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第98話:近づく選択。告げる真実の声

後2話なので、つめつめで長くなりました

「うんじゃないが?」

「「うわぁああああ!!!!!」」


 図書室で1戦コトを構えようとした瞬間だった。

 見知った低い声が胸の奥底に響き渡り、驚愕の声を上げてしまった。

 振り返れば奴がいた。そう、響さんだ!


「図書室に居るんだから当たり前だろう……」

「そ、そうでしたねー。あはは……」


 完全に抜けていた。

 響さんの生息地は図書室のはずだ。

 だけどさぁ! 文化祭でもまさかサボるためにこんなところに居るだなんて思わないじゃないか。


「ぼくは続けてもらっても構わないさ。女同士の営みというのもそれはそれとしてネタになるだろうからねぇ。もっとも、ネタにされるということを考慮に入れてほしいがね?」

「……脅しですかそれ!!!」

「勝手に盛ったのはキミたちだ。むしろぼくは被害者と言ってもいいねぇ!」


 はっはっは、などと笑いながらノートに書き込むペンのスピードが止まらない。

 あ、これ完全にやっちゃいけないところでやっちゃったなぁ。

 尊花さんも唖然としたまま、もう動けそうにもないし。はぁ、マジでやらかした。


「何が望みですか?」

「キミが相談したあの後の事の顛末を一字一句すべてぼくに教えるというのはどうだい?」

「……尊花さんは、大丈夫ですか?」


 ちらりと尊花さんを盗み見る。

 もう泣きながら頷いてた。確かに、こんなことを言いふらされたくはないよね……。


 それから事の顛末をカクカクシカジカ。

 二股だの何だのと言われたが、結局自分が言ったことだと思い出して頭を抱えていた響さんが印象的だった。


「まぁいいんじゃないか? ぼくのネタにもなりそうだし」

「結局それじゃないですか!!」

「百合物。流石に書くのは初めてだが、案外燃えてきたよ」


 この人、本当にネタのためなら貪欲だなぁ。

 とまぁ、図書室の乱はこれにて終幕。

 気づけば文化祭も終了の放送が流れ始めた。


 あぁ、そっか。もう終わりか……。


「楽しかったね、美鈴ちゃん」

「いろいろありましたけどね」


 数時間前よりもちょっとよそよそしくも、親密に心が繋がれた感じがして。

 愛おしそうにわたしは尊花さんの腕に抱きついた。

 あ、こういうことするの初めてかも。まぁ熱に浮かされたってことで1つ。


「ふふ、珍しいね」

「ですね。わたしも尊花さんとまゆさんのこと、大好きですから」

「照れくさい」

「2人がいつも言ってることじゃないですか!」

「美鈴ちゃんが言うのが珍しくて。さっきも……。あんなに激しく、攻めて……」


 ま、まぁ。興が乗ったと言いますか。

 沈んでた尊花さんを攻め落とすのはとても容易かったといいますか……。

 うわ、自分で思い出したらめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた。


「なーにが激しく攻めて、なのー?」

「「うわぁっ!!!」」


 突然背後から肩を叩かれると、恨めしそうな声でまゆさんがじっとりと睨みつけていた。

 こわっ!!!!


「え、えっとね! これは、なんと言いますかー!」

「3人の中じゃ秘密は禁止なんだよー?」

「……はい」

「負けないで美鈴ちゃん! これはある1人の人類の存亡がかかっているんだよ?!」

「えっとですね……」

「美鈴ちゃーん!!」


 ムリだよ。このモードになったまゆさんは止められないもん。

 先ほどの出来事を一字一句すべて口に出した。尊花さんは、滅亡した。


「なんか、負けた気分」

「こればっかりは、その……」

「スキあり!」


 うつむいていたわたしの顔を両手で強引に持ち上げられると、まゆさんの唇とわたしの唇が接触する。

 もちっとした感覚。あ、唇ってその人次第でちょっと触感変わるんだ……。じゃなくって!


 ゆっくりと顔を離して、まゆさんはぺろりと唇を舐めた。


「ファーストキスしちゃった」

「……雰囲気もなにも、あったもんじゃないですね」

「ついー!」

「もう……」


 あぁ、本当に。2人とも好きだ。

 元の世界に戻っても2人は一緒にいられるとカミサマは言っていた。

 けれど、その前に。わたしはわたしで1つケジメを付けなきゃいけない。

 わたしは2人を抱きしめると、屋上に行きたいという旨を伝えた。


「どうしたの?」

「この前、言いたいことがあるって言ったじゃないですか。それを、伝えたいんです」

「うん、いいよ。美鈴さんの気持ちだもん」

「ありがとうございます」


 きっと2人は見当が付いてないだろう。

 当然だ。突然その人に憑依するなんて、非科学的で超常現象だ。

 カミサマだから出来たこと。これからやることも、カミサマがやってしまうこと。

 だけどそれを決めるのは他の誰でもない、わたしだ。


 わたしは息を吸って、吐いてから屋上への扉を開く。

 屋上は風が強いかと思ったが、不自然なほど静かだった。

 そのくせ太陽だけはゆっくりと夕方へと沈んでいっている。

 黄昏時。なんとも真実を告げるにはちょうどいい時間だ。


「言いたいことって?」

「はい……」


 言いたいことを頭の中で固める。

 大丈夫。もうずっと考えてきたことだ。

 考えて、考えて。最初は伝えなくてもいいかもしれないと思って。

 それでも、2人だからこそ。大切な2人だからこそ伝えなきゃいけないと思って。


 だから、今から口にする。


「わたし、実は2人に嘘をついていたんです」

「嘘?」


 わたしは静かにうなずく。

 屋上の金網を背に。彼女たちを前にして、わたしは真実を告げる。


「わたし、本当は『相沢美鈴』じゃないんです」

「……え?」

「んー? どういうこと?」

「わたしはこの世界の人じゃなくて別の世界で死んで、この身体に憑依したんです」


 少なからずショックを受けるものの、頭では全然理解が追いついてないまゆさんはいい。

 それよりも膝から崩れ落ち、目を見開いている尊花さんのことが、見ていられなかった。


「じゃあ、美鈴ちゃん。じゃなくて! 今のあなたは?」

「残念ながら1年半前から『わたし』でした」

「本物の美鈴ちゃんは?!」

「わかりません……」


 受け入れられない、という顔だった。

 まぁ、そうだよね。尊花さんは本当に『アイドル』としての相沢美鈴を強く意識していた。

 だから今までわたしは外側から推しとして見るようにしていたんだ。


 けれど、好きって言われて。わたしも気が動転していたのかもしれない。

 推しとしての好きと、恋としての好きは違う。

 わたしの中で、いつしか尊花さんをそういう目で見ていたのだろう。

 きっと尊花さんも同じように、接する内に徐々に強くなってしまったんだ。


 光は影を蝕む。だから真実はどこまでも痛くて苦しくて。嘘はどこまでも優しい。


「それって、まゆさんと初めて会ったときにはもう『きみ』だったんだよね?」

「……まぁ、そうなります。アイドルとして引退した時期と憑依した時期が同じなので」

「じゃー、まゆさんにとっては『きみ』は『きみ』でしかないよ。美鈴さんかどうかは関係ない」

「……私、は」


 でも尊花さんは違う。

 尊花さんを変えたのは『相沢美鈴』であり、『佐山奈緒』ではない。

 それが苦しかった。どこまで言っても裏切ったのはわたしだから。

 どうあがいても、嫌われる要素しかないよね、わたし。


「美鈴ちゃんは、さ。ずっと私の中の光だったんだ。憧れで、支えで、強さで。突然やめちゃった時はびっくりしたなー」

「うっ、それは。わたしが弱かったから……」

「ううん。違うの。確かに悲しい。悲しいよ? でもね……」


 くじけた心を必死に立て直そうと地面に足をつける。

 まゆさんも手を貸して、尊花さんはようやく立ってわたしを見つめる。


「入学式、桜の木の下で頼りなさそうだなーって。知っていた美鈴ちゃんと違ってたけど、わたしに見せてくれた数々に惚れたのは、間違いなく『あなた』だよ!!」

「っ!!」

「放っておけないし、世話を焼きたくなるし、いつまでもオドオドしてて全然。これっぽっちも美鈴ちゃんらしくなかったけど!! それでもわたしが好きになったのは『あなた』! わたしが好きなのは、あなたなの!!!」


 息を切らせながら、それでも思いの丈を全部。ぜんぶわたしにぶつけてくれた。

 気づけば尊花さんの目からは涙が流れてたし、悔しさとか無力さも全部混ざっているんだと思う。


 それでも。それでもだよ!

 わたしのことを、『佐山奈緒』のことを好きだって気持ちをこんなにもまっすぐに伝えられて、心の奥底が沸き立って嬉しがっている言葉をかけられて。


 嬉しくないわけないじゃん!


「わたしも。わたしも好き! 大好き! ずっと前から好きで、推しで大好きで。でも想いなんて通じるはずないって思ってたのに……。そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうよ!」


 駆け出していた。堪らず。堪えられず。

 だって当たり前。こんな時空を超えた愛情を向けられてたら、わたしも嬉しくて仕方がなかったから。


 抱きしめた尊花さんの身体はいつもよりも小さい気がした。

 けれど、徐々に大きくなってわたしのことを抱きしめ返してくれた。

 はぁ、好き。好きだ。大好き。


「美鈴ちゃん、泣いてる!」

「尊花さんだって!」

「2人とも顔グッチョグチョだよー」

「「うるさい!」」


 ちゃちゃを入れるまゆさんも微笑ましいのか何故だか笑っていて。

 そんなに変だった? いや、そんなことないと思いますけど。


「ところでー。きみのホントの名前ってなんなのー?」

「へ?」

「ほら、3人でいるときは自分の名前で呼ばれた方が、嬉しいでしょー?」

「まゆちゃん、天才!」

「えへへー」


 そうか。そっか。2人にも、教えておいた方がいいよね。

 というか、教えたい! 好きな人に、大切な名前を呼んでほしい。


「佐山奈緒。それが、わたしの名前です」

「……奈緒ちゃん」

「奈緒さん!」

「うん!」


 あぁ、なんて幸せなんだろう。

 ただ名前を呼んでくれるだけで。それだけで、とても心が満たされた気持ちになった。

 きっと寂しかったんだろう。知らない世界に来て、自分じゃない名前を聞かされて。

 だから、今は。……ううん。これからはずっと救われ続けるだろう。


「2人とも、大好きです!」

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