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第76話:胸の奥で眠るキミは

 わたしは数多くの女(1人だけ)と寝たが、なんというか。その……。

 目の前に最推しがいるの、めちゃめちゃ照れちゃうなぁ。


 眠そうに目元をとろーんと半開きさせながら、わたしのことを見つめてくる。

 そのマリンブルーの瞳は何を物語っているのだろうか。

 どちらにせよ。わたしの天寿を全うする瞬間が近いということかもしれない!

 さようなら二度目の人生、わたしはこのまま自宅のベッドという墓の中で永遠の眠りにつくのだわ……。


「美鈴ちゃん、どうしたの?」

「あ、いえ。大したことじゃないです」


 危ない。危うく天に召されるような顔をするところだった。

 というか、耳元で尊花さんのひっそり声が聞けるの、たまらない。

 マジで? なんでわたし推しの生ASMR聞いてるの?


「えへへ、今度は私とだね」

「わたしとしては勘弁してほしいというか……。恥ずかしい……」

「それは私もまゆちゃんも一緒だよ」


 それはそうかもしれないけどさぁ。

 今まで想う側だった人が、なにかの手違いで想われる側になって。

 それも美少女2人からって、もうこれバグりすぎでしょ。

 夏休みに入ってから毎晩緊張しっぱなしだ。


「でも嬉しいよやっぱり。好きな人とベッドの上で向かい合うの」

「そういう恥ずかしいこと、言うのやめてください……」

「美鈴ちゃんの方がいっぱい言ってるよ」


 そうかぁ?

 わたしは思ったことしか口にしないから、口から変なことを言っていないかめちゃめちゃ心配だったりするんですけど。

 そっか。そんなに恥ずかしいこと言ってたか。


「例えば……?」

「入学式の時、桜の木にまた一緒に来てくれるー? って言われたときとか」

「そんなに前の話……」

「えへへ、ずっと前から気になってたからねー」


 それはおおよそ出会って間もない、というかほんの数分だったはずだ。

 けど尊花さんはこんなにも想っていてくれて。

 元々知っていたっていうのは分かっていても、この認識の差で頭が少しバグりそうになる。


「……尊花さんって、いつからわたしのことが好きだったんですか?」

「へ?! いつから。うーん、いつから、かぁ……」


 そんなに悩むこと? それとも言いづらい、とも言うべきなのか。

 胸の内を晒すのは勇気がいる。それは誰もが知っている。

 だからちょっと失礼なことを口に出してしまったかなぁ、と失敗めいた気持ちにはなっていた。


 そんなわたしを気遣って、優しく微笑みかけてくれた。

 はうっ! カワイイがすぎるなわたしの推し!!


「大丈夫だよ」

「でも……、言いづらいのかな、って」

「あはは、美鈴ちゃんは心配性だなー。実際そうなんだけどね」


 そうなんじゃん。


「だから、ちょっと勇気をくれないかな?」

「尊花、さん……?」


 布団の中に潜り込んだ尊花さんは、そのままわたしの身体の下に腕を滑り込ませる。

 腰に添えられた片方の腕も含めて、ギュッとわたしのことを抱き寄せる。

 胸には尊花さんの頭があって……。


 え、いま抱かれてます、わたし?!!


「ん……。美鈴ちゃんの匂い」

「い、いい匂いじゃないと、思いますけど……」

「私は好きだよ。安心する」


 尊花さんのふんわりとした髪の匂いがわたしの鼻孔をくすぐる。

 あぁ、なんか。緊張してきた。わたしの胸の音、聞こえてないよね?

 聞こえてたら、めちゃめちゃ恥ずかしい。


「あっ。胸、すごく脈打ってるね」

「それ、響きがいやらしいですよ」

「えへへ。嬉しいんだもん」


 ただ単純にドキドキしてるんですー!

 こういう状況で改まって抱きしめられたことがないから、鼓動が早くなっているのは仕方ない。

 そう、仕方ないんです! ……多分。


「………………」

「…………」


 まるで鼓動が部屋全体を覆ってるかのように、耳の奥がドクンドクンと鳴っている。

 心臓が張り裂けそうだ。こんなかわいい子に、こんな事されてどうにかなってしまいそうだ。


「……私、中学生の時は今みたいに元気ハツラツなんかじゃなかったんだ」

「言ってましたね。内気だーって」


 胸をくすぐるようにこくんとうなずく。


「こんな自分を変えなきゃって。そう思っても勇気が出なかったの。……そんなときに美鈴ちゃんに出会って、変われた」


 そうか。それでわたしのことを知っていたんだ。

 え、じゃあ尊花さんが高校デビューしたきっかけって……。


「美鈴ちゃんは私のなりたい光なんだ。輝いていて、笑顔が素敵で。とってもかわいい。そんなアイドルみたいな光」


 きっとわたしが上書きしてしまう前の、本来の相沢美鈴のことだろう。

 元々そういう性格だ。人に影響を与えても、おかしいところじゃない。


「だから髪もちゃんと梳かして、笑顔の作り方を勉強して、コミュニケーションだって。高校に出て、いっぱい頑張ろうって思ったら美鈴ちゃんがいるんだもん。びっくりしたよ」

「あはは、なんか、すみません」


 高校デビューのきっかけはわたしであり、そんなわたしと接してきて恋心を抱いてしまったんだ。

 悪いことじゃないけど、『相沢美鈴』って結構罪な女だなぁ?!


「でも。やっぱり、人は簡単に根っこのところは変わらないんだよね」

「……尊花さん?」

「内気で引っ込み思案なところは、今も変わってないから。ここが、一番安心できる」


 いままで、尊花さんはずっと元々できる側の人間だと思ってた。

 周りを照らす光で、わたしみたいな人に手を差し伸べてくれる、素敵な女の子。


 でも逆だった。

 わたしと同じ内気で引っ込み思案の陰キャだからこそ、尊花さんはわたしが気になってしまった。

 自分を感じたから、わたしと交流して好きになったんだ。

 カワイイ女の子。その正体がこんなにも儚い子で。

 今、わたしにできるのは、そっと彼女を抱きとめることだと思った。


「ん……」

「……頑張りましたね」

「うん……」

「………………」


 こんなにも儚く美しい女の子。

 わたしは、そんな子たちとどうなりたいのだろうか。

 今はただ。そっと抱き寄せてあげることしかできない。


 好き。という気持ちはある。

 振りたくない、という気持ちもある。

 どうしたら、いいんだろうね。

揺れるママママインド

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