10話
アズール様が木刀を振るたびに、ブンッとすごい音がする。
私は騎士達の模擬の試合を王城で見た時にもそのような音を聞いたことがなかった。
そして現在目の前で行われる模擬試合で驚いたのは、そんなアズール様の重みのありそうな木刀を、他の騎士達も難なく受け止めていくという姿にある。
一撃一撃が嫌な音がするけれど、それでも確実に受け止めるその姿に驚いていると、ローリーが横で解説を入れてくれる。
「魔物と戦うので、一撃一撃が皆かなり重たいのですが、軽々見えるかと思います。ですが、あれをまともに受けたら死にます」
それはそうだろうと思いながら、見ていると、次第にアズール様が楽しそうに木刀を振り上げ、勢いをつけながらぶつかり始め、他の人達よりも動きが大きくなっていく。
巨体が宙を飛び打ち付けていく姿は圧巻であり、受けていた騎士は次第に苦悶の表情を浮かべ始める。
そして次の瞬間騎士は木刀を受けたけれどそのまま吹き飛ばされた。
アズール様は額の汗を拭うと言った。
「さぁ、どんどん行こうか」
楽しそうな笑顔をアズール様が向けると、騎士達は引き攣った笑みを返しながら、次々に挑んでいったのであった。
「アズール様、すごいわ」
他の騎士ももちろん、アズール様の剣を受け止め挑んでいく姿は、リベラの騎士よりも勇猛果敢に見える。
やはり実戦の差かもしれない。
そして恐るべきは、戦えば戦うほどに皆の動きが俊敏に変わっていく。
まるで何かスイッチが入ったかのように、集中して戦う姿に私は手に汗を握る。
「シュルトンの騎士は、常に命を懸けています。ですから、剣の重さが違うかと思います」
ずっしりとした重い剣。それはまさに、命を懸けた剣なのだ。
そう思うと、少し怖くもなる。
もし、アズール様が怪我をしたら?
もし、命を落としてしまったら?
私は、急にそれが怖くなったのであった。
模擬試合が終わり、アズール様は汗をタオルで拭うとこちらへとやってきた。
私は真っすぐにアズール様を見つめると、アズール様が小首を傾げた。
「どうしたのだ? なんだ、その、良い所を見せようと思ったのだが」
私は首を横に振ると、小さく息を吐いてからアズール様に告げた。
「ちょっとだけ、怖くなったのです」
その言葉に、アズール様は手に持っていた木刀を慌てた様子で近くにいた騎士に渡すと、両手を私の方へと見せた。
「こ、怖くなったか。そうか。すまない。そのほら、何も持っていないぞ。どうだ? これで怖くないか?」
言葉を間違えたと私は思い、首を横に振ると、アズール様は慌てた様子で腰につけていた短剣や、隠し持っていたナイフや、小型の弓矢や縄やその他もろもろを全て取り払うと言った。
「もう、何も持っていないぞ。どうだ?」
違う。
そうしたものが怖かったわけではなかったのだけれど、アズール様のその隠し持っていた装備の数に驚く。
「すごい……ですね」
そう尋ねると、アズール様は困ったような顔を浮かべた。
「何があるかは分からないからな、様々なものを持っているのだ。怖くないぞ?」
私はうなずきながら、アズール様に言った。
「怖いのは、もしもアズール様がケガをしたり……命が危なくなったりすることです」
その言葉に、アズール様は首をかしげる。
「怪我? 命……ふむ。なるほど……怖いのか?」
「怖いです。もしも、帰って来なかったら? そう思うと、怖いです」
正直にそう告げると、アズール様は大きな声で笑いだした。
「はっはっは。なるほどなるほど。だがそれはいらぬ心配だ」
「え?」
「俺はたとえ何があろうと君の元へと帰ってくると誓おう」
自信に満ちたその表情に、私は驚いてしまう。
「本当に、ですか?」
そう言ってもう一度尋ねると、アズール様は自信満々に大きくうなずいた。
「もちろんだ。絶対に帰ってくる」
アズール様があまりにも自信たっぷりにいうものだから、私はくすくすと笑い声をあげてしまう。
「ふふふ」
「安心してくれてかまわん」
「はい」
私はどうしても笑いが治まらなくて、そのまましばらく笑い続けてしまった。
アズール様はそんな私を嫌がるでもなく笑顔で見守ってくださって、優しい人だなと思うのであった。
「約束ですよ?」
「あぁ。約束だ」
それで全て不安が解消されたわけではなかったのだけれど、それでもアズール様が帰ってきてくれると言ってくれたことが私は嬉しかった。
掃除をしても、しても、ほこりって出てきますよね。
っていうことは、外で生まれたほこりは、どこへ消えてるんでしょうか。大地へ帰るの????謎です。






