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孫への「プレゼント」2

 デパートからの帰り道。日も落ち、足下には多くの家や店の灯りがともる。空には薄い雲がうっすらと出てきていた。


「この時間なら誕生日会が始まるまでには間に合いそうだな。いやー、すまんな、長い時間買い物に付き合わせてしまって。正直、一人で買いに来たはいいものの、若い子が何がほしいかがわからなくてな」

「いえ、僕もお役に立てたかどうか」


 デパート到着後、ウィズはプレゼント選びに付き合わされた。


 最初、ウィズは同じぐらいの17歳の男の子のプレゼントなら、歳も近いし役に立てるかもしれないと思っていた。

 しかし、蓋を開けてみるとお孫さんは()()()だったのだ。女性とお付き合いした経験もないのに、女の子が何を欲しているかなんてわかるわけない、と思うウィズなのであった。


「それでも一緒になって真剣に考えてくれたじゃないか、ありがとうよ」

「いえいえ。プレゼントが決まって良かったです」


 とはいえ感謝されることはうれしいものである。ちらっと後ろを見てお辞儀をし、口元に笑みを浮かべる。


「それより、プレゼントやっぱり持ってましょうか、マジックバッグなら落とす心配ないですし、胸の内ポケットに入れておくより安心できると思いますが」

「いや大丈夫だ。初めてしっかりと選んだプレゼントだからな。自分の手元に持っておきたい」


 そう言って男性は左胸のあたりをなでる。デパートに行く前とは違い、男性は黒い上着を着ていた。ボタンを閉じず、前を開けていたのは変わらなかったが。


「そうだ。気になっていたんだが、君は恋愛経験があまりないのだろうか」

「えっ、まあ、そうですね。お恥ずかしながら」

「やはりそうか。君もあまり女性のものに詳しくなさそうだったしな」

「ばれていましたか」


 ウィズは前方を見たまま、左手で頬をかいた。


「ああ、君が女性の下着コーナーの前を通ったときに気まずそうに目を背け・・・・・・」

「か、勘弁してください!」

「ハッハッハ」


 笑い声が風に乗って流れていく。人通りも少なくなった町の中で、その声を拾ったものはいるのだろうか。


「人生の先輩として君にアドバイスしておこう。プレゼント選びを手伝ってくれたお礼だ」

「ア、アドバイスですか?」


 あまりこうして人からアドバイスを受けることがなかったため、戸惑うウィズ。


「ああ、お前さんは優しい性格だ。知らないじじいのプレゼント選びも手伝ってくれるくらいだしな」

「はあ」

「それはすごくいいことだ。なかなかできる事じゃない。ただ、その反面お前さんは人に対して受け身になることが多いんじゃないかと思う。下着コーナーの前を通るだけで気まずそうにするぐらい初心だしな」


 実際にその通りなのだからウィズは頷くしかない。対して、男性はかなり活き活きしている。長時間プレゼント選びをしていた疲れも見えないぐらいで、声にも張りがある。


「しかし、時には積極的に行くことも大切だ。女性を引っ張っていけるようにもなれば、お前さんきっとモテモテだぞ」

「な、なるほど」

「気のない返事だな。私も若い頃は」

「あ、到着しましたよ、お疲れ様でした」


 敷地の周りが柵で囲まれた豪邸の門の前に絨毯はとまった。屋敷は電気がついている。カーテン越しに人影がうっすらと見えており、慌ただしく動いている。誕生日会の準備でもしているのだろうか。


「せっかくいいところだったのだが」

「はは、またお会いしたら続きを是非聞かせてください。色々教えていただきありがとうございました」

「うん?そうか。ならまた利用させてもらわないとな。ハッハッハ」


 男性は屋敷の前で大きな声で笑った。屋敷の中の影の動きが、さらに慌ただしくなったようだ。屋敷の中にも男性の声が届いたのかもしれない。


「まあ、君とプレゼントを買いに行ったことは、誕生日会の良いはなしの種になりそうだ」

「あ、僕と買いに行ったことはお孫さんには伏せておいてください」

「ん?どうしてだね?」


 男性はあぐらのまま不思議そうな顔をした。


「僕とお客さんがプレゼントを選んだではなくて、()()()()()プレゼントを選んだからです。僕は何もしてませんし、お孫さんだってお客さん一人が選んだといった方がうれしいと思いますよ」

「それでも君には大変世話になったのだから」

「僕はこういうのが女性が好きなんじゃないかって言っただけですので」


 ――お客さん、義理の厚い人だな。でもやっぱりお孫さんはお客さんが一人で考えて選んだって言った方が喜ぶだろうし。

 ウィズは言いたくはないなあと思いつつ、口を開く。


「そ、それに僕の話題を出したら、お客さん下着コーナー前を通った時の事もポロッと話しちゃいそうですし」

「ああ、それが嫌なのか、ハッハッハ」

「はい」

「わかった。では孫には、君の名誉のために君の話はしないということを約束しよう」

「ありがとうございます!」


 ――良かった。こっちの方がお孫さんも喜ぶだろう。


「お孫さん喜んでくれるといいですね」

「ああ!そうだな。今から楽しみだよ。気を遣ってくれてありがとう」


 男性が優しい目でこちらを見ていた。


「いえ」

「では、今日の料金だ、受け取ってくれ。おつりはいらない」


 男性の手には本来の料金よりもかなり多くのお金が握られていた。


「ええっ、こんなたくさん!受け取れません」

「いいからいいから。お前さんと話せて本当楽しかった、そのお礼だ。それでおいしいものでも食べてくれ」

「でも」

「おっと、もう誕生日会が始まる時間だ。急がねば」


 そういって男性は絨毯から下りる。


「ではまた、お前さんと会えることを楽しみにしているよ」


 男性は、門の鍵を自分で開けて中に入っていった。屋敷の玄関から執事らしき人が慌てて飛び出してくる。男性が屋敷の中に入っていったのをそれとなく確認した後、絨毯は、再び夜に駆け出していった。



 マギ王国の夜の空、ウィズは遠くでクラッカーの音が鳴った気がした。

 彼は小さな声で「おめでとうございます」とつぶやいたのだった。

 




次話は1月15日18時ごろ投稿予定

次のお客は、恋に悩むお客様です!


ではでは。

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