第84話:最低な選択もありっちゃあり
「おじゃましまーす……」
「おう、いらっしゃい!」
「なんでお前が先に挨拶してるんだよ」
おうおう、早速イチャイチャしてるのかカップルさんよぉ!
カミサマの言うとおりにするのは少し癪だったが、まぁ仕方ないか。と考えて、わたしは今櫻井邸に訪問している。
目的はもちろん響さんで、今日も執筆のために頭を悩ませていることだろう。
とりあえず今日は駅前で有名な黒糖まんじゅうを手土産に持ってきた。尊花さんとは数段格の差を感じさせる代物だ。
「お、お菓子か! イイもんだろうなぁ?!」
「もちろんです。今日は黒糖まんじゅうを持ってきました」
「へぇ……」
あ、ちょっと万葉さんの声がご機嫌になった。多分好きなんだ和菓子。
「後で食おうぜー!」
「後でな。義姉さんなら上にいるから」
「ありがとうございます」
軽く会釈をした後、階段を上って2階へと向かう。
確かこの廊下の奥が響さんの部屋なんだっけな。
なんというか、引きこもりが一番好きそうな部屋の角度してるなぁ、廊下の奥って。
引きこもりは大抵隅っことか狭いところが好きだからなぁ。と考えながらノック2回。
『なんだ。ご飯の時間にはまだ早いだろう?』
「わたしです、美鈴です」
『…………』
しばらくしてガサガサとした紙が擦れるような音が聞こえたかと思えば、扉が開いた。
以前と変わらず、インクのように黒い髪の毛にボサボサのロングヘア。
目が半開きなのはいつも通りだったが、メガネだったのは珍しい。
「入りたまえ。汚いところだがね」
「本当に汚いですね」
「一言余計だ」
だって汚いんだもん!
そこら中にノートのページの破片が落ちてるし、本だって乱雑に床に置かれている。
ページが開いたままの本がない辺り、本が好きな証拠なんだろうけど、それにしたって雑に置きすぎでしょ。地震が来たらどうするの。
あと、めっちゃ暗い。パソコンのデスクライト以外まったくと言っていいほど光ってない。
ゲーミングオタクの部屋かよ。
「おじゃましまーす」
「その辺に腰掛けたまえ。飲み物はそこの冷蔵庫の中に入ってる」
「部屋の中に冷蔵庫あるんですかぁ?!」
「小さいがね」
本当にゲーミングオタクの部屋かよ。
冷蔵庫の中身はコーラかエナジードリンクかな。
カパッ!
「……響さんって期待を裏切りませんよね」
「殴るぞ」
中に入っていたコーラ缶を手に取る。
キンキンに冷えてるなぁ。これは美味しいだろう。
「あ、これお土産です」
「……助かる」
ベッドの縁に腰掛けてから、コーラを一飲み。美味しぃいいいいいいい!!!!
心がウキウキになれる。
「で、相談事ってなんだ」
「実は……」
てことで、本題のどちらを選べばいいか、というのを響さんに相談してみた。
いろいろ事情を話してはみたものの、恐らく彼女の返答はこれに尽きるだろう。
「知らんがな」
「ですよねー」
知ってた!
「そもそもなんだ。キミは自分が告白されたから他人にどちらがいいと答えを求めるのか?」
「そんなわけないですよ! ただ、どちらかを選ばなきゃいけないってことは、どちらかを選ばないってことで……。なんか選ばれなかった方が可哀想だから……」
本音をこぼす。実際これで悩んでいるんだから仕方ない。
きっと友だちは続けられると思う。
けれど、選ばれなかった方には多少なりとも心に溝ができるはずだ。
取り除きたい、だなんて思わない。けれど自分がその溝を作ったって事実が、やっぱり怖いんだ。
あぁ、嫌な奴。これじゃあ我が身可愛さで保留にしてるのがバレてしまう。
そんなわたしを見て呆れたのか、腰掛けていた椅子から天井を見上げるようにため息を吐き出した。
「キミは結局誰が好きなんだい?」
「それは……」
「ボクは別にどうでもいいから、適当なことしか言わないが……。これだけは言わせてほしい」
「な、なんですか……?」
そして向き直り、こう口にする。
「どっちの方が好きだとか、くそくらえだ!」
「えぇ……」
ドン引きした。そんなことかよ。非モテの愚痴じゃないんだぞ。
「ボクだって嫌ほど恋愛小説を書いたさ! だが、こっちのヒロインよりあっちのヒロインの方がよかった。くっつくならこっちがいい。このヒロイン以外あり得ない。作者はクソだと、散々言われてきたよ!!! あぁ、腹が立ってきた」
黒糖まんじゅうのフィルム剥がして、そのままかぶりついた。
なに、めちゃめちゃキレてるじゃん。もしかしてこの話地雷でした?
「それが嫌でボクはヒロインを1人にした。それがたまたま新人賞に入賞した。ただそれだけだ」
えっと、それってただの自慢話では……。
甘くなった口の中を一気にコーラで流し込むと、響さんは最後の言葉を口にした。
「いま気づいたが、何も主人公がヒロインと何人くっついてもいいって話だ」
「…………え?」
それは今まで聞いた中で、可能性はあっても割と口にしないようにしてきた内容だった。
つ、つまり、それって……。
「ハーレムしろってことですか?」
「世の中には魔法の言葉があるだろう。一夫多妻制、と」
「いやいやいや!! それはっ!!」
「不純、とは言わせないぞ? 愛の形は人それぞれだ。1人愛そうが、100人愛そうが、本人たちが納得していればいいんじゃないか、って話だ」
本人たちが、納得していれば……。
確かにハーレムだったら、本人たちが幸せならそれでいい節がある。
でもそれはゲーム内の話であって、世間体では……。うーむ……。
「大体、さっきからキミは答えを出してるじゃあないか。2人とも好きだと」
「…………」
「何も切り捨てる必要はないとすら思っている。どっちも好きなら、どっちにもいい顔をしておけ」
わたしは思わず吹き出してしまった。
あぁ、ダメだ。この人本当におかしい人だ。
でも何も間違ってないかもしれない。
例え世間体がダメだとしても、そもそも女の子同士のカップルなんて世間から見たら変だと思われそうだ。
それに、わたしは2人が好きだ。どちらかが悲しむ顔を見たくない。
だから切り捨てる必要なんてない。2人に笑っていてほしいんだから。
「最低ですね」
「ボクは今、適当にモノを言っているからね」
「だけど、最高です」
「この茶請けも最高だったよ」
お互いにくすりと笑った。
本当に最低な選択だと思う。けれどわたしらしい。ううん。わたしたちらしい選択だと、信じたい。
「吉報を待っているよ」
「はい!」
それから付き合ってくれたお礼に小説の案出しをした。
相当ぶっ飛んだ考え方だけど、彼女も一生懸命考えてくれたと思ったからだ。
ま、最低なアイディアだけどもね。
次回、5章終わり!




