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第96話:文化祭。これから1人ずつデートしてもらう!

 文化祭2日目。

 流石に三日三晩仕事漬け、なんてことはなく。

 1日に2,3回ほど休憩できる時間がある。クラス側としてはそこで文化祭を回ってほしいということなんだと思う。


 わたしもその休憩の時間を楽しみにしていた。

 というのも、やっぱり恋人になったんだから学生のうちに文化祭デートぐらいしておきたいでしょがはは!!


 考えることは確かにたくさんある。ファーストキスのこと。世界の選択のこと。

 でもそんなのずっと考えていちゃあ煮詰まってしまって、考えが出せなくなってしまう。

 そんなとき人は何を求めるか。


 そう、休憩である!!

 文化祭デートを3人で回る。キャッキャウフフなギャルゲー世界の文化祭を、わたしは楽しむんだぁ……。


「え、まゆさんと尊花さん、休憩時間被らないんですか?」

「そうみたいなんだよねー。人気な4人は必ず2人は置いておきたいってさー」

「へー……」


 どの辺が人気の4人なんだ?

 尊花さんもまゆさんも分かる。あと2人のうち1人は鈴鹿さんだろうか。

 じゃああと1人。誰だそんな羨ましい人物。


「だから、今日はまゆさんが美鈴さんを独占するのだー」

「独占って。なんかワルですね」

「美鈴さんの前では悪い子まゆさんなのです。がおー」

「きゃー!」


 なんて教室の前でやることになったんだけど、クラスの人からの目線が痛い。

 もしかしてわたしたちが付き合っていること、もろバレしてたりします?


「じゃあ行こっか!」

「あっ、ちょ!!」


 まゆさんはそんな困惑しているわたしを知りながら、あえて片腕に抱き着いた。

 あ、柔らか。匂いもいいにおーい……。

 じゃなくて。こんな状況にもだいぶ慣れてしまったわたしが怖い。

 それと、ナチュラルに抱き着いてくるまゆさんも。


「この体勢、まゆさんが腰痛めません?」

「まだ若いつもりだよ?」

「でも身長差」

「2cmぐらいなら余裕だよー。それともまゆさんに抱き着いてくれるの?」


 めちゃめちゃ期待の目線でわたしのことを見てくるなぁ。

 か、かわいいんだけど、さ。それはそれとして自分から抱き着くのはちょっと。ハードルが高い。


「こ、このままじゃダメですか?」

「…………美鈴さん、上目遣いなんていつ覚えたのー?」

「いつも2人がやってる戦法を試しに」


 地の利はわたしにあるんだぞ!

 だから抱き着かれていても、わたしが下から彼女を見つめるなんてことが可能なわけで。

 まゆさんはうなりながら、わたしの目を見る。うるうるしている仕草をしてみた。


「……それ、なしで」

「え?!」

「なんかあざとい美鈴さんなんて見たくない」

「なんでですかぁ?!」


 くすくす笑いながら、ふわふわの髪の毛を揺らす彼女。

 絵にはなるんだけど、あざといわたしが似合わないって、なんだよそれぇ!


「あ、お化け屋敷ですよ?」

「えっ?! ムリだよー! まゆさんは大きな音でびっくりさせられるのがダメなの!」

「じゃあ洋画ホラーとか見れなくないですか?」

「ムリムリー! 怖いの自体は平気なんだけど、音がなぁー」


 と、特殊なタイプだなぁ。

 でもびっくりするのは分かる。怒り声が苦手なのは知ってるけど、まゆさんは耳がいい方なのかもしれない。

 仕返しに今度耳攻めでもしてやろうか。


「グラウンドの、なにあれー!」

「え。なんですか? ……でっか?! なにあれ!!」


 今度は窓際からグラウンドを覗いてみると、大きな迷路状の建物が建っているではないか。

 パンフレットから分かるよね。えーっと……。巨大迷路。生徒会制作。マジか。すご。


「行きましょう!!」

「お、なんか興奮してるねー」

「オタクはこういう巨大建造物に憧れがあるんですよ!! さぁはやく!!」

「かわいいなー、美鈴さんは」


 今度はわたしが引っ張るという、なんだか珍しい構図だけどそんなことより巨大迷路だ!

 わーっはっはっは! 階段を下りて、下駄箱を経由して、グラウンドへ!

 いやでっか?! ジャンプして壁の向こう側が分かるなんてことはなさそうだ。


「人気ですねー」

「そうなんですよ! 会長が気まぐれで作ろうって言い始めたら、あれまあれまという感じで、ね。これ地図です」

「ありがとうございますー」

「お友だちとごゆっくりー!」


 わくわくのわたしと冷静に地図を貰うまゆさん。どこで差がついたのだろうか。

 わたし、これでも生前20年ぐらいは生きてたはずなのになぁ。


「ほらー、行くよ!」

「うん!」


 まゆさんがわたしの手を引いて、迷路の入口へと入っていく。

 中は結構薄暗い。

 とはいえ、太陽の光が入ってるからちゃんと道は分かるけど、壁が高いからだろうか。隅っこに行ったら、誰がいるかなんて分からないかもしれない。

 ちょっと怖いかも。


「見てー、蜘蛛の巣張ってるー」

「……凝りすぎでは?」

「だねー。ある意味お化け屋敷かもねー」


 なんだよ。なにニマニマこっち見てんだよ。


「怖いー?」

「こ、怖くないですし!」

「強がっちゃってー。こっちだよー」

「強がってまーせーんー!」


 本当に強がってませんよ。ホントだよ?

 でもなんと言いますか。ちょっと雰囲気出てるなーとか。本格的だなーとか思って呑まれてるだけですし。

 口には絶対に出しませんけど。


「次はこっちー」


 まゆさんの指示に従って巨大迷路の中に入り込む。

 きっと一人だったらギブアップしていたとは思う。だからこうして手を取ってもらって、地図を持って引っ張ってもらうのは嬉しくないわけがない。

 相変わらず頼もしい人だなぁ、って感心してしまうんだ。


「ここだね!」

「……行き止まりですけど」

「えへへー、迷っちゃったー」


 ……は?


「地図持ってましたよね?」

「うん。これだよー」

「地図通り歩きました?」

「歩いたよー」


「…………」

「…………」


 しばらく黙りこくった。

 目の前ではまゆさんがニコニコ笑っている。うわ。うわぁ! うわぁああ!!!!


「わたしを騙したなぁ!!!」

「わざと迷っちゃったー」


 なんでだよ!!!

 どうしてそうなるんだよ!!!!

 と、流石に大声で突っ込まざるを得なかった。

 なにがどうなったら、こんな辺境の隅っこに導かれるんだ。

 あ、そっか。わたしがあまりにもまゆさんに頼りっきりだったからかぁ。

 わたしのバカァ!


「まゆさん、地図を貸してください! ゴールに行きますよ!」

「ダーメ!」

「なんでぇ?!」

「なんでだと思う?」


 なんで、って……。

 まゆさんは物欲しそうにわたしの一点だけを見つめていた。

 それで気づいた。わたしたちがいま置かれている状況が、2人っきりであることに。

 彼女は静かに自分の唇を指さす。


「まゆさんに、キスしてくれたら許してあげる」

「ま、まゆさん。どうしたんですか急に……」


 目線がやや下に向いたと思うと、眉毛がハの字に曲がる。


「さっき、生徒会の人にお友だちとゆっくり、って言われたの」

「は、はい……」

「それが、ちょっと悔しくって」


 まゆさんはわたしの前に陣取って、わたしのことを愛おしそうに抱きしめた。

 自分の恋人はこの人であり、大好きなわたしは友だちではないということを示すように。


「世間ではやっぱりお友だちって思われるんだなー、って」

「まゆさん……」

「だから、まゆさんの些細な復讐。わたしと、ファーストキスして?」


 弥生まゆのファーストキス。

 なんという甘美な響きなんだろうか。

 巷で話題の美少女。ゆるふわで、近づくだけでいい香りがする。夢の中のお姫様みたいな女の子。

 そんな子のファーストキスをわたしが奪える。その事実に思わず喉が鳴る。


「尊花さんと、まゆさん。どっちか選んで?」


 唇は1つしかない。ファーストキスも同様に。

 2人を愛することができたとしても、わたしのファーストキスだけはたった1つしかない。

 多分悩んだのだと思う。わたしだって誰にファーストキスを渡すかずっと考えてた。

 考えて、もう結果は出ていた。


「わたしは……。尊花さんとファーストキスがしたいです」

「…………そっか」


 確かに2人とも好きだ。

 好きだからすっごく悩んだ。

 悩んだけれど、最初に出会ったあの子とキスがしたい。わたしの最推しとキスがしたい。

 そんな邪な考えが頭をよぎったんだ。だから……。


「ごめんなさい……」

「……なんか、振られた気分」

「振ってないです! ちゃんとまゆさんが好きです!」

「だよねー。……だーかーらっ!」


 直後、ほっぺたに柔らかい感触が張り付いて離れた。

 蘇るのは夏休みの思い出。そういえば、まゆさんに一度ほっぺたをキスされたっけ。


「美鈴さんのほっぺたは、まゆさんの物だよ」

「……それ、卑怯です」

「えへへー、まゆさん専用ほっぺたー」


 頬をすり合わせたり、キスしたり。もうなんだかやりたい放題だな、この女。


「くすぐったいですよぉ!」

「だって、それだけ好きなんだもん」

「っ……! そうですか」

「照れた。かわいいー」

「そんなの、当たり前じゃないですかぁ……」


 確かにこんな隅っこじゃなかったら、今より恥ずかしくて死んでしまったかもしれない。

 まゆさんの粋な計らいも、まぁ。よしとしますか。

実は100話で終わる予定です

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