第78話:そういえば今日花火大会なんだが
「そういえば、今日の花火大会どうするの?」
「え?」
はなびたいかい?
花火、たいかい
花火大会?!!!!
あ、あの。唐突なことすぎてすっかり忘れていたのですが、そんなイベントもありましたねぇ……。
しかもまゆさんルートでめちゃめちゃ重要なところじゃんか……。
「あれー、もしかして知らなかった?」
「あー、えっと……。家から出ない性分でして……」
それは本当なんだけど、気が抜けていたというのも確かだった。
夏の終わりの花火大会。これはまゆルートにおいて重要な意味を為す。
いわゆる親フライベント。まゆさんと母親が顔を合わせてしまうというものだ。
原作なら、連れて行かれるとそのままバッドエンド直通ルート。
なんとかして言いくるめられたら、ハッピーエンド、という2つに1つの選択だ。
このゲーム、あんまりバッドエンドがないんだけど、ここだけは何故かあるんだよなぁ。
あのエンドで、どれほど心を折らされたか。うぅ……思い出しただけで心がしんどい……。
「浴衣ならこの前のお祭りのやつがあるし、美鈴ちゃんとまゆちゃんも行かない?」
まぁ、そうなりますよね。
正直夏休みが終わればそのままバッドエンドも見えるわけで。
まゆさんとの約束の期間はもう2週間を切っている。先延ばしにするのも限界があった。
「わたしはいいと思います! ちょうど見たかったですしね、花火!」
「ホントにー?」
「本当ですよ! わたしをなんだと思っているんですかぁ!」
「私と同じ人種だと思ってるよ」
「うぐっ……」
だから今回はあえて心を鬼にする。
こういうのは多少荒療治でもなんとかすべきだ。その手札は、今から作るんですけどね!
一応まゆさんのお母様がどういう性格で向かってくるかは知っている。
あとは選択肢もない、生の言葉をぶつけるだけ。
それがとてつもなく陰キャには難しいんですけどね!!!!!!!!!
「まゆちゃんはどう?」
「うん。……外、かぁ」
そしてまゆさんを外に出すのも一苦労なわけで。
分かる。分かるぞぉ! 引きこもりは大抵外に出るのが億劫になるもの。
それは時間が経てば経つほど重く鈍くのしかかってくる。
わしにも覚えがある。
「……まゆちゃん? どうかしたの?」
「……あはは。やっぱり、怖いなぁって」
尊花さんにはまゆさんの事情をある程度伝えてはいる。
彼女も理解してくれていたし、頭の中ではちゃんと解決しようと考えているんだと思う。
けれど、いざ目の前でへこんでいるまゆさんの姿を見ると、決意が鈍る。
このままわたしの家に匿っていれば、つかの間の平穏が保てるのではないだろうか、って。
結論から言う。そんなのはまやかしであると。
ゲームがどうとかじゃない。これはただ単純にわたしがオススメしない、ということだ。
高校を中退して、高校卒業認定試験を受けてまで卒業の資格を得た後、わたしがどんなみじめな気持ちで過ごしていたか。
語るつもりはない。けれど、少しだけ先を行くものとして、時には勇気が必要だと教える必要があった。
わたしはベッドの端に座って、まゆさんを隣に座らせるように誘導する。
「美鈴さん?」
「ちょっと真面目な話をしようかなー、と思いまして」
今のわたしじゃ説得力はないかもしれない。
けれど、わたしじゃないと伝えられないこともある。
戸惑いながらも、まゆさんは隣に座った。
「……やっぱり、美鈴さんも帰ってほしい?」
「わたしはまゆさんがちゃんと納得して帰ってほしいとは思ってます」
ただただ平坦に。声を荒げず。ただ、ゆっくりと語る。
震えている手をそっと握り、大丈夫だよ。ゆっくり話すから。そう諭すように。
「多分、いま両親と話すのは怖いと思います。わたしもそう思いますし。でも両親っていうのは、嫌だろうと両親なんですよ。子供が親を見ているように、親も子供を見ている」
そうでないと引きこもりの子供を1年も放ったらかしにしない。
1年も面倒を見ようとは思わない。
「どんな結末でもいい。けれど、まゆさんと両親がちゃんと納得の行くような話し合いをしてほしいんです。そのためなら、わたしはなんだってします!」
「美鈴さん……」
わたしのことを好いてくれてるなら、お礼もちゃんとしなきゃいけない。
それに、友だちのことは放ってなんかおけないし!
「も、もちろん私だって頑張るよ、まゆちゃん!」
「尊花さんも……。うん、ありがとう」
ガラスのように、触れればヒビでも入ってしまいそうな儚くて透き通っていて、美しい笑みを浮かべる。
頭の中でいくらか予行練習はした。友のためなら。わたしは頑張れる。
あの笑顔のためなら。
「やっぱり、美鈴ちゃんは優しいね」
「うん。こんな面倒なまゆさんを置いて逃げないんだもん」
「と、友だちですし……」
なんか急に恥ずかしくなってきたんですけど?!
もう友達以上恋人未満みたいな関係性だけど、わたしにとってはまだ。かろうじてまだ友だちです。
「ね。美鈴さん、ほっぺた出して?」
「え? こうですか?」
ライトピンクのもみあげを少しかきあげる。
そんなにほっぺた見たかったのかな。その時だった。
――ちゅ。
わたしのものではない。ぷるんと柔らかな感覚。
そして同時にほっぺたがほんの少し吸い取られたような触感。
まばたきが5万回繰り返された気がした。
あれ? 今なに? 何された?
やたら隣のまゆさんの顔が近いような。
尊花さんもわなわなと震わせているし。
これ、あれですよね。口に出してはいけないようなきがするんですけど。
だけどあれですよねあれ!!!!!
「ま、まゆちゃん!!!!」
「えへへ、ほっぺただからまだセーフだよー!」
「まゆちゃんーーーーーー!!!! それはライン超えーーーーーー!!!」
テーブルを乗り越えて、尊花さんがまゆさんのボディにポコポコ拳を入れていた。
威力は低そうだし、まゆさんは笑ってる。きっと痛くないんだろうなぁ。
あぁ……。わたしほっぺたにキスされちゃったよ……。
「もーーーー!!! まゆちゃんのヘンタイーーーーー!!!」
「ほら! 海外とかではよくある親愛の行動だって……。美鈴さん?」
「どうしたのまゆちゃん」
物言わぬ石像がそこに1体立っていた。
「「み、美鈴ちゃん(さん)?!!!」」
めがみのキスには気絶属性が付与されていたらしい。




