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銀髪の少女3

 穏やかな曲が会計カウンター側の大きなオルゴールから流れてくる。ここは絨毯が停まっていた場所から近く、ウィズも来たことがある小さな町のレストラン。

 昼時ではあったが、ある程度人はいるものの、何席か空いていた。座ったのはできるだけ他の人に話が聞こえないよう、入り口から一番遠い店の角、窓に沿うよう向かい合わせに椅子が置かれた二人席。小さめの店であるため、他のお客さん達の話す声が重なって聞こえている。


 ウィズがルーナにこれでいいかと確認を取ったうえで、二人分の注文を済ませたときだった。窓の外、ぽつりぽつりと雨が降り始める。雨が降るのは1週間ぶりだ。


「雨、降ってきたわね。そういえば、雨降ったときってお客はどうなるの?絨毯濡れたりしないの?」

「絨毯自体は大丈夫です。夜に運転するときにもするんですけど、絨毯の表面に魔力をまとわせるんです。そうすると絨毯は魔力に守られて濡れないんです」


「ふーん。じゃあ、お客さんは?帰りは、私はどうすればいいのかしら?」

「……合羽かっぱを着てもらうしかないですね。傘とかは飛ばされると危ないので」

「そ。まあ、今日はここで時間潰してもいいか。あんまり家に戻りたくないし」


 そういいながら、ルーナは雨の降りしきる店の外に目を向けた。一人の男性が向かいの店で雨宿りをしていた。男性は自身の腕時計をちらりと見ると、雨の中、店の屋根から飛び出し、走っていった。

 せわしない雨の音は店の中には届かず、店内ではオルゴールがゆっくりと回り続けている。


 ウィズは頃合いを見て、正面に座るルーナに話を切り出した。


「あの、ルーナさん、逃げた理由についてもう一度聞かせてくれませんか?」


 きっと話したくないのだろうな、と思いながら、もう少しルーナのことをよく聞かせてもらおうと思うウィズなのであった。


「ちっ、覚えていたのね」

「さっき自分で家に戻りたくないって言ってたじゃないですか。それに舌打ちなんかするもんじゃないですよ。僕は構わないですけど、他の人にはそういうことやらないでくださいね」

「わかってるわよ、そんなこと。一応、高校では真面目な清楚系キャラで通してるんだから。

 はあ、あんまり自分語りは好きじゃないんだけど」


 ウィズはそう言った声を聞きつつも、ルーナに質問する。


「それで、なんで逃げてたんですか?」

「さっきも言ったでしょ。習い事から逃げてきたのよ」

「それ嘘じゃなかったんですか?習い事から逃げるだけで、父親の部下で知り合いとはいえあんなに追いかけられます?」

「さあ?まあでもお父様は怖い人だから、怒られるのが怖かったんじゃない?習い事への送り迎えがあの人たちの仕事の一つでもあっただろうし。お父様は絶対に仕事の失敗は許さない人だから」

「それ、僕も叱られるやつですかね」

「何?怖いの?」


 ルーナはニヤニヤとした顔をこちらに向けてくる。ウィズは咳払いをして、話を振った。


「そ、それで、何の習い事から逃げてきたんですか?」

「習い事っていうか塾よ、塾。」


「塾、ですか。何を学んでるんです?」

「いろいろよ。学校でやってることの応用とかが中心になるわ。魔法学から、科学とそれに必要な数学なんかまでを実践を含めて学んでるの。あとは、別の塾だけど、経営とかを学べるスクールとかにも行ってるわね。私、いいとこのお嬢様だから」


「あー」

「あんまり信じてないでしょ!まあ、別に信じてもらえなくてもいいんだけどね。とにかく、そういう環境もあってか、小さいころからいろんな習い事をさせられてきたの。勉強からスポーツ、魔法までいろいろとね。私、自慢じゃないけど、昔から比較的なんでもできたし、成績も結果も出せた。今も、ありがたいことに()()()()の学校にも行かせてもらってるの。その分周りからの期待とかも多くて、頑張らないといけないんだけどね」

「なるほど?」



「だけど、親に言われたの 『高校を卒業するまでもうあと少しだな、進路は決めたのか。まあ、お前のことは心配していない。自分の将来を()()()しっかり選びなさい』ってね。その時思ったの。私の夢って何なんだろうって。確かに私は、頭もいいし、スポーツもできるし、魔法もできるし、ある程度何でもできるんだけど、何が好きで、何を本当にやりたいんだろうって」


 そう言って、ルーナはうつむいた。

 店の外、雨は変わらずに降り続け、うっすらと水たまりもできている。人影は見えない。窓に、椅子にもたれる彼女の姿が反射していた。


「今まであんまり考えてこなかったのよね、そういうこと。毎日が忙しくて。目標を立てることも、その先に何があるか考えることもなく、親から与えられたものを受け身でやってきていたことに気づいたの。自分で考えて、何をしたいか決めるってことをしてこなかったのよ。そうしたら何のために大変な思いをして、塾に行っているのだろう、何で勉強しているんだろうって思っちゃったのよ。今までは普通にやってきていたのに、向き合えなくなっちゃった。それで気づいたら家から逃げ出してたってわけ。ふん、笑いたければ笑いなさいよ」



「ふふ、ははは、はははははは」

「ちょ、何笑ってるのよ!」

「いや、ふふ、すみません。なんかおかしくて」

「笑いたければ笑え、とはいったけど、そんな笑うこともないでしょ!」


 レストランの他の客と店員が怪訝な顔でこちらの様子をうかがっている。

 笑いを止めるために下を向いて、ふー、と長い息を吐き、ウィズはルーナにこう伝えるのだった。


「ルーナさんって頭はいいみたいですけど、馬鹿なんですね」

なぜテストってあるのだろう。この一言に共感してくれる人は多いと思う。

そのせいで更新は土日明けぐらいになりそうです。


次の話で銀髪の少女編はいったん区切りになるはず。

そうしたら、ウィズの身近な人を幕間で二人紹介の予定。

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