ジニア
気づいた時には出来ていた。歩くことと同じようなこと。
これは何?僕にだけ?そんな疑問は、今ではもう無い。
瞬間、
ジリリリリリ
近所迷惑かのような音が、耳を刺すように飛び込んでくる。
始めの頃は好きな曲を流して起きていたが、どうやら目覚ましにすると脳が自然に嫌うらしい。
不快。その言葉を頭に目を開く。
いつもの光が来ず、戸惑う瞳をよそに体を起こす。
百日(塾か.....)
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いつものペンケースと教材、ルーズリーフを入れた黒いリュックを背負い、登校する道と同じ道を自転車に乗り進む。
雨上がりだからか、全身に熱気がついてくる。
バス停の 黄色い カップルや 青い 会社員を追い抜き、学校より近い赤茶の建物に入る。自転車に鍵をかけ、寂れた車止めを横目に二階の塾に入る。女子達が一人を囲んで騒がしい入口を抜け、席に着く。その時、
タンっ!!
百日「....?!」
両肩を叩かれ、勢いで振り返ると
草薙「びっくりしたでしょ!?おはよ!!」
同じクラスの草薙さんだった。
百日「おはよ....」
僕はそう返事したあと、すぐにトイレに行こうと席を立った。
彼女は苦手だ。
ルックスが良く、スタイルも良いその上明るいのでうちの高校ではマドンナといわれる人だ。さっきの人だかりも彼女が入塾したからだろう。決して僕と草薙さんは仲がいい訳では無い、単なるクラスメートだ。
僕が彼女を苦手な理由は、完璧な人だから、近づくと周りの男子や女子になんて言われるかわからない、なんていうことではなく、 見えない からだ。
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僕は物心ついた時から、人の感情が 見える 。
幸せを感じているときは 黄色
何かマイナスなことを考えているときは 青
興味津々なときは 赤
というように、その人の周りにオーラ(?)のようなものが見える。
他の人に 見えていない とわかったのは、小学生の時思い切って友達に話したところ信じてもらえず、そのままだった。
一見便利に見えると思うが、先述した通り、 何かマイナスなことを考えているとき、 興味津々なとき、
そして 見えない草薙さん
このような不確定要素がたくさんあり、まだ自分で使いこなせていない。しかし、色 は嘘をつかないらしく、この力で友達の恋愛を手助けしたこともある。
ゼミを終え、荷物を片付けているとまた草薙さんが来た。
草薙「夏休み歓ちゃんと蘭原くんと遊ぼーよー!」
いつも通り、周りと違って無色だ。何を考えているのか分からない。
百日「え、なんで」
草薙「仲良いでしょ??蘭原くんと!」
間違ってはいない。海とは小学校の時からの友達だ。
僕が唯一 色 が見えることを相談した相手でもある。
百日「良いけど」
草薙「ほんと!?じゃまた後日決めよ!!!」
そう言って彼女はつまずきそうになりながら、走って出ていった。まるで嵐だ。
百日(良いのは海と 仲が 良いって事だったんだけどな..)
そしてせっかちな人の小さな勘違いにより、僕らは遊びの計画のため、集まることになった。
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百日「………って言うことだから今日の放課後ね」
海「え!?!?まじかよ!!お前勿来さんと仲良かったのかよ!?!」
昼休憩に音楽室を冷蔵庫にしながら、赤色の海に事情を話した。かけられる疑いも払って、ようやくまともに話を進めた。
海「なるほどぉぉ...
ってか勿来さんと同じ塾かよ!
めっちゃいいじゃん!!クラスくらい変われよ!」
百日「体験らしいからまだ入ってないよ」
海「お前のこと好きなんじゃね?ww」
百日「小学生かよw」
海は話していて楽だ。
感情がすぐに色と会話に出る。
何より僕に合わせてくれる。人として良い奴だ。
一通りだべり散らかしたあと、僕らはそれぞれの教室に戻った。
放課後
海はまさかの追試があるらしく、仕方なく僕1人で待ち合わせの公園に向かった。
いつもの道とは逆だった。公園なんて沢山あるが、この公園であっているのかはすぐに無色の嵐が教えてくれた。
草薙「おーい!!こっちーー!!」
黒い肩掛けのカバンを地面に置き、黒く短い髪の女の子と小柄で眼鏡を女の子が居た。
谷合「....でー、どこにする??」
草薙「それを今決めるんでしょ!w」
いつもは大人しめの谷合さんが草薙さんの前では少し明るかった。彼女の明るさは太陽のように他の人照らすのだなと思い、自分が 赤く なったような気したから、太陽を直視しないように少し目を逸らした
草薙「海はー?」
谷合「良いね!でも私水着ないやあ..」
草薙「私もwwんー、どっかみんなで楽しめる楽な場所ない
かなあー。」
百日「あ、遊園地とかは?」
草薙「良いね!名案!」
谷合「私もいいと思う!」
草薙「後は蘭原くんの賛成待ちー!」
そう言うと、草薙さんはペンキの剥げかけたブランコに飛び乗った。
谷合「私、塾あるから先帰ってもいい?」
草薙「えー、まーしょーがないね。行ってらっしゃいー!」
小さな手をヒラヒラと振って、谷合さんは公園を後にした。
百日
そうだ、このままではいつ来るのか分からない海が来るのを二人きりで待たなければならない。
百日(なんとか解散に持ち込むか...)
そう思い口を開いたと同時に草薙さんが喋った。
草薙「あの遊園地さー。
自殺者、多いらしいね。」
そうだ。草薙さんの言う通り学生の自殺者がとても多い。
それ故にその遊園地のお化け屋敷は
スリルに特化しているファンからとても評判が高い。
自殺者の霊なのに評判が高いのは少し不謹慎だが
実際その遊園地は毎日のように人が溢れていた。
みんな、狂っているのだろうか。
草薙「なんか、取り憑かれたように急に走っていくらしいよ
w」
草薙「まあ、噂だけどね」
草薙「今死ねるのかなぁー?」
予想外の発言に、少し表情に出そうになるのを抑え
何か返事を言い出そうとする。
ーーその時、突然背後から両肩に衝撃が走った
海「おまたっせー!」
海だった。
百日「びっくりしたぁ...」
草薙「遅いよー、蘭原くんー。」
海「ごめんって。竹中の話が長すぎたー」
草薙「もー歓ちゃん帰っちゃったよー!」
海「え、まじか!どこ行くことになった?」
百日「あの遊園地だって」
海の色が変わった。
海「げっ、まじかよ。あそこって...」
草薙「 自殺の名所 でしょ?w
知ってるー。」
海「変な霊とか連れて帰んなきゃいいか!w」
草薙「じゃーけってー!!」
その後手を振る草薙さんに興奮した犬の尻尾のように
手を振る海と一緒に、帰り道の道路沿いにあるコンビニに寄った。
コンビニの前でプシュと音を鳴らしてファンタを飲んだ。
海「待たせたのは悪かったけど奢りは聞いてねえよ。」
と、悪態をついた海の色は暗かった。
怒らせてしまったのかな、と心配したが、杞憂だった。
海「勿来さんさあ、もー吹っ切れたのかな。」
百日「?」
海「知らねーの?勿来さん、先週振られたんだよ。」
百日「..え?」
あまりのイレギュラーに、それ以外言葉が出なかった。
ここで言うイレギュラーとは、草薙さんがあの見た目でふられたことではなく、それを一切 色 に出さなかったことだ。
海「1年の時からずっっと好きだったのにな。
今日とか無理してんかなって思ったけどそんな素振りな
いからびっくりした。」
やっぱり海はすごい。よく見ている。考えている。
先述した、犬の比喩をした自分が嫌になった。
もしかすると、海には僕のように何か 見える んじゃないのか、なんてバカげたことが頭をよぎる。
しかし、僕はそれを次の瞬間に捨てた。
海「俺、人の考えること読みたい!!」
意図したのか偶然か重い空気を払う一言に、
僕は「そうだな」としか言えなかった。
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草薙「来年から受験だよーー」
海「おお、可哀想にw」
箸でご飯を口に運びながら海が嫌味ったらしく言う。
あの日から、僕らは昼休憩に少しだけ影のある屋上で
集まってご飯を食べるようになった。
谷合「そっか。蘭原くんはスポーツ推薦もう決まってるの
か。」
海「おう!小中高とサッカー続けた甲斐があったわ!!」
草薙「いーなー...」
草薙「歓ちゃんもピア二ストだっけ?将来の夢」
谷合「ちょっと!言うほど上手くないから...」
海「嘘つけ!コンクール最優秀賞はすごすぎだろw」
草薙「2人とも得意なものがあるのいいなー」
弁当箱の蓋をしめながら草薙さんは話を僕に振ってきた。
百日「特にないかな。夢は。」
海「小学校からかわんねーよな。そーゆーとこ。」
海「何に対しても消極的で、聞き上手」
百日「それ、褒めてる?w」
海「ご想像にお任せしますー」
草薙「仲良いねーww」
谷合「あっ!」
谷合さんの色が激しくなった。
突然の大声に、掴んでいた弁当箱を落としそうになった。
草薙「歓ちゃん...!?どした?」
谷合「今.....何時....?」
海「1時15分」
谷合「やばい!委員会行かなきゃ!」
そう言った後、弁当箱を海に投げつけるようにして渡し走っていった。
海「あいつ真面目かよ」
草薙「かわいいなあー」
弁当箱を持たされた(?)海が1人で待っているのも可哀想なので海と草薙さんとで谷合さんを待つことにした。
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苦手な虫たちが夏を知らせる。そんなことも知らずに、1人涼しく部屋にいた。いや、いるはずだった。
草薙「このワンピースかわいっ!」
通りに飾ってある服を見て、少女が笑う。
今日は、いや、今日からは昼頃に起きるつもりだった。
海が、あんなことを言わなければ。
終業式の日
「えー、夏休みに入りますが気を緩めず、自宅学習に励みましょう。それから、」
海「なー、勿来さんと最近どーなの」
百日「どーってなにが」
ニヒッっと音をつけるならこうだろうか。お手本のような爽やか笑顔を見せる海に、また、尊敬の色が出た。
こんな笑顔を見せられたら、女子はイチコロだろう。
海「クラスで話してねーの?」
百日「んー、まあ、時々。」
海「ふーん。」
そう言うと海の色が変わった。その瞬間、海が口を開いた。
海「俺に任せな!」
百日「どーせなんかするんだろ。
バレてんだよ」
海「はっはっはー!」
その日の夜。家で草薙さんから
明日海と谷合さんとショッピングに行こう。と誘われた。
始めは何も疑わなかった。
話は今に戻り、海と谷合さんは体調不良とのこと。
やられた。
にこにこと少し寒いくらいの店内を歩き回る彼女について行く僕。必要だろうか。そう考えていると、
草薙「なーに考えてんのー?」
冷たいペットボトルをほいっと投げられ、慌てて受け取る。
人気のあまりないショッピングモールのベンチ。横に女の子らしい格好をした彼女が座る。
読めない。
百日「別に何も。」
草薙「あっそー。別にいいけど」
そう言って缶のオレンジジュースを一口飲むと、僕らに分かるようにチラチラとこっちを見てくる同級生の視線を遮るように目の前に草薙さんが立った。草薙さんの急な行動に驚きを隠せなかった僕は、背後の壁に頭をぶつけた。
僕の反応に、笑顔で草薙さんは言った。
草薙「蘭原くん取られるのってどんな気持ち??」
どういうことだろう。
僕はホモではないし取られたところで僕らは男友達、無くなるものでは無い。
百日「谷合さんと幸せなら僕はそれでいいかな。」
そう答えると、つまらなそうに草薙さんは似合わないスカートを気にせず隣に座る。いつもならここで僕からどうでも良い様な話を出すのだが、今の僕にはそんな気力は残ってなかった。
少しの間を空けて草薙さんが、
草薙「場所かえよっ」
そう言う同時に起立し、僕にアイコンタクトをしたかと思うと早歩きで歩き出した。本当に、分かりずらい。
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「知ってるかな?先輩とのこと」
フードコートでやる気のない課題を広げて、草薙さんが言う。
百日「聞いた。」
草薙「絶対いけるとおもったのになー。笑」
触れてもいいのかという葛藤の末、その一言だけ返すことにした。ただでさえ2人きりなのに、ここで怒らせたりでもしたらまずい。
草薙「実はさ、先輩に振られてから、、、、あ、ごめん相談
良い?」
少し重めの雰囲気に驚いた僕は、すぐに頷いて返事をした。
草薙「ありがと。それからさ、人の考えることがわからなく
なっちゃったの。」
草薙「学校でもさ、ほらよく私の周りにいるじゃん?いじめ っ子女子軍団。あの子達も少し前までは仲良かったんだけど、私の言った言葉がちょっと空気読めてなかったみたい
で、嫌われちゃった笑」
嘘だ。と、初めは思った。
僕は人の気持ちが見えるが故に見た目だけで人のことを判断していたのかもしれない。
現に、草薙さんの周りにいた女子達を僕は取り巻きだと思っていた。思っていたが故に見る必要も無いと判断していたのか、今、その女子達の 色 を覚えていない。
いくら感情が見えても、本当のきもちは理解していなかったのかもしれない。
隣を通り過ぎたカップルも、お互い黄色をしていたが本当は不満や悩みが沢山あるのかもしれない。そう思うと僕は、今まで草薙さんに向けてきた表面上の思考を恥ずかしく思った。
草薙「人の考えることってほんとにわかんないよね。」
百日「、、、、!」
その顔は今までで一番光が無かった。
今にも、地面に転がっている蝉のような、よく晴れた夜のような、家族が突然殺されてしまったかのような、そんな目をしていた。
よく考えると今日、いや、出会ってからずっと、この人には驚かされてばかりだった。
本当に僕は、色だけで、自分の中のイメージだけで、判断をしていたのだな。
草薙「そんな考えすぎないでって!」
僕も同じ目をしていたのか、笑顔で草薙さんが言う。
その後は何事も無かったかのように、家路につき、草薙さんを家まで送ってから帰った。もう、寝よう。
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昨日が嘘のような晴れた空に、僕は目を合わせることが出来なかった。踏切の音が頭に響く。隣には親友。リア充な休日だ。
海「まず何乗る??」
草薙「女子にまかせよーよ」
とても楽しみにしていたのか、遅刻魔の海が時間通りに、いや、時間前には来ていただろう。色も、、、、ダメだ、色で判断するな。
海「いた!」
百日「ちょっ、早っ、」
女子達、、、谷合さんを、見つけた海は真っ直ぐに僕を引っ張って走る。
目に付いたのは薄青色のワンピースを着た草薙さんだった。
明るい色の服装で彼女のテンションも昨日が無ければすべてがいつも通りのはずだった。見ないように決めた色も、
少し目に入る。そりゃそうだ。初めて見た。
黒色
しかも草薙さんに。その違和感に気ずけるのも、この場では僕と彼女だけ。
意外に時間は早く進み、
園内で最後に乗るアトラクションを探していた。
すると突然、草薙さんが走り出した。
僕は草薙さんが言っていたことを思い出した。
草薙さんが、危ない。
そう思い追いかけようとすると、
草薙「やっぱりラストは観覧車だよね!」
杞憂だった。
観覧車に近寄っただけだった。海の案で、2-2で乗ることになった。
海はもちろん谷合さんとだ。
楽しそうに外を見る海達を少し見上げて、入ってから静かな
草薙さんが気になった。
百日「あの---- 草薙「黒い?」
驚いた。海が教えたのかと思ったが、黒色のことは僕も知らない。
草薙「たぶん、、今の私はそうかな?」
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草薙「そんなに驚かないでよ。笑」
草薙「自分だけだと思ったでしょ!笑」
百日「いつから?」
頭が混乱している。
知っていた?色のことを?どうして?僕より前から?
分かるならなんでいじめられている?
僕は今、何色だ?
そこで、考えるのをやめた。やめさせられた。
草薙「先輩に振られたときの話したでしょ、あの時までは見
えてたの、全部。」
「でも、ショックからかわかんないんだけど、次の日か
パッと、ほんとにパッと消えちゃったの。」
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草薙「それからは大変だったよ。大体は色で判断付いてた
のにさ、急にわかんなくなっちゃって、」
「色んな人に迷惑かけるし、誰も助けてくれないしで、
本当に死にたかった。」
「でも誰も分かってくれなかった。」
草薙「でも!君を見つけたの。君はきっと色が見えてるよ
ね!私にはわかる。だって私は君の色が見えるもん」
百日「僕の色が?ずっと?」
草薙「そうだよ!君のだけは見えてるの。」
ねえ見て、もうすぐ頂上だよ。」
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すると、草薙さんはふぅと深呼吸して、立ち上がった。
そして軽くドアを押すと驚いたことに、まるで待っていたかの様に軽く開いた。
百日「、、、!」
草薙「ちょっと緩いよね。ここの設備。」
そして彼女はふわっとワンピースをたなびかせて、淵に立つ。
草薙「じゃあね。君は頑張ってね。」
そういう彼女の目は、笑っていて、泣いていた。
百日「待って!」
なぜだろう。漫画でよくある 気づいたら動いてた というのはこのことだろうか、と、後になって思う
百日「僕の、今の色は何?」
なぜそれを聞いたのか、なぜ止めなかったのか、今の僕には聞かないで欲しい。分からないことは、本当に怖いのだ。
でも今でも覚えているのは、落ちる前の彼女の口の動き。
「あ」 「か」
その後のことは思い出したくもない。泣き叫ぶ声と、サイレンの音。
次の日から、僕から 色 が消えた。




