第95話:文化祭。熱が行き交う想い
文化祭が始まるとどうなる?
知らんのか? 文化祭が始まる。
始まってしまったーーーーーーー!!!
人混みと人混みでごった返すお祭り!!
いわゆる文化祭ってやつがよぉおおおおおおおお!!!!!!
夏休みまでのお祭り2つは参加する側だったけど、今は主催側!
ってことでわたしも出店のお手伝いをしているというわけだ!
キッチンで汗を拭きながら、ホットケーキやパンケーキ、あとなんかケーキを作ったりするんだー!
ケーキなら任せろ、食べる側も作る側も。何度か作ったことあるし無問題ーーーーーははははははははははは!!!!!!!
「はぁ…………」
なーんて、キッチンで働いていればよかったのに、何故わたしは今ホールに居るんだろうか?
「美鈴ちゃん、スマーイル!」
「なれませんよ、わたしは所詮日陰者。こんなナウなヤングたちの中に放り込まれたら、溶け死ぬ……」
「死なないでー!!」
冗談はさておき、開店したてでお店にお客さんがいないということで、あまり混雑はしていない。
ただこのアイドルグループの統一衣装バリに合わせられたスタッフ制服を見るとさ、辛くなってくるんだ。
「美鈴ちゃんはかわいいんだから、もっと元気だして!」
「そんなこと言ったら尊花さんの方がかわいいです。もっとキャピキャピしてください」
「美鈴ちゃんも!」
「尊花さんもです!!」
何を意地の張り合いをしているのだろうか。
もちろん尊花さんの方がかわいいに決まっているというのに。
今回の衣装はフリフリは全面的に却下。
なので軍服をモチーフに改造。肩には王族がつけてそうなキラキラ。
腰はズボンではなく、スカートにパレオを履かせており、下からの盗撮も防げる。
ミスマッチ感があるかと言われると、お母さんデザインなこともありうまくまとめ上げているのが、さすがだなぁと感心する。
ちなみに色もそれぞれ3色に別れている。
尊花さんはパッションを意味するイエローが含まれていて、なんともお可愛らしい……。
わたしはクールを意味するブルーだ。なんでかは、知らない。
「2人ともかわいいよー」
「むぅ、まゆちゃんが一番かわいいじゃないですか」
「そうですそうです!」
まゆさんはキュートのピンク。まぁそれしかないよねって色。
だってゆるふわかわいいまゆさんはそれぞれの3つに当てはめるならキュート以外ありえない。
笑顔だって柔らかそうで、木漏れ日の妖精さんが笑っているようにしか見えない。
あー、かわいい。
「私もキッチンがよかったのに」
「いや、尊花さんは絶対ダメです」
「なんで?」
「ダメなものはダメです」
おかゆを焦がした戦犯にフライパンを持つ権利は与えられない。
残りの万葉さんがキッチン、鈴鹿さんもホールに入っている。今は休憩中だからホールには出てないけど。
「あ、呼ばれたから言ってくるねー!」
「いってらっしゃいー」
とたとたと走る感じ、いいな。
やっぱり揺れものがあると衣装も映える。
現役の服飾専門家がデザインしたんだもん。そりゃあ尊花さんの魅力も数倍に跳ね上がるというモオ。
「わたしの彼女、かわいいなぁ」
「だねー」
一生懸命注文を取って、メモしてとたとたと帰ってくる。
かわいい。
「万葉さん、パンケーキ2人前お願い!」
「任せろ!」
というか、万葉さん料理できるんだ。
料理できる男子って、意外と重宝されるからいいよね。
あと、鈴鹿さんって見るからに料理は食べる専門って感じするし。
「おう、何見てんだよ」
「ぴぃ! すいません!!」
ガンつけられたので謝りました。
「鈴鹿さんもクールでかわいいよ!」
「そうかー? ムリ言ってズボンにしたけど、可愛くはないだろ」
「いやいや、それがいいって人もいるんですよ。そこのお客さん見てください」
鋭いヤンキーみたいな目線がこちらを見ているお客さんに突き刺さる。
多分男装少女というのを好む腐ったお方なのだろう。
鈴鹿さんが見た瞬間、はしゃぎ始めた。オタクだ。わたしと同じタイプのオタクだ。
「ほら」
「ポニテにしろって、よくわかんねー指示もされたし、マジ意味分かんねぇ」
そりゃ見た目だけはクラス最強レベルだからだよ。
まゆさんがフェミニンチックだとすれば、鈴鹿さんはボーイッシュが似合う。
普段の口調や見た目の鋭さ。仕草なんかも微妙に男子に近いから、アイドル衣装にこっそり手を入れたら映えるんだよなぁ。
お母さん、ナイスだぜ。
とまぁ、そんな感じで午前中を過ごしていたら、風のうわさがどんどん強くなっていったのか、次第に忙しくなり始めてしまった。
「万葉さん、チーズケーキ1人前。あとレモンティーお願いします」
「そっちは任せろ。とりあえずこれ持ってけ! 3番テーブル!」
「了解です!」
あぁ忙し忙しい。
これだけ美人が揃っていたら、そりゃ忙しくもなるわ。
目まぐるしく変わるホールという名の戦場。わたしも余裕が無くなる程度には走り回っていた。
そしてこういう時に限って出てくるのが、トラブルだ。
「あ、あの。相沢美鈴ちゃんですよね?」
「へ? は、はい……」
「すごい、見て! 本物だよ本物!!」
「おぉ、美鈴ちゃんだ! すげぇ! 写真撮ってもいいですか?」
「あ、はい……」
多分『アイドル』としての相沢美鈴のファンだろう。
そっか。世間的には引退してから音沙汰なく、ここでばったり出会うことになるもんなぁ。
「すごっ! 顔ちっさ! 身体もかわいい!」
「かわいいぃ! これがアイドルなんだ!」
「あ、あの……」
さすがに次のお客さんがつっかえてるし、居心地悪いから早く戻りたいんだけど。
まぁそんなこと口にすることも出来ず。
しまいには……。
「あの! 連絡先交換してくれませんか?!」
「へ?!」
「お、おい。流石にそれは……」
「でもお知り合いになれるチャンスかもよ?!」
「それは……。まぁいいよね!」
よくねぇよ!!!
それ立派はナンパ行為だぞおい!!!
いくら芸能界引退したからって、そういうのは失礼に値するんじゃないんですか?!
って、言えればいいんだけど……。
「あっ、えっと……。その……」
どもる陰キャがわたしなんですよねぇ。
まぁいつかはされるだろうなって思ってたよ。
だから諦めて教えてしまおうか。それか気絶して逃げるか。
そう簡単に気絶できたら、もっとコントロールしてるって。
わたしが諦めかけていた、その時だった。
「お客様、従業員への声かけは禁止行為ですよ!」
「そうだよー、ナンパならよそでやろうねー」
わたしとお客さんの間に挟まるようにして、尊花さんとまゆさんが阻む。
その顔はわたしの方からは見えないけど、声色が完全に怒っている時の声だった。
うわぁ、美少女2人のセコムだ。これで怯まない女の子がいたら、多分勇者だと思う。
「あっ……。すみません、調子に乗っていました……」
「分かればよろしい! ご注文は何にするー?」
「というか、この子達もかわいい! 写真を撮っても!」
「ダメだよー」
まゆさんに接客を任せて、わたしと尊花さんは奥へと入っていった。
はぁ……。つっかれた。
「やっぱりいるんだね、あぁ言うの」
「学校じゃ見なかったから、ちょっと怖かったです……」
「美鈴ちゃん、本当にそういうの弱そうだもん」
うぅ、ずびばぜん……!
泣きそうな心をそっと頭を撫でて、慰めてくれる尊花さんには感謝しかない。
「ふぅ。とりあえずファンの子たちから注文もぎ取った!」
「まゆちゃん偉い!」
「ありがとうございました、まゆさん……」
全然だよぉ! と手を振るまゆさんにそれまでくすぶっていた不安が鎮火される感じがした。
やっぱり、2人は強いなぁ。わたし自身が強くならなきゃ、って気持ちはある。
でもいざあぁいう無自覚の悪意に呑まれた時、わたしはどうしていいか分からなくなる。
陰キャだもん。うまく断れるわけもない。そういう意味では2人の介入は本当に安心できた。
「尊花さんも、本当にありがとうございました」
「大丈夫だよー。お礼はいっぱい貰うから!」
「へ?」
「うんうん! 休憩になったら、3人でデートしよ!」
……。な、何されるんだ、わたしは。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ。感謝したことが間違いだったんじゃないかと考えてしまう。
だって今の2人の顔は、小悪魔が何を要望しようか楽しんでいるニヤニヤ顔なんだから。




