第75話:悪運のグー
疲れた。本当に、疲れた……。
夕飯の後も半ばおもちゃのように撮影会。
あぁ、アイドルってこんなにも体力使うんだ。
体力作りが基本とは聞いたことがあったけれど、まさかこれほどとは……。
最後の方は笑顔すら作れないぐらいにはへばっていたと思う。
そんな感じで夜は更けてもう寝る時間。
わたしも夜更かしの生活を繰り広げているわけではない。ホントだよ?
ただそんな時に問題が起きるのは、この2人なわけで。
「じゃんけん」
「ぽん!」
尊花さんとまゆさんがじゃんけんをしていた。
これはもう、なんというか。結果がわかってしまった。
わたしはこれからどちらかと一緒に寝るんだろう、と。
「やった、勝ったー!」
「……悪運のグー」
まゆさんが凹んでる。多分負けたのだろう。
というか、この前のお祭りでも負けてたし、昼頃のときだって。
もしかして、まゆさんじゃんけん弱いのでは?
「まゆさん、わたしともじゃんけんしてもらっていいですか?」
「んー? いいけど……」
じゃんけんぽん。
わたしが出したのはチョキ。そしてまゆさんは、パーだった。
「ま、また負けた……」
「あ、あはは……。そんなときもありますよ……」
嘘だ。多分まゆさん、なんの因果かは知らないけどじゃんけんがめちゃくちゃ弱い。
たまにいるよね。冗談抜きで何故か弱い人。
完璧超人だと思っていたまゆさんにこんな弱点があったとは……。
今度からまゆさんにじゃんけんマウントを取れそうだ。
そんなどうでもいいことを頭の中で考えていると、後ろから肩をちょんちょんと小突かれた。
なんだろう。多分尊花さんなんだろうけど。と振り向けば案の定その通り。
持っているのは枕? あ、そういうこと。
「わたし、ちゃんと寝たいんですけど……」
「私と一緒じゃ、ダメ?」
「い、いや、そのぉ……」
あれ、身長はわたしの方が下だったような……。
でも心なしか背中が丸くなって、背丈も縮んでいる気がした。
くそっ、かわいいなおい。さすが最推しというか。そんな顔をされたら、うぅ……。
「……うぅ。ぐぉおお!!」
「悩んでるねー」
「そんなにダメなんだ……」
しょんぼりと眉を下げられても……。
で、でも最推しと寝れる機会というのも早々ないわけでして。
でも疲れが。あー、どうしよう。
「まゆさんとは一緒に寝てくれたのにねー」
「へ?」
「あ……」
隠していたことをあっさりとバラすその顔は、少しだけ口元が緩んでいる。
こ、こいつ?! 意図してバラしたな?!!!
「へぇー。へぇ……」
「い、いや。あの……。ま、まゆさんにお願いされたと言いますか……」
「確かにお願いしたのはまゆさんだったけど、ちゃんとお断りはできたもんねー」
「まゆさん?!!」
当の本人はクスクスと笑っていた。
こ、こいつ!!! わたしをおちょくって遊んでいるな?!!
爆弾を目の前にして火遊びするなんて、そんな悪い子に育てた覚えはありませんよ!!!
「じゃ、じゃあ……。私とも、いいよね?」
「うっ……。は、はい……」
藁の壁、一晩経たずして崩れ去る。
いや、わたしも疲れてなかったら、お誘いに乗るつもりでしたし。ホントですよ?
逃げ切れなくなったのはまゆさんの自己申告のせいなわけで。どうして……。
「こういうのは平等性が大事だとまゆさんは思うんだよー。尊花さんにもチャンスを上げないとねー」
「ま、まゆちゃん!! 私はまゆちゃんが女神に見えるよ!!」
「ほっほっほー、あがめたまえー」
わたしは女狐に見えますけどね。
きっとまゆさんなりのケジメの付け方というか、家出して恋のライバルである尊花さんに何も言わなかったことが割りと罪悪感として残っているのだろう。
まゆさんはかなり周りを気にする。だからいい子になったわけだし。
わたし個人としては、両親と仲直りまでは行かなくても、和解はしてほしい。
そして両親と一緒にどういうことをすべきなのか。それを今一度考えてほしさはある。
まゆさんがどう思っているかは分からないけど、両親はたった一組しかいないわけだから。
まっ! わたしには前世も含めたら2組いるんですけどねーーーーーー!!!!
なんでいるんだろう(遠い目)。
「じゃあ寝る準備しなきゃ! 楽しみだなー!」
「お、お手柔らかに……」
「頑張ってね、尊花さん!」
女狐がなんか言ってますよ。はは。
でも、気にしてはいるんだろうな。まゆさんは優しいから。
ちらっとまゆさんの顔を覗き見る。
最近、まゆさんの表情がやんわりとだけど分かるようになっていた。
これは多分、ちょっとだけ無理してる顔だ。
そりゃ恋敵に好きな人を一晩取られるのは、嫌ですよね。
「まゆさん」
「な、なにー?」
「明日は3人で寝ましょう。敷布団3人分出してきて」
「……まゆさん、そんなに無理してるって思われてた?」
「だいぶ」
いい子としての癖は、やっぱり一朝一夜で変わるものではない。
だからじゃんけんを言い訳にしないと、心が押しつぶされそうになりますもん。
わたしはそっとまゆさんの背中をさすった。
「わたしは尊花さんもまゆさんも、同じぐらい好きですよ」
「なにー、急に……」
「だからいっそ3人で付き合えたらなぁ、とか考えちゃいます」
「……贅沢だねー」
考えたことはあった。
でも3人で付き合うって、それを2人は納得してくれるだろうか。
だいぶ変なことを言っている自信はあるし、常識を覆すような付き合い方だ。
わたしも、まだまとまってないからこう考えもする、と言った状況。
でも、理解と納得をしてくれたら。
自分の答えがそこにあるのなら、誰も傷つかない。
「今は、もっと尊花さんとまゆさんをもっと知ろう、って思うんです。好きなこととか、考えてることとか。そういうのいっぱいいっぱい集めて。ちゃんと答えを出したいです」
「……美鈴さんは本当に優しいね」
「そうですか? 割と普通だと思ってましたけど」
「まゆさんだったら、こんなカワイイ子2人に告白されたら、二股かけちゃうかも」
「うわぁ、悪い子だぁ」
「ふふ。ありがとー」
でもそういう考え方だってできるんだ。隠し事はしたくないから、大っぴらに二股かけるかもだけど。
「ほら、美鈴さんも行っておいで!」
「はい! まゆさんはお母さんと一緒に寝てあげてください!」
「おぉー、ドキドキだー」
まだ分からないことだらけだけど、一つひとつ知っていきたい。
それが好きにしてしまったわたしの責任だと思うから。




