を見上げた。
「君の父上から、俺は別に手紙をもらい、状況は把握済みだ。ただ、そのセオドア殿からの手紙の内容までは知らない」
アズール様の言葉に、私は瞼を一度閉じて、それから深呼吸をするとアズール様へと視線を戻した。
見上げるほどに大きな体、そして凛々しい姿。
私はゆっくりと口を開いた。
「私への非礼を詫びる謝罪の為の訪問。私の知るセオドア様であれば、この機会に私を連れ戻そうと考えると思います……お父様からの手紙では、恋人に振られたことや第六王配として婿入りが決められたことなど記されていますが、セオドア様からの手紙では謝りたいと言う言葉だけが記されているので……おそらく……」
「……君の父上もそれを危惧しているようだな」
アズール様は私のことをじっと見つめる。
「俺は君を譲る気はないぞ」
はっきりとそう告げられ、私はアズール様の瞳を真っすぐに見つめた。
アズール様は私のことを真っすぐに見つめながら、私の手を取り、そしてもう一度はっきりと言った。
「君は……まだセオドア殿に気持ちが残っているかもしれないが、セオドア殿より俺の方が絶対に君を大事にする。泣かせない。笑顔でいてもらえるよう努力する。はいそうですかとセオドア殿になど譲る気はない」
私の心臓はドキドキと高鳴り、真っすぐに見つめてくるアズール様の視線から逃れるように下を向く。
嫌なのではない。
そう言ってもらえたことが嬉しくて、恥ずかしくてたまらない。
「シャルロッテ嬢。俺は、君が嫌だと言ったとしても、君を国には返すつもりはない……すまない」
突然謝るアズール様に私は慌てて顔をあげた。
「いいえ! そう言ってもらえて、嬉しくて!」
アズール様が驚いたように目を開く。
「嬉しい?」
私は口を手で押さえ、恥ずかしさから頬に手を当てる。
「あ、いえ、その……」
アズール様の手が私の手を握り、私のことを覗き込むようにして見つめる。
「シャルロッテ嬢、嬉しいとは? 俺の気持ちが嬉しいということか?」
「あ、えっと」
恥ずかしくてたまらなくて目を逸らそうとするけれど、アズール様に腕を引かれ、私はアズール様の胸の中へと抱き込まれる。
「俺に抱きしめられて、嫌か?」
分かっていて聞いているのではないかと私は思う。
アズール様の腕の中で、私は身を固くしていたけれど、おずおずとその背中に手を回す。
「い、嫌では、ありませんし、むしろ……嬉しいです」
私から抱きしめ返されるとは思っていなかったのか、アズール様の体が少し驚いたように揺れた。
アズール様から心臓の音が聞こえてくる。それは、私と同じようにドキドキと煩くなっていた。
恥ずかしさが込み上げるけれど、それでも幸福の方が勝って、私はぎゅっと抱き着く。
温かくて、幸せを感じて、顔を摺り寄せれば、アズール様からうめき声があがった。
「はぁぁ。可愛い。後悔してももう遅いぞ。俺はもう君を手放さない」
「はい」
セオドア様の婚約者であった時には、毎日が不安でしかなかった。
嫌われたくない思いと、どうしたらいいのか分からない不安。
けれどこのシュルトン王国に来てから、私は心から自由になり、そして自分を大切にしてくれる人に出会った。
愛されるということは、こんなにも幸福なことなのかと思った。
「シャルロッテ嬢。愛している」
そう耳元でささやかれ、私の心臓は跳ねる。
次の瞬間空から突如として光が降り始め、大地に美しい花々が咲き誇り始め、薄霧の雨が降り注ぎ空には虹がかかる。
アズール様は空を見上げ、私も同じように空を見上げながら驚いた。
「すごい」
「まさか……まさか、君か」
「え?」
アズール様は眉間にしわを寄せその後に口元に手を当てると、空を見上げてその降り注ぐ光に触れる。
「この香り……そしてこの感覚……」
アズール様は手のひらに落ちてきた光を握り締め、周囲を見回す。
私は一体どうしたのだろうかと思っていると、足元に、美しい花達が咲くのを見つめた。
可愛らしい花からは、母からもらった香水と同じ香りがした。
不思議ととても懐かしく、私は微笑みそれに手を伸ばした瞬間、花が弾かれたようにして光を放った。
そしてその光はふんわりと広がり虹を生み出す。
「まぁ……不思議な花」
思わずそう呟くと、アズール様は目を見開いたまま口にした。
「君の……能力はすさまじいな……まるで、魔物を退ける……ための……」
そこまで言葉にしてからアズール様は口元を押さえる。そして、顔をあげると言った。
「……少し、図書室に向かってもいいだろうか。見てもらいたいものがある」
突然どうしたのだろうかと思いながら私はうなずいた。
「はい」
一体何だろうかと思いながら私達は図書室へと向かう。その道中、アズール様は終始無言で何かを考えこんでいる様子であった。
図書室へと着くと、アズール様は奥へと進み、そして本棚の横に置いてある飾りを引っ張った瞬間、本棚が開き、隠し扉が現れる。
「こちらへ」
「……はい」
私はここは私が入ってもいい所なのだろうかと思いながら足を進めたのであった。
田舎民の私は、1日遅れ、もしくは2日遅れで書店に自分の小説が並ぶであろうと思い書店に見に行っているでしょう(●´ω`●)あるかなぁとウキウキしながら見に行って、まだ届いていないという現実にぶち当たる事でしょう。田舎では1日、2日遅れはざらです……(/ω\)






