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第92話:包丁で指を切ったらよくあるイベント

 あれからクラス会議を経て、アイドルスイーツカフェとかいう、名前から見えるカロリーの重い出し物となった。

 もちろん女子のかわいい子たちはホールの戦力投入になったし、男子だってかっこいいイケメンどもは戦場に投下された。


 そう! もちろん尊花さんとまゆさんも戦力投入!

 すなわち、あの!!!!! 尊花さんとまゆさんのフリフリきゃっきゃ! なアイドル衣装を着てもらうことができたのだ!!!!!!!!

 ふぅぅぅぅぅひぃいいいいいはぁああああああああああああ!!!!


 代償としてわたしも何故かホール担当になったが。


「やっぱりわたし裏方の方がよくないですか?」

「よくない! アイドルスイーツカフェなのに、元アイドルが接客しないでなにがアイドルなの?!」

「熱く語るけど、わたしは元アイドルだから」

「関係ない!」


 この時ばかりは恋人の尊花さんが怖かった。

 おおよそ相沢美鈴にアイドルの影を重ねているからか、張り切るのは当然ですよね……。


「裏方だったら衣装ちくちくしながら、キッチンだって回せたのに」

「美鈴ちゃん、そんなに器用じゃないでしょ?」

「そうだけどねー」


 わたしと尊花さん。ほか数名は肝心のアイドル衣装の制作へと回っていた。

 コスプレグッズならともかく、本格的に喫茶店をやるなら一から作った方がいい。

 その方が動きやすさやオリジナリティなどが段違いだから! とお母さんの強い押しをわたしが伝えたら、なんか納得されてしまいました。


 そんなわけでミシンをカタカタしながら、それぞれのサイズと要望に合わせた装飾を作っていく。


「でも美鈴ちゃんって手先だけは器用だよね!」

「そうですか? これぐらい一人暮らしなら出来て当然ですけど」

「出た、美鈴ちゃんの一人暮らしネタ」

「あっ……」


 声に出すことではなかったなぁ、これ。

 まぁでも。自分でも驚くことに手先だけは妙に体に馴染む感覚がする。

 昔は裁縫や料理もしていた。ちょっとだけネイルにも手を出そうかなぁ、と思ってたが、告白が失敗して断念したっけ。

 いまならやり直すことも出来るかな。


「まぁいいか! 美鈴ちゃんってプラモデルも作ったことあるの?」

「ありますよ。有名な1/144とか。面白そうだなぁ、って作ったらすごく時間かかりましたけどね」

「へー、すごいなー」


 なんか、珍しく褒められている気がして鼻の頭が伸びてしまう。

 へっへっへ。実はわたし指先器用なんですよー。カタカタカタ。

 考えれば考えるほど、ネイルやってみたかったかも。今度まゆさんや尊花さんも誘ってやってみようかな。


 そんなボーっと考え事をしながら、次にミシンで縫い込むための仮留めをしていた時だった。


「いたっ」


 指先に感じる鋭いちくっとした痛み。

 あぁ、やらかした。人差し指の腹を見てみたら、小さく血だまりが浮かび上がっていた。

 どうしよう。強行作業したら布に血が付いちゃうし、いったん休憩かなぁ。


「どうしたの? って、指!」

「ん? あー、どうってことないですよ。このぐらい」

「でも……。うーん」


 尊花さんがわたしの手を取ってじっと指を見る。

 な、なに? もしかして血を見ると興奮するタイプですか?!

 今宵は血に飢えているヴァンパイアの尊花さん。いや、オオカミ人間かな?


 オオカミ人間だったら、ワンチャン尊花さんの頭に犬耳が生えて、しっぽもパタパタ振ったりするのだろうか。

 あ、やばい興奮してきた!

 わたしの方が血を見ると興奮するタイプだったわ!!!!


「ぱくっ」

「……へ?」


 またもや変な妄想を重ねていたところで、尊花さんはわたしの人差し指を口の中に入れた。

 ……入れた?!


 指先に感じるのは生温かくて、ぬるっとした口の中の感触。

 あ、子供のころ指先を口に入れて遊んでたっけなぁ。とかそういうことを思い出すんじゃない!


 と思えば、今度は指の腹に少しざらざらとした感触が通り過ぎる。

 それが何度も何度もわたしの指を愛撫するように、傷跡を舌で舐めていく。

 ぬるりとした唾液と、わたしの体温よりも少し冷たい不思議な感覚。閉鎖された口の中という空間は、わたしの理性を壊すには十分すぎるほどだった。


「と、尊花、さん……?」

「……っぱぁ」


 おぉ、唾液の糸だ。なんていうんだっけ。忘れたけどエンゲージゲートとかそんなんだった気がする。

 じゃなくて。え? いま何かされました?!


「あっ……。えっと。えへへ」

「え、えへへじゃないって言うか。尊花さん?!」

「て、てへぺろ!」


 古い! 古いよ尊花さん!!

 でも舌出しながら、ウインクするのは反則だよ尊花さん!!

 あの舌にわたしの指が舐められたんだ。とかそういう妄想しちゃいますし!


「…………」


 わたしが人差し指ずっと見ちゃいますし。


「あ、あのー。は、反応してくれないと、流石に恥ずかしい……」

「あっあっあっ! そうじゃないんです!! でも、どうしよう。この指洗えない」

「あ、洗ってよー! 消毒したから、水で洗ってバンドエイド付けて!!」


 半ば強引に持ち場を離れる用意して背中を押される。

 わたしも同性を恋人にしてそういうことを意識しないなんてことはできない。

 そっか、わたしも尊花さんやまゆさんのこと、そういう目でも見てたんだ。


 なら、この流水で流されていく尊花さんの唾液がもったいない気がして。


「間接キス、かぁ……」

「も、もう! ……恋人だから、やってあげたんだよ?」


 いつもよりも慌てている尊花さんを見て、愛しい気持ちがまた膨らむのを感じた。

 キス。そうだよね。付き合ってるだけじゃ、物足りないよね。


 ……ん? もしかしてファーストキスの相手はどっちか一人なのでは?

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