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さよならウェンプ

作者: 竜谷 晟

人類は今、滅亡の危機に瀕している

始まりは20年前。私たちは新たなエネルギーの発見に成功した

その名も『真空エネルギー』

ビックバン発生後に始まった宇宙の膨張、それを引き起こしたとされるエネルギーである

当時私たちは歓喜した。1981年に理論上有ると仮定されたエネルギーが本当に見つかったのだ

全人類が新たなるエネルギーに夢を見いだし、当時の世界は真空エネルギーへの期待で高まっていた

だが一方で、私たち科学者は頭を抱えていた。真空エネルギーはエネルギー変換効率の過程で問題があったのだ。変換が不可だった訳ではない

熱エネルギーへのみの変換ではあるが、変換は可能で有るというのは既に分かっていた

そのエネルギー変換効率が良すぎたのが問題だった。ティースプーン一杯でビキニ水爆の五倍の熱量

細やかな抽出が出来ない当時の技術では発電は不可能である

そして当時の権力者たちが私たちに下した命令は『何としてでも資源として運用できる形にして欲しい』だった

長い時間をかけ、世界中の学者が集められ、ようやく一つの計画が完成する


『不夜計画』


別名、人口太陽創造計画

コレが全ての間違いだった

月の衛星軌道上に特殊な人工衛星を打ち上げる

真空エネルギーの抽出装置と演算機を核として、熱を冷気に変える特殊な機構を間に挟みつつ断熱性の高い素材で周囲を覆い、その外側を熱に強い合金で固めた

その大きさは月のおよそ半分

まごうことなき人口の星

抽出した真空エネルギーの熱量は外側の合金に直接届けられ、太陽の代理として夜を照らす

勿論、地球からの指示で休止、非常停止は可能であった

太陽光発電の新しい可能性、分かりやすいパフォーマンスとして権力者たちに気に入られ、実行に移された

1969年、太陽の神アポロンから名前を借りた宇宙船が、人類史上初めて月へ到達した

それに倣い、その人口衛星は、月の女神アルテミスの名前を借り


『アルテ』と名付けられた


アルテの運用は、順調だった。夜を照らすもう一つの太陽

多くの人間がその恩恵にあやかり、アルテの起動時間は少しずつ伸びていった。一ヵ月に一度から一週間に一度と加速度的に起動時間は増え、時には三日間連続で起動し続けることもあった

そして遂に、問題が発生する

初めは雨。梅雨の時期でもないのに何日も連続で雨が降り続いた。さらに風。日本では三つの台風が同時に発生、上陸、過去最高クラスの爪痕を残した

そして雪。本来降雪地帯でないはずの地域が豪雪に見舞われた

特に首都圏にダメージの大きかった日本、アメリカ、中国は、行政の一部機能が停止するなどして大きな損失を受けた

後に人口太陽が原因と判明したこれらの異常気象は、じわじわと世界各国にダメージを与えていった。すぐに私たちはアルテの停止を申請し、それは受理された。

最後にアルテは世界に積もった雪を溶かし、停止するはずだった

だが、そのタイミングで最悪の事態が発生する


アルテの暴走である


政府により、雪を溶かすため一定ラインを超えた運用をしたアルテは電波の受信機能にエラーを起こし、ただ、発光し続ける真夏の太陽となって世界から夜を奪い去った

それからおよそ一年間、現在までアルテは今も地上を照らし続けている

異常気象は悪化し、アルテの影響で発狂して自死した人間も少なくない。絶滅危惧種は以前の倍ほどに膨れ上がり、いくつかの動植物は実際に絶滅に追いやられた

コレが人類最大の失敗作『アルテ』の誕生経緯である


この失敗作を生み出した愚か者として、この遺書をキミに託す


◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️




□ □ □



「ホワイトハウスに繋いでくれ、あの忌々しい月女神(アルテ)をどうにかできるかもしれんとな」

初老の男性は電話口にそう一方的に吐き捨てて、受話器に耳を当てたまま、ドシリと近くにあった椅子に身を任せた

数分後、受話器から落ち着いた男の声が聞こえる

「お久しぶりです、シュービー博士。アルテの対処法が分かったと言うのは本当ですか」

テレビでは、声を荒げて自国ファーストを叫ぶ男も、実際に話してみれば当たり前に気遣いのできる出来た人間である。その方が他国への牽制になるからという理由で、常に自分を偽って威圧的に接しているが、自身の国民や外交時は大らかに振る舞う。だが、この時ばかりは挨拶や礼儀もおざなりに、真っ先に本題を要求した

「えぇ、そのために用意してもらいたいものが有りますので」

初老の男性、シュービー博士は尊大に言ってのけた

「分かりました、何でも仰って下さい。我が国の総力を上げてご用意しましょう。何が必要なのですか?」

「『神の杖』の設計図です」

「!」

神の杖とは、アメリカが密かに開発した宇宙兵器である。全長6メートル、重量5トンに近いタングステン鉱の杭を、地上に向けて、宇宙から堕とす。運動エネルギーのみで対象を破壊するため、電子的なレーダーを無力化できる。都市伝説として長く語られる、存在しないはずの兵器である


別名 運動エネルギー爆弾


「あれが存在していることはよく理解していますよ。なんせ、私の師が設計、製作を指揮した兵器ですから」

「無理だ。地上への発射ならともかく、月と同じ高度のアルテを神の杖で攻撃しても大きな威力は出ない」

「そんなことはわかっている。ですから、設計図ですよ。私が神の杖を改造して、アルテを破壊できる兵器に作り替えます」

「…… それならば…… いやしかしそんな物…… だがそれしか…… そもそも」

「考えている時間はありませんよ。貴方はただ、『許可する』と言うだけでいいんです。そうすれば一か月後、人類は滅亡の危機を脱するでしょう」

「…… そこまでいうならいいでしょう。ただし、公表する際に『神の杖』の名前を使うことは許しません」

「公表なんてするつもりは…… あぁ、そういうわけにもいかないのか。大変ですね、こんな時まで他国への牽制を考えなくちゃいけないなんて」

アルテの存在は全世界に晒されており、各国がそれぞれの兵器で破壊しようと動いている。強力な兵器を持っていることを見せて他国にその力を示すためだ

「決行はいつになるんだ?」

その言葉にシュービー博士は少し考え

「一ヵ月後の6月30日、アルテが最も地球に近づく場所は日本」


「沖縄のアメリカ軍事基地、そこでアルテを破壊を見届けます」



□ □ □



一ヵ月後、一人の日本の科学者が静かに空を見上げていた

「信じられない」

思わず彼がそう呟くのも無理はない。早くて半年、通常なら一年近く掛かる衛星開発が、僅か一ヵ月で終了したのだ。真空エネルギーの発見前後から、人類の技術は大幅に飛躍したとは言っても、余りに早すぎる。彼はシュービー博士の能力に身震いした

「面白い」

だが、勿論彼もこの一ヵ月何もしなかったわけではない。彼が作り上げた兵器は、しっかりと衛星に組み込まれているのだ

否、彼の作り上げた兵器も、というべきか

「電磁加速式空圧水素型反重力装置搭載(以下略)運動エネルギー爆弾」


別名『神の槍』


元となった兵器が一発でわかるその名前に、発表当時ホワイトハウスから悲鳴が上がったとか上がらなかったとか

多くの科学者の悲願を破壊する、小学生が考えたような単純破壊兵器

「何という幸運だ。私は今、人類の歴史の転換点にいる」

この事件は、人類の歴史の一つとして教科書に載る。それを見た後世の人間は馬鹿馬鹿しいマッチポンプだと思うかもしれない。だか、マッチポンプであれなんであれ、生物は追い詰められて初めて真価を問われる。そして、人類は確かにこの神話の如き危機を乗り越えようとしている

その事実が、彼の体を震わせる

時刻は現在23時丁度

およそ一時間後、審判が降る


□ □ □


「アルテ攻略最大の障害は、アルテ自身に備え付けられた防衛機能だ」

開始10分前、シュービー博士はモニタールームの前でそう呟いた

「アルテには一定範囲近づいた物体に対して、その熱量を一瞬上昇させて溶かし尽くす機能がある」

シュービー博士としては独り言のつもりだったが、その言葉に幾人かの科学者が苦々しい顔をする。その防衛機能によって今まで打ち込まれた多くのミサイルはアルテに到達する前に融解した

「だから、『神の杖』を選んだ」

さり気ない問題発言に今度はその場にいた科学者たちは目を逸らし、聞かなかったことにした

「神の杖の威力は低い。勿論水爆や原爆と比べて、だけど。そして破壊範囲も狭い。けど、だからこそ、速度と貫通力はピカイチだ」

シュービー博士はモニターに映る神の槍を静かに見つめる。いまや全員がシュービー博士の言葉に耳を傾けていた

「神の槍ならばアルテの防衛機能が反応する前に内部の演算機を破壊できる」

シュービー博士の『神の槍ならアルテを破壊可能』という結論を聞いても、多くの科学者たちの表情は暗いままだった

コレがあくまで理論上の話であるということは優秀な彼らはよく理解していたのだ

なんにせよもうリミットは5分を切っている

「さぁ、審判の時がやってきたぞ」


□ □ □


第一射発射用意


スリー


ツー


ワン


……発射


□ □ □


発射後、地上で最初に起こったのは静寂だった

月までの距離はおよそ39万キロメートル

光の速さでも40秒近い時間のかかる距離である

故に発射されても40秒間は何が起こっているのか分からない。地上の人々は固唾を飲んで40秒の静寂を耐えた。そして

次に来たのは閃光

「………眩しいな」

淡く光る月、燦々と輝くアルテ。そしてその後ろで起こる光の大放射

サングラスや日食用の遮光板を通しても尚、眩しいと感じるほどの強烈な光。1秒にも満たないその光は、『神の槍』が正常に発射されたことを示していた

そして直後、


照明の電源を切ったように暗転した


□ □ □


「博士!よくやってくれた! 」

「わざわざアメリカからお電話ありがとうございます、大統領」

「こちらからでもアルテの停止を確認できたよ! 本当にあなたは素晴らしい科学者だ! 」

「はぁ、ありがとうございます。では、こちらもまだやることがあるので」

「?…… あぁ、事後処理はこちらに任せてください。これからあなたにはもっと別の仕事をしてもらいますので」

「事後処理、ですか?まだ終わってませんよ」

「はい? 」

「あれ、放っておけば地上に落ちてきますよ」

「は? 」

「アルテの機能は確かに停止しました。けど物理的にアルテは残っています。このままでは、地球に落下、いや、先に月と衝突しますね」

「は、はあ⁉︎ 」

「月とアルテはかなり近付いているのでこの前までは明日には激突するでしょうね」

「な、何故そんなタイミングで作戦を実行したんですか!」

「アルテに対する保険ですよ。最悪の状況、『神の槍』での破壊に失敗した場合には月とアルテとを衝突させる手筈でした」

「衝、突? 」

「その場合、アルテは全壊、月は半壊し、その後バラバラになったカケラは小さな衝突と融和を繰り返して新しい月を作り出します。月不在の地球への影響が大きいですし、カケラのうちいくつかは地球に降ってきますが、これも限りなく被害の少ない作戦の一つです」

「で、ではこの後、あのアルテも月に衝突するというのですか?」

「いいえ、そうはなりませんよ。アルテは確実に破壊します。その為の『神の槍』なのですから」

「どういう意味」


プッツーツーツー



□ □ □



「心配する必要はありませんよ大統領。しっかりと決着をつけますから」

シュービー博士は会話途中で電話を切って、そう呟いた

「さてと、『第二射発射用意』」

ガチャリと、宇宙の彼方で神の槍が機械的な音を立てて駆動する。一射目で焼きついた砲身を切り離し、新たな砲身に槍を装填し、ゆっくりとアルテを捉える

空に再び閃光が輝いた、だが、今度はそれだけではない

「第二射、アルテへの直撃を確認、ネイルも問題ありません」

(ネイル)

そういうにはあまりに無骨で、鉄骨を編み込んで作り上げたように長く、太い杭

「第二射に引っ張られて外殻の内側まで入り込んだ特殊な杭。アルテが停止してなかったらこんなもの一瞬で溶解してただろうな。取り敢えず『第三射発射用意』」

一撃で星を衛星一つを破壊し得る兵器の三撃目。ただし、今回のそれは一射目、二射目に比べても少し特殊だった

打ち出されたのは先端が丸く重い、槌のような形状の物。いや、その用途から見ればただしくそれは槌だった

射出された第三射は、ネイルの頂点を穿ち、破壊しつつも、その運動エネルギーを十全に伝え、ネイルは更にアルテの奥深くに潜り込んだ

「『第四射発射用意』」

そして次の射出では閃光は起きなかった

ゆっくりと、切り離されるように打ち出されたのは一本のミサイル

それは更に空中で分解し、ひとつはネイルの下へ、もう一つは『神の槍』の更に遥か上へと突き進んでいく

「200年以上前戦争で使われていた電磁パルス爆弾の超強化版、そしてネイルは全て高純度の鉄製、そこにアホ強い電流を流せば」

その言葉と同時にネイルへと到達したミサイルの片割れは核爆弾の如き規模で閃光と雷をまき散らしながら炸裂した。そして同時に上へ登ったもう片割れもその効力を発揮する

アルテは一瞬で月の衛星軌道を飛び出し、それ自体が一つの弾丸のように宇宙空間へ射出された

「そんでこっちは僕のオリジナル、指向性瞬間磁界発生装置、の超超強化版。近くの磁石を一瞬で引き寄せる。計算上これでアルテのみ吹っ飛び、月の鉄分はギリギリで反応しない。うん、これで正真正銘アルテの脅威は破壊されたわけだ」

そう明るく言い放つシュービー博士の横顔は複雑で、歓喜と同時に哀しさや悔しさを帯びているように見えた



□ □ □



数日後、シュービー博士の元に一人の科学者が訪れていた

「やぁ、君か」

「こんにちは、シュービー博士」

やってきたのはシュービー博士と共に『神の槍』の開発に携わった日本人科学者だった

「ちょと中で待っててくれ、すぐにコーヒーを淹れてくるから」

「いえお構いなく、すぐに話は終わらせますから」

「ふむ、そういうことなら。それで、話とは」

「アルテの設計図はどこですか?」

「ほう、どうしてそんなことを聞くんだい?」

「『神の杖』は攻撃範囲が狭い。そう言いましたね。そしてそれは『神の槍』でも同じことが言えるはずだ。なのに一射目で正確にその炉心を破壊した。アルテは分厚い金属でできた外殻によって放射線を通さない。あなたはアルテの内部を正確に把握していたということになる。それには既に失われた設計図が必要なはずです」

「あぁ、僕の寝室のタンスの引き出しに入っているよ。それが?」

「…… 私の記憶では、アルテの設計図は集団自殺した開発者達により、研究所と研究者達と共に燃えたはずですが」

「自分から聞いといてそんなことを言われてもね。それと正しくは集団自殺した、ではなく集団自殺させられただよ。馬鹿な世論と政治家たちに。もし彼らが生きていればもっと早くアルテを止められただろうに」

「質問に答えてください。何故あなたがソレを所持しているのですか?」

「………… ウェンプ博士を知っているかね?」

その言葉に日本人科学者は気まずそうに視線を逸らした

「……知っています。不夜計画の責任者であり、そしてあなたの……」

「私の学生時代からの親友だ」

シュービー博士はどこか懐かしむように断言した

「あいつは自殺の直前に私に遺書を送ってきやがった。アルテの設計図と共にな」

「どうしてあなたに遺書が? 確か彼には妻も息子もいたはずでは」

「遺書には彼らがアルテを作るに至った経緯が彼の目線で書かれていた。遺言というより後進のために残した文書という方が正しいかな」

「…… もう一つ質問です。『神の槍』とは何ですか?」

「アルテを破壊するための兵器だよ」

「いいえ、その筈はありません。あれはアルテを破壊するには、あまりに効率が悪すぎる、資源面でもエネルギー面でも。一ヵ月で完成というのも今から思えばあり得ない」

「何が言いたい?」

「ですから質問したじゃないですか『神の槍』とは何ですか。何のために作られたモノなんですか」

「…… その質問に答える前に、私からも一つ質問をさせて貰おう。君は確か神の槍にも使われた電磁加速兵器の理論の提言者だったね。何であんなモノを作った? 兵器として戦争に運用されるのは火を見るより明らかだったろうに」

「! それは……えっと、その」

「うん?」

「それは……あの、子供の頃好きだったアニメーションに出てきた電磁加速の銃に憧れたからです」

「…… 何ともまぁ、日本人らしい答えが帰ってきたものだ。そうか、ではこちらも答えよう『神の槍』とは」


人類を滅ぼすための兵器だ


「⁉︎」

「おや、流石に予想外だったかな。だが、そもそも原型となる『神の杖』が対地上兵器なんだ、『神の槍』もそうだとして何の不思議もないだろう」

「何故、そんなモノを」

「恨み」

シュービー博士ははっきりと言ってのけた。歯を食いしばり、虚空を睨み付けるその表情に思わず日本人科学者は怯む

「私の師は『神の杖』を作った後に殺された。なんでも、存在しないハズの兵器に製作者がいてはいけない、とかで」

「…… そして、あなたの親友も」

「いつもそうだ、あいつらは私たちのことを道具のように使い、ゴミのように捨てる! 好奇心をもたない豚どもが‼︎ 『神の槍』は理論上地球すら破壊可能な兵器だ。『神の杖』の設計図もわざわざホワイトハウスにいかずとも、元々持っていた」

「正気で人類を滅ぼそうと? あなたも死にますよ」

「どうせアルテで滅ぶだろ。大した違いはない」

「では、何故辞めたんですか?」

「……忌々しいことに、遺書の最後にウェンプ博士は最悪の頼み事をしてきた」

「それは何と?」

「『後始末はよろしく』だそうだ。もう少し真面目に頼んでくれれば私もギリギリまで迷わずに済んだんだがな」

「うわぁ」

要するに、それを了承したのが一ヵ月前であり、それまでシュービー博士は自身の復讐を取るかウェンプ博士の頼み事を取るか迷っていたということか

「質問は終わりかな?では帰るといい。君は私のようになるなよ。私は日本のアニメーション的に言えば『悪の科学者』だからな」

シュービー博士はそう言って客人を追い返すと、深くソファに腰を下ろした

「それにしても、アニメーションの影響か、まぁどこまで行っても人間はそういうモノだよな」



□ □ □



「なぁ!凄いもんが手に入ったぞ‼︎」

「大声を出さないでくれ、ウェンプ。君の声は頭に響く」

「それより見てみろって、コレ!」

そういうとウェンプは三枚の紙を差し出してくる

「何だ? ……待ってくれ、コレって」

「うん、先生が今開発中の『神の杖』の設計図のコピーだ!」

「ばっ、国家機密級の資料だぞ!何やってんだ‼︎」

「まぁまぁ、お前も気になってたんだろ。遠慮すんなって」

「……バレたら殺されるかもしれない」

「バレなきゃ問題ないな。それよりさ、この設計図からもっと凄い兵器作れると思わねぇ?ほら、こんな感じでさ」

教科書に落書きをする様に軽々しく、それでいて正確無比に線をつけ足していく

「……無理だな。今の人類にこれを作るだけの資源は無い。第一こんなに多くの兵装をつける意味がわからん」

「そこはほら、あれだよ、ロマンってやつだよ」

「科学者の君がそんなにロマンチストだとは知らなかったな」

「人間はみんなロマンが好きなんだよ。いや、科学者ってのは寧ろ普通の人間よりずっとロマンチストだと思うな」

「科学者は現実主義者だろ。他よりも現実を見れるから科学者たり得るんだ。だから君ももう少し現実を見ろ。そんな兵器作ったところで戦争に使われるのが落ちだ」

「そんなことは知らねぇよ。でもお前だってこういうの見るとわくわくするだろ。心踊るだろ。自分の考えた最強の兵器が宇宙に浮かぶんだ。超興奮するだろ」

「…… 悔しいがその気持ちはわかる」

ウェンプはその言葉に胸を張って勝ち誇った



□ □ □



「けどな、ウェンプ。俺たちはもう大人だから遊んだ後は後始末しなきゃいけないよな」


シュービー博士は寝室のタンスから紙束を取り出し、そのまま暖炉に放り投げた

その後、端末を操作し何やら複雑なコードを打ち込んでいく

数分後『神の槍』はゆっくりと自壊を開始するだろう

「おやすみ、先生。おやすみ、ウェンプ」


おやすみ、ありがとう、ばいばい

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