第77話:尊花のおはなし
尊花のおはなしです
尊花視点です。
どんどん眠りに、闇に落ちていく。
美鈴ちゃんの胸の中で安心しながら、落ちていく。
こんなに頑張ったんだから、推しの胸の中で寝落ちするのぐらい許されてもいいはず。
でも、カミサマはそんなことをお許しにはなられないみたいだ。
落ちた先の夢の中では少し身体が小さい自分が、痛い部屋のベッドの上で体育座りをしていた。
「あぁ、夢か」
本来の私なんてこんなものだ。
内気で引っ込み思案で。自分に対して、他人に対しても勇気が持てない。
そんなダメな子。それが、市川尊花の真実だ。
見た目からしたら、恐らく中学生の時だろう。
まだ美鈴ちゃんを知らなかった時期の話。
『やっぱり、女の子を好きになるって、変だよね……』
ある時、ふと気づいたのだ。
私は男の子よりも女の子にしか目が行かない。
友人として、同性として安心できるならいざ知らず。その目線は少しだけ欲めいたものであった。
大きな胸を見たら心臓の鼓動が早くなるし、きめ細やかな肌に触れてしまうと、自分がどうかしてしまいそうな気持ちになる。
きっとイケないことなんだ、と思って私は自分の中に押し殺した。
調べたら、同性しか愛せない人がいるって目にした。
私もそうなのだろう。少しだけ頭を抱えて、そんなことを感じた。
「なんであんなコト思っちゃったんだろうね」
自覚すればするほど、自分が変なのだと実感するようになっていた。
自覚すればするほど、私が目で追っている子のことが好きなのだと感じるようになっていた。
その子は当時暗かった私なんかにも手を取って、笑ってくれるクラスのアイドルみたいな存在だった。
中学生にしては発育もよかったし、ボディタッチもそこそこ多くて、その度にドキリと心臓が脈打ったし、心に悪い感情を抱いていた。
なんで私なんだろう。とずっと思っていたし、もしかしたら私のことを……。なんて勘違いしてしまうほどに。
でもさ。そういう時に限って、だいたいこういう話を聞くわけだよ。
誰が好きだとか。誰々のことを気になっているー、とか。
私は、その子が普通に男の子が好きな女の子だと知って、絶望した。
あぁ、私の恋は、きっと叶わないんだなぁ……。って。
『普通にならなきゃ……』
でも普通ってなんだろう?
普通って、みんなが当たり前にできていることを、異常者の私が真似てもそれは普通になるのだろうか。
何を持って普通なのか。それがイマイチ分からなかった。
気づけばその女の子とは距離を置くようにしてたし、自分から迷惑をかけないようにと一人になることが多くなっていた。
中学生活もこれなら、高校生活もこんな感じかな。
受験勉強しながら、何となしに考える。
諦めムードの中、ペンを走らせる。胸の内を打ち明けられる友だちがいたら、きっと楽だったんだろうな……。
「そんな時に出会うんだよね、美鈴ちゃんと」
落ち込んでいた私が書店で目にしたのは、かわいいアイドルが可愛くポーズを決めている雑誌だった。
ファッション雑誌かな。それともティーン向けの? 分からないけど、この子すっごくかわいい。
興味を抱いて、その場で購入。帰ってから読んでみることにした。
内容は実際にティーン向けの雑誌だった。
今どんなのが流行りだとか、気になるあの子にどうやってアタックすればいいか、とか。
私が一番気になったのは雑誌の表紙を飾っていた子のインタビューだった。
くりっとして大きなタレ目。
ライトピンクのミディアムのサラサラヘア。
肌も白くて、きっと触ったら跳ね返ってくるぐらいのハリがあるんだろうなぁ。
総じて愛されるために生まれてきた存在。遠い彼方にいる宇宙人のような感覚でいた。
インタビューも明るくて元気な表情そのもの。
そんな表情に引かれていく。
『もし同性に好かれたらどうしますか?』
インタビューの質問にこんなのがあった。
確かに高校生は女の子同士の交流が盛んになる、と聞いたことがある。
好かれるって言っても、どうせ遊び程度だろう。なんて邪推した考えを持っていた私にとって、彼女の言葉は以外そのものだった。
『うーん。相手によるかな! 好きって言われるのは嬉しいよ。でも見知らぬ誰かから言われるのと、親しい人から言われるのは違うでしょ? だから親しい誰かから受け取る好きは男女問わず考えちゃいます!』
バッサリ切らずに。でも勇気を持ってくれた親しい人に対して真摯に向き合う姿に私は感動した。
読み進めたインタビューには、こんなのも書いてあった。
『高校デビューがしたいけど、勇気がなくって……。美鈴ちゃんはどうしますか?』
『頑張る! しかないよ! なりきる勇気や違和感はすごいと思うけど、最初だけだと思うから! それに、次第に勇気を出した姿が自分になっていくんだから楽しくなっていく! わたしはそう思うなー!』
この子はしっかりしている。
自分をちゃんと持っている偉い子だ。
普通の子の当たり前に最初はなれないのは当たり前だ。
でも、そうなりたいと願えば。行動すれば、やがて当たり前になっていくんだ!
そうして私は変わっていった。
ヘアスタイルやメイク。それから言葉遣いに元気の出る言葉。
とにかく美鈴ちゃんを参考にしながら、いろんなことを試していった。
芸能界を引退した、と聞いた時はショックだったけど、雑誌の中に書かれた彼女の言葉は本物だ。
とにかく努力して。頑張って。それで……。
『ナチュラルメイクもバッチリ。髪の毛も跳ねてない。そして笑顔もよし!』
高校に初めて行った時はびっくりした。
だって美鈴ちゃんが桜の木の下でバテてるんだもん。
在りし日の姿とチグハグだったけど、私は声をかけていた。
やっぱり違っていた。あの時は無理していたのかもしれない。
だからだろう。接しているうちにほっておけなくなったのは。
しょうがない。仕方ない。そんな世話を焼かせたくなる気持ち。
変なの。舞台の上ではもっと輝いてたのに。しおれた花みたいになってたんだもん。
そんな中でも、笑顔だけは変わらなかった。
私が愛した。私が惚れた笑顔を見せてくれた時は胸がキュッと締め付けられた。
結局変われなかったんだな。でも美鈴ちゃんになら。いつか口にしたい。自分の気持ちを。
「……ん」
そうしてスズメが鳴く朝を迎えていた。
あぁ、そういえば昨日は美鈴ちゃんの胸の中で寝てたんだっけ。
なんか申し訳ないなぁ。赤ちゃんみたいで。
「……すぅ……すぅ」
「まさか私が美鈴ちゃんと一緒に寝るまで行くとか、1年前の私じゃ考えつかないよね」
美鈴ちゃんのリラックスしきっただらしない寝顔を見て思う。
あぁ。やっぱり、好きだ。
『相沢美鈴』とかいう女たち




