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11話

 私は今の部屋で別段問題なく、ドレスというか洋服も用意してもらっていた分で十分だと思っていたのだけれど、アズール様はシュルトンの仕立て屋や、部屋の装飾品を見る店を手配してくださり、今日はその話し合いをするために、私とアズール様の私室へと集まっていた。


 今の部屋も白を基調にしており可愛らしいと思っていたのだけれど、アズール様は出来るだけ私が住み心地がいいようにと思ってくれているようだ。


 アズール様は、カタログを見つめながら真剣な口調で尋ねた。


「シャルロッテ嬢にはこういうものも似合う」


「どれですか?」


 そこに描かれていたのは、とても可愛らしいデザインであり、私はアズール様はこうしたものが好きなのだろうかと思った。


「アズール様の好みですか?」


「ん? いや、シャルロッテ嬢だったら似合うものだ」


 私はアズール様が私の為に考えてくれているのだと嬉しかった。こんな風に自分のドレスや似合うものなどを言われたことはない。


 些細なことかもしれないけれど、一緒に選んでもらえるということはすごく嬉しく感じた。


 ただし、アズール様は可愛いと思うと気持ちが昂るのか、今にもそれで揃えてしまいそうな勢いで話を続けていく。


 ただし勝手に選んで決めるのではなく、私の意見を最優先にしてくれるので一緒に選んでいて、すごく楽しかった。


 洋服はシュルトンのものなので基本的にシンプルなデザインが多い。ただ、アズール様的にはやはり私には煌びやかなものを身にまとってほしいと思っているのか、ひらひらの付いた洋服や、可愛らしい装飾があしらわれた洋服を見ては、私の方へと視線を向ける。


「ですが、もし緊急の時などは、シンプルなものの方がいいのでは?」


 私がそう尋ねると、アズール様が腕を組んでうなり声をあげる。


「……っく。シュルトンが平和な国であったなら……シャルロッテ嬢にもいろいろと着飾る楽しさを……すまない」


 私は慌てて首を横に振った。


「そんなことありません! あの、私は別段着飾るのが好きなわけではありませんし、このシュルトンの洋服もとても動きやすいです」


「だが、俺は見たかった」


「え?」


「すまない。欲望が漏れたようだ」


 私が驚いていると、アズール様が恥ずかしそうに口元を押さえている。横に控えていたローリーが小さく肩を震わせていた。


 今のは冗談だったのだろうかと思ったけれど、次第にアズール様の耳元が赤くなり始める。


「アズール様?」


「忘れてくれ」


「え?」


「すまない。いや、安全面を鑑みればシンプルなものが正解なのだが、それでもやはり、その、シャルロッテ嬢は美しいので何でも似合うし……いろいろ着てほしいという願望が、あるのだ。俺には!」


 最終的に、アズール様は声高らかにそういうと、両手で顔を覆った。


 私は、それを聞いて少し驚きながらも、尋ねた。


「アズール様は、こういうものを私が着ているのを見たいという事ですか?」


「も、もちろんだ……婚約者殿の可愛らしい姿を見たいと思うのは……当たり前だろう」


 今までそのような経験をしたことがなかったので、私が着飾る姿を見たいと思っていてくれることにも、内心驚いてしまった。


「あの、アズール様は喜んでくれるのですか?」


「もちろんだ。見たい。そりゃあ、シュルトンは常に危険と隣り合わせだ。だが、やはり可愛らしい婚約者を愛でる時間は必要だ」


 大きくはっきりとそう言われ、私は驚いたのだけれど、なんだかおかしくて、ローリーにつられて笑ってしまった。


「ふふふ。ありがとうございます。楽しみにしてもらっているなんて、思ってもみなかったです」


「あ、だが別段怪しげな服を着ろと言っているわけではないからな!」


 慌てた様子でそう補足され、私はうなずく。


 アズール様が着てほしいと言った服はどれも可愛らしい物ばかりである。


「ふふふ。ではこれも頼んでもよろしいですか?」


「あぁ! もちろんだ!」


 アズール様は上機嫌であり、私はこんなことで喜んでもらえるのかと驚いたほどであった。


 後日、新しく届いた洋服に私は袖を通した。


 首元に可愛らしいリボンが付いていたり、ズボンも、スカートのような見た目になっていたりして、可愛らしい。


 私は鏡の前でおかしなところはないか確認をすると、アズール様に見せに共同私室の扉を開いた。


 今日は一緒にお茶をする予定であり、私は喜んでくれるだろうかと思っていると、部屋に入って視線が合うと、アズール様は目を見開いた。


 そしてそれから私の目の前にやってくると、嬉しそうに笑った。


「可愛いな! うん。良く似合う! ほうほう! 可愛いな!」


 嬉しそうに楽しそうに、私の周りをくるくると何度も回りながら、可愛い可愛いと褒めてくれるものだから、私はこんなに褒められるなんていつぶりだろうかと、少し照れる。


「よし、定期的に新しい洋服を頼もう」


 アズール様のその一言に私は驚いた。


「そんな! 必要最低限で構いませんわ」


 すると、アズール様は首を真面目な表情で横に振った。


「シャルロッテ嬢。いいかい。君が可愛らしい服を着ると、町の女性は憧れる。すると服の需要が増える。すると動きやすくて可愛らしい服が増える。これは好循環の始まりだ」


「そ、そうでしょうか?」


 アズール様は真面目な顔で大きくうなずいた。


「そうだ。間違いない。シュルトンの服屋の未来は君にかかっている」


「私に……わかりましたわ。私、可愛らしいデザインの洋服をぜひ着させていただきたいですわ!」


「よろしく頼む」


 私達のやり取りをローリーはくすくすと笑いながら眺めていた。


 その後、私はアズール様と一緒に楽しい時間を過ごした。


 アズール様はいつも私を褒めてくるので、一緒にいてとても明るい気持ちになれる。


 そしてお茶の席が終わり、アズール様はまた訓練へと戻っていった。


「アズール様、喜んでくれて嬉しかったわ」


 私がそう言うと、ローリーはとてもいい笑顔で私の目の前に箱を差し出した。


「これは何?」


「アズール様がもっともっと喜ぶものを用意してみました」


「何?」


「どうぞ、開けてみてくださいませ」


 一体何が入っているのだろうかと、私はわくわくとしながら可愛らしいリボンを解き、箱を開いた。


「? これは、何?」


 中には、透けているレースの洋服らしいものが入っていた。


 私はそれを箱から取り出すと広げてみて、首を傾げた。


「ローリー? これは、一体何なの? 明らかに透けているし、洋服、ではないわよね? でもとても可愛らしいデザインだわ。アズール様は好きそう……でも……」


 ほぼ何も隠れないスケスケのレースの可愛らしい洋服である。


 何かの洋服の上から着る物かとも思ったけれど、それにしてみてもデザインがおかしい。


 私が鏡の前でそれを自分に合わせて首をかしげていると、忘れ物をしたのかアズール様が共同私室の扉を開き、帰ってきた。


「あ、アズール様、何か忘れものですか?」


 次の瞬間、アズール様が動きを止め、そして侍従を外へと追いやると扉をバンと勢いよく閉めて、私の元まで顔を真っ赤にしてやってくる。


「アズール様?」


「しゃ、シャルロッテ嬢! それは、その、自分の部屋で、その……」


 言い淀むアズール様に、私はこれの正体が何か知っているのだと思い尋ねた。


「リベラ王国ではないタイプの洋服なのですが、これはいつ着るのです? というか、どうやって着るのです? だってこれでは……」


 そこまで言ってから、私は手を止め、そしてローリーへと視線を移す。


 ローリーは私から視線を逸らし、笑うのを堪えているのか口元をぎゅっとつむんでいる。


 私は、服を慌てて箱に入れた。


「ろろろろ、ローリーからのプレゼントだったのですが、そ、そうですね。後で見ます」


「あ、あぁ。そうだな。そうした方がいい。夜にまた着てみ……すまない。何でもない! 上着を忘れたので取りに来ただけだ! で、では! 失礼する!」


 アズール様は慌てた様子で部屋から出て行き、私はローリーに向かって声を荒らげた。


「ローリー! これ、これ! いつ着る物か教えて!」


「ふふふふふ。すみません。あの、新婚夫婦が夜に着るナイトドレスです! シュルトンでは特別な日にも着るんですよ! 私からシャルロッテ様にプレゼントです」


「ちょっと待って! これを着るの!? し、下は!?」


「着ません!」


 シュルトンに来て一番の衝撃的なことは、私はこのナイトドレスだとそう思った。


 そして念のため騙されていないかと他の女性にも尋ねてみたけれど、皆が楽しそうな様子で盛り上がりますよと言っていたのを聞いて、私は、自分は着る勇気がいつか持てるだろうかと、そっと、ローリーからもらったナイトドレスは、棚の奥へと仕舞ったのであった。


「似合うと思いますよ?」


 シュルトンでは比較的当たり前のことらしいのことだけれど、私にはまだまだ着る勇気が持てないのであった。


スケスケ……(●´ω`●)

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