第85話:わたしのコタエハ
夏休み最終日。その日に大抵の学生はいったいなにをするだろうか?
えっ? 知らないの? ウッソだー! 絶対経験あるもん。
かくいうわたしですら経験ある。だって……。
「宿題……」
「美鈴ちゃん、途中まではやってるのに最後までやらないからー」
「そうだよー。コツコツやっての宿題なんだからー」
そんなこと言われましても、9割ぐらいあなた達のせいなんですけど!!!!
ということで今日は大切なことを伝える兼、宿題の残りを手伝ってもらうことを重視したお勉強会となっていた。
ま、ほとんど3人で遊びたいだけなんですけどねぇ。
わたしがひーこら言いながらペンで宿題を書いている目の前では、尊花さんが満面の笑みで頬杖付いてるし。
まゆさんはそれ以上に何故かわたしのベッドでゴロゴロしている。
くつろぎすぎか?!
「まゆちゃん、そこ美鈴ちゃんのベッドなんだよ?」
「んー? だって、ついさっきまで美鈴さんと暮らしてたから離れたくなくてー」
「嘘だー」
「うんー、ホントは美鈴さんの匂いに包まれたいだけー」
「ズルい。私も!」
あはは、モテモテというのは辛いですねぇ。
ベッドは占領されるし、家の中はほぼわたしが言わなくても把握済み。
なんか。自分がこれから言うことよりも、家の中を隅々まで把握されてる方が恥ずかしい気がする。
まぁでも……。
「あ、ホントだ! 美鈴ちゃんの匂いー」
「ねー。こっちは尊花さんの匂いも混じってるよー?」
「そういうまゆちゃんもだよー」
これって百合では?
目の前で人のベッドの上で友だちがイチャついてる。
これ、なんていう寝取られ展開ですか?
やめてください、わたしの地雷ですよそれ!!!!!
あと、ハブられた感じがして、ちょっと嫌です。
わたしはこほんとわざとらしい咳を出すと、話題をすり替えることにした。
「そういえば2人はあの後どうしたんですか?」
「んー? やっぱ気になるよねー」
「まぁ。まゆさんに関しては仲直り、というか。折り合い付いたのかなぁ、とは」
あの状況から絶縁まで行かなかった方が奇跡だ。
でも仲直りというのは絶対ありえない。だから何かしらまゆさんの中で一段落ついたのであれば嬉しいけど……。
「一緒にいる時は気をつける、って約束はしたよ。口約束だし、どこまで本気にするかは分からないけど……」
「じゃあ、一応決着は付いた、と」
「うん。初めてだったなー、家族会議。あんな神妙な面持ちでやるんだねー」
のんきだなぁ、まゆさんは。あはは。
家族会議なんてわたしのオタバレのときに1度経験したけど、本当にしんどかった。
こう、空気感が。ね? ずっしりと重たい。
「美鈴さんの方は?」
「私は何にもなかったかなー。強いて言えばお母さんに美鈴ちゃんとどんな関係か聞かれたぐらい」
それ、完全にバレてるじゃんか。
あの1回で全部把握って、すごいなぁ美鈴母。
「いいなー。2人ともお母さんが優しくて」
「「そんなことない(です)よ?!」」
偶然にも尊花さんと言葉が重なってしまった。
まぁ、言いたいことは分かる気がする。
「そう? 仲良さそうだしー」
「うちはお母さんが服飾以外では放任主義なだけですよ」
「私のところはむしろふわふわしてる割にはちゃんと見てるし。言いたいことはすぐ言うし」
でも。
「頼れるお母さん、って感じ」
「……いいなー」
一度絶縁宣言をしてしまった以上、今後まゆさんとお母様の間では溝が出来続けると思う。
だから他の家の事情を羨ましがるのはしょうがないことだ。
人間、誰もが生まれる親を選べない。
だからこそ、かけがえのない親子と折り合いをつけていくのが一番生きる上で賢い生存戦略なのかも。
ごめんいま適当言いました。
「で、ですね。わたしは2人に言いたいことがあるんです」
「んー?」
終わらせた宿題のノートを静かに閉じて、ペンを机に置く。
空気を改めるように、わたしは地べたに座っていた足を正す。
「……その。2人の告白の件、なんですけど」
「「っ!」」
2人もそれを察したのだろう。ベッドの上だが正座をした。
今から、わたしは2人の告白に対してお返事をするんだ。
大丈夫。考えて考えて。時には相談して。それで考え抜いて。
わたしはちゃんと答えを出せた、気がする。
「えっと、ですね。わたし、ずっと考えてたんです。例え尊花さんを選ぶとしても、まゆさんを選ぶとしても、きっと選ばれなかった方は笑顔にはなれないって」
ずっと考えていたことだ。
尊花さんにも、まゆさんにも。2人には笑顔でいてほしい。
だってその方がかわいいし。わたしも安心するし。
転生前。画面の向こう側で見ていた彼女たちはいつも笑っていた。
でも尊花さんもきっと画面の外では泣いていたかもしれないし、まゆさんに関してはその姿をしっかりと目に焼き付けていた。
悲しくて、辛くて。現実から目を背けたくて。ずっと笑えていなかった。
そんな人たちを、主人公が救ってくれる。笑顔にしてくれる。
このゲームだけじゃない。いろんな漫画で、小説で。
――ヒロインとは、笑顔が似合う女の子なんだ。
主人公でもなんでもない、一般ピーポーのわたしだけど、そんな自分にでも分かることがある。
「わたしは2人には笑っていてほしい。だから、わたしは今から2人にありえないお返事をします。できれば、笑ってやってください」
まさかゲームの主人公でもないのに、こんな決断を下すなんて思っても見なかった。
けど。けれどさ。こんなかわいい子たちがまた曇るなんて、わたしは死んでも見たくない。
ましてや友だちが悲しむところなんて、2回死んだって、何回ひき肉にされたって、絶対にノーセンキューだ!
「わたしは……」
――尊花さんと、まゆさんと。どちらとも付き合います!!
冷たい風が吹いた、気がした。
多分クーラーだと思う。ちょっと寒かったし。
うつむいた顔からちらりと2人の顔を見る。
だ、大丈夫かなぁ。二股女です、とか軽蔑されないかなぁ……。
「ふふ……っ! あはは!!!」
「もう、なにそれー! 美鈴さん優柔不断ー!」
案の定笑われた。
「まゆちゃん! 私たち、真剣な顔で二股宣言されたよ!」
「だねー。これにはまゆさんもびっくりだー」
「だ、だってぇ……」
まぁ、幻滅されるよりかは、いいけど。
なんか重大な決断を笑われたのは、前置きを置いたわたしでもそれなりに堪えるなぁ。
「まぁでも。美鈴さんらしいねー」
「うん。私たちの好きな優しい美鈴ちゃんらしい」
「……っ!」
ちょっと、泣きそうだった。
だって目の前でこれまで見たことのない安心しきったほころぶ笑みを浮かべるんだもん。
心の枷がやっと取れて、心底安心した想いで初めて作った笑顔みたいな。
はぁ……。わたしも、安心した……。
「まぁ、まゆさんも美鈴さんとならイケるところまでイケると思うし」
「えっ?! まゆちゃんそんな事思ってたの?!」
「まゆさんは意外と面食いなのだー」
「もー!」
人のベッドの上でじゃれつく2人を見て、疎外感を感じたのでわたしも中に入れてもらうことにする。
これはわたしたちだから成立した関係性なんだと思う。
お互いがお互いを大切に、好きに想って。歪ながらに繋がって。
だからきっと大丈夫。
わたしたち3人なら、ちゃんと恋人できる。
……あ、やば。わたしの口から恋人とか言う単語出てきちゃった。
へへっ。あー、なんか。
「楽しい!」
「うん!」
「そうだ、ねー!」
「わぁぅ!」
「きゃー!」
いつまでもこんな日が、続くといいなぁ。
まぁ、明日から学校行くんですけどね。
第5章、完結!
あと1章! 100話完結が目処です




