第79話:打ち上がる花火が当然のように落ちてくる
花火大会は河川の方で打ち上げられる。
確かにその辺りで打ち上げられる場所といえば限りがあるのは間違いない。
なのでわたしたちは1度履いたことのある下駄をカタカタと鳴らしながら、会場へと歩いてきたのだが……。
花火大会とはいわばお祭り。お祭りといえば、蘇る前回の人混みである。
「うぇー」
「あはは……楽しみすぎて抜けてたや……」
抜けてもらっては困るのですが。
見渡す限りの人! 人! 人!!
なんだこれは。何をしているんだお前たち。そこはわたしたちが通る路上だぞ。なんでそんなところで立ち止まってるんだ!
おい! 路上でシートを広げてビールを飲むんじゃない! 普通に迷惑だぞ!!
「や、やっぱりすごいねぇ、いつも」
「そうなんですか?」
「うん、コトノハ神宮祭と、この花火大会はこの辺じゃあ一番人が集まるイベントなんだー。だからああやって警察さんも動くわけでして」
「あぁ……」
路上でシートを広げていたおじさんが、警察に連行された。
そりゃそうなるよね……。
「美鈴ちゃん、大丈夫?」
「それを言うなら尊花さんも」
「……えへっ」
えへってなんだよ!!
あからさまに自分が体調悪いの誤魔化したなこの女!
わたしは当然のように気分悪くなってるのに、元陰キャの尊花さんが気持ち悪くならないわけがない。
つまるところ、わたしの引き際を見て自分も逃げるつもりだったな?
尊花さんのことが分かってきたからちゃんと考えられるようにはなったけど、実はわたしと同じタイプだったようだ。
推しの『実は』、なんてギャルゲーで見飽きてるし、そんなことで覆るような推し愛をしているわけがない。
なので引いたりしないけど、そのえへってなんだよ!!!
「あはは! そんなおふたりに素敵な場所へのご案内があるんだけど、どうする?」
「素敵な場所って?」
「まず人がいない!」
「行きます」
即決だった。
「決断はやいねー」
「そりゃ人混みですもん。多少見えづらくたって!」
「ところがどっこい、それはどうかなー」
「え? まゆちゃん、それって……穴場?」
「さー行こー!」
わたしたちの足は軽かった。
だって人がいないし、花火が見やすいなんて、すごい穴場じゃないか!
まゆさんがこんなことを知っているなんて思わなかったなぁ。
都合が良すぎて、何かの策なんじゃないか心配になっちゃいますよ、もぉ!
……その場所を誰に教えてもらったか、をわたしは知ってるんですけどね。
「じゃじゃーん、近場の公園~!」
「おぉー!」
やってきたのは川沿いに沿って外側にある住宅地にポッカリと空いた公園だった。
人はまばらにはいるが、人気も少ない。なにより見上げれば夜空がよく見えて、花火の打ち上げも恐らくストレスなく見れることだろう。
誰が教えてくれたんだろうなぁ、この場所。あはは、はぁ……。
「あれ、美鈴さん、お気に召さなかった?」
「ううん。わたしは今、聖地巡礼と緊張の間で生きているんですよ」
「はぁ……?」
何も気づいていないまゆさん。
ここは昔、まゆさんが彼女のお母様と一緒に花火を見に来た場所。
つまりお母様はここを知っていて当然なわけで。
何が言いたいかというと、この場所でまゆさんのイベントが発生するんだよなぁ。
なんとか言いたいことをまとめなきゃなぁ。
えーっと。えっと……。うわ、驚くほど論破されそうな言葉しか出てこない。
「美鈴ちゃん、難しい顔して本当に大丈夫?」
「え?! あ、はい」
こういう重大なイベントには立ち会ってこなかった。
だってそれはほとんど万葉さんがやっていたことで、わたしは何一つやっていないから。
怖いなぁ。怒ってるだろうなぁ。
でもまゆさんを連れて行かれないように、わたしがちゃんとしなきゃ……。
「…………美鈴さん」
「は、はい! なんでしょう?」
「花火大会、嫌だった?」
「へ?」
そんなわたしの考えを撃ち抜いたかのように、まゆさんはわたしの隣で真剣な眼差しを向けていた。
「まゆさんも思ってるよ。お母さんと会うかも、って」
「あはは、言ってましたね」
「でも美鈴さんは言ってくれたもん。納得の行くような形にしてほしいって。美鈴さんが、まゆさんに勇気をくれたんだよ?」
確かに言った。
でも今度はわたしが動かないといけないわけだから、こう言葉を考えているわけで……。
「プレッシャー、感じてるんだよね?」
…………。
「あはは、そうみたいです。人の家のことに口を挟むって、何様だよーって思ってたから。やっぱり怖いものは怖いです」
勇気はそう簡単には出てきてくれない。
それは転生しようが、引きこもりから脱しようが、告白されようが、きっと変わらない。
臆病者が勇気を持つってこと自体、すごいことなんだから。
そう何度も出せるようなものでもない。
「……大丈夫だよ、まゆさんもそうだから」
「だったら、その分わたしが……!」
「ううん。まゆさんと美鈴さん。それから尊花さんもいるんだよ」
まゆさんの目線の先。そこには少し怯えながらも疎外感を感じていた尊花さんが意外そうな顔をしていた。
「好きとか告白したとか関係なくて。まゆさんは友だちだから助ける。そうじゃないの?」
尊花さんと目が合う。
そうだ。そうじゃなかったら夏休みからずっと匿おうなんて思ってない。
大切な友だちだから。だから助けたいって願った。そこにはちゃんと勇気があるんだ。
不意に夜空に大輪の花が咲いた。
色とりどりの花が咲いた。
大きな音を立てて、舞い上がる花火たちはまるでわたしたちに勇気を与えてくれた気がして。
「……そう、ですね。わたしたちは1人じゃない。3人ですもん! なんとかなります!」
「うん。まゆちゃんの納得の行くような結末にする!」
「ありがとう、2人とも!」
この3人で見た花火は綺麗な思い出になる、と思いたい。
思い出す度にまゆさんが連れて行かれたなんて暗い思い出にしてたまるか。
夜空に咲いている花のように、みんなに自慢できる光り輝く思い出にするんだ!
「……まゆ?」
そうだ。例え今から……。
「お母さん……」
戦うとしても。
次回、VSママ




