表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

TS大学生が腐れ縁の友達と旅行の計画を立てる話

作者: げんまい


『ねえ健斗、今年の夏休みはちょっと遠くに旅行したくない?』


大学1年目の夏。8畳一間のボロアパートの一室で、エアコンの効いた部屋に相応しい涼しげな声が耳に届く。


「大学デビューってやつか?いいな。響はどっか行きたいとこあるか?」


そう言って響の方を見ると、奴は俺のベッドの上に転がってスマホを弄っていた。

最近になってスカートを履くようになった彼、いや彼女は、今日はノースリーブのワンピースを見事に着こなしている。

……もう何度か見た光景なので耐性は付いているものの、スカートで足をパタパタさせる度、生脚やら下着やらが見えそうで心臓に悪い。

普段学校にいる時はかなりガードを固めてる事もあり、落差で脳がやられそうだ。


『んー、やっぱ旅行といえば温泉でしょー。1泊2日で旅館にとまってさ、ダラダラしたくない?』


………温泉か。正直かなり魅力的な提案だけど、直ぐにオッケーと答える事が出来なくて、返事に詰まってしまった。


『あー、そっか。もしかしてボクの体の事気にしてくれてる?』


「いや、まあ、な。響はそういうの嫌じゃないかと思ってな。」


『この体になってまだ半年くらいだけど、もう大分慣れてきたし大丈夫だって!そうやって心配してくれるのは嬉しいけどなー。』


大学生活が始まる1ヶ月ほど前。同じ大学に合格した俺と響は、大学が始まるまでの暇な期間、お互い一人暮らしを始めた事もあり毎日のように互いの家で徹夜ゲームをしていた。そしてある日の朝、響が突然女性の体になっていたのだ。

その時は俺もかなりパニックになっていたが、響の取り乱し様を見て逆に冷静になれた。

余程不安だったのだろう、半泣きになりながら「そばにいて、ひとりにしないで」とか細い声で訴えられたのを、俺は一生忘れられないだろう。


『でもやっぱ健斗と一緒に温泉入れないのはやだなぁ……

そうだ!りぞーとすぱ?ってやつ?なら水着で混浴できるじゃん!』


水着?響の。水着。

その瞬間、俺の脳みそが勝手に響の水着試着会を始めた。

外見だけならスレンダーでクールな印象なのだから、黒いビキニなんか似合いそうだ。

いやしかし、中身は割と落ち着きのない子供っぽい性格してるし、ワンピースも中々いいかも。


「……確かにそれなら一緒に入れそうだな、うん」


『よし、決まりね!じゃあそれで泊まる場所探すねー』


…よかった、変な妄想をしてたことはバレてないようだ。

って何を考えてんだ俺。

響は俺に変わらず友達として接してくれている。だから俺の前でだけこんなに無防備でいるのだろう。

もう2度と、響の信頼を裏切ることは出来ないのだ。平常心平常心。


『あ、ボク水着持ってないから今度一緒に買いに行こうなー』


えっマジで言ってんのコイツ。


「えっマジで言ってんのコイツ」

しまった声に出てた。


『ひどぉ!……だって、正直どれが自分に似合うとか分かんないし、それなら一緒に行く健斗がいいと思ったのを着て行きたいなーって……だめ?」


っ!そんな顔で言うのはズルいって。


「ま、まあしょうがない、良いよ別に。俺も水着新調したいしな」


考えてみれば、まだ男性の感覚が残っているであろう響にとって女性の水着コーナーに入るのは大変な事かもしれない。であるならば、友を1人で行かせるのも忍びない。俺の羞恥心など些細な事だ。


『よかった!じゃあ明日買いに行こーな!』


安心と喜びが痛いほど伝わる笑顔を見ると、俺の判断が間違っていなかった事を実感する。

……まてよ、さっき響は、俺がいいと思った水着を着て行きたいと言った。それはつまり、さっき俺が不覚にも妄想してしまった、俺好みの水着を響が着てくれるという事。響(の恰好)を好きにできるという事で…


頭の中で独占欲なのか征服欲なのかよく分からないものと、罪悪感が鍔迫り合っているのがわかる。

煩悩退散、煩悩退散!


---------------------


『えーっと、今から宿泊予約出来るところはー……おっ、結構あるじゃん。

ねえ健斗、こことかどう?』


「なになに、30種類の温泉に夜はブッフェ形式の食事付き。値段も安いし、かなり良いじゃん!よく見つけたな響、もうここで決まり……いややっぱ駄目だこれ!」


『えーなんでだよーいいじゃんここー』


じっとりと俺を睨み付ける響。いや何でだよってお前。


「ベッド一つしか無いんですけど!」


「……し、仕方ないだろそこしか部屋空いて無いんだから!それに前にもこんなことあったじゃん!』


「あれは高校の時の話でしょうが!言いたか無いけど一応今は男と女なんだから、そういうのは不味いだろ!」


『ボクと健斗の仲だし大丈夫だって!あー、それともなに、そういうのが起こるつもりでいるのぉ?』


ぐっ、こっちの気も知らずに揶揄ってきやがる!落ち着け俺、要は俺が平常心でいれば良いだけなのだ。難しい事じゃ無いさ。そう自分に言い聞かせる。


「はいはい分かりましたよ!じゃあその部屋で予約しちゃっていいよ。でも後で後悔すんなよ?」


直前になって嫌になってもキャンセル効かないからな。


『ぁ、後で後悔って……!?……ゎ、わかった。予約取っとく。』


---------------------


それから夜まで2人でゲームをして、響を家まで送った。


ベッドに横になり、今日の事を思い返す。

明日は響の水着を見繕って、2週間後には旅行だ。

男女2人、旅行、水着、一つしかないベッド。


……冷静に考えると、どう見てもこれはマズイ。

しかし響の信頼に背く訳にもいかないのだ。


「男2人と考えれば普通、普通の事なんだ……!」


声に出して自己暗示を試みる。

大丈夫だ響。俺は一生、お前の友達だとも。だから安心して俺を頼ってくれ。


--------------------


『よし、上手くいったぞ。流石だなボク…!』


健斗に家まで送って貰った後、部屋で独りごちる。


実を言うと、今回の旅行だ温泉だは「手段」でしかない。全ては健斗と恋仲になる為の布石なのだ。



約半年前、ボクが突然女性になってしまった朝、状況を理解したボクが真っ先に恐れた事は、周囲との人間関係の破綻だった。

こんな原因不明、意味不明な変化をした自分を受け入れてくれるのが不安で、隣にいた健斗にパニックになりながら迫ったのだ。

健斗に「あの、すいません状況が飲み込めてないんですが、どちら様ですか?あと、ここに居た響って奴知りませんか?」と言われた時は頭が真っ白になって恥も外聞もなく泣きじゃくったが、冷静になった健斗と話をして誤解が解けた。

その後健斗が土下座までして謝ってきて、「もうお前に一生こんな思いはさせない」と言われた光景が、今でも目に焼き付いている。健斗は何も悪く無いのに。

それからと言うもの、家族への状況説明に同伴してくれたり、学校でも殆ど常に一緒に居てくれたりと、かなりボクの事を大事にしてくれるのだ。


そんな事をされたら、たかが女の子暦半年のボクだって好きになっちゃうのはもうしょうがないと思う。

それによく考えたら、元々ボクが男だった時から健斗とは一生涯の腐れ縁となる予定だったのだから、それが異性となった以上恋人となり、将来的に結婚するのが合理的なんだ。うん何もおかしくは無いな!



そう言うわけで、前から事あるごとに健斗を誘惑してたんだけど、どうにも効果があるのか分からなくて。

ボクの素性と貧相な見た目から女として見られてないのかと最初は落ち込んだけど、周りの友達にこっそり相談して見ると「んなわけないでしょアホか。てかあんたら付き合ってなかったの?そっちの方が驚きなんだけど」って言われたし多分大丈夫だとは思うんだけど…


正直なところ、目立った進展が見られない現状に耐えられなくなった。

そこで今回の旅行で、夏の魔力的なアレで奴を魅了しようと言う計画なのである!


男女2人、旅行、水着、一つしかないベッド。


こんなのどう考えても何も起きない筈が無い!

水着と浴衣で翻弄して、夜になったらイイ感じのトークで雰囲気作って告白する!


そんな一部の隙もない完璧なプランを頭に描く。


へへへ……覚悟しろ健斗…!この夏でお前をボクの虜にしてやるからな!




なお、元童貞の考えるデートプランが上手くいく筈もなく。

最終的には旅行先のベッドの上で暴走した響が泣きながら告白し、それを受け入れつつ添い寝して宥める健斗という、グダグタな展開となったのであった。


当人曰く『告白は成功したし、抱きしめて貰ったしでもう死ぬかと思った』との事。

今まで読み専でしたが、休暇が出来たのを機に一発夏らしいの?を書いて見ました。


やっぱTSは良いもんですねえ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ