第74話:褒められるのは気分がいいので調子に乗って後悔する
「撮影会って、なんの?!」
またもや声を出してしまった。
いや、マジで撮影会って何?
あれか、アイドルが某マップの壁紙の前でポーズしてるやつ!!
壁紙だけでいかがわしい雰囲気を漂わせて来るんだから、大したやつだよ、あれは。
って話じゃない!
尊花さんがノリノリでスマホのカメラを構え始めた!
「美鈴ちゃんのだよ!」
「だからなんで?!」
尊花さんの目がギラついている……!
そうか、尊花さんから時々感じていたオタク特有の視線はこれだったんだ!
恋愛的に好き+オタクとして好き+おちょくり相手、ともなれば、そりゃあんな目をするわ!! わたしにもそういう経験ある気がするし!!!
「や、やめましょう尊花さん! これはあなたのためにはならない!」
「大丈夫だよ! 私のためにしかならない!!!」
「うわー、潔いー」
まゆさんもちょっと引いてるじゃないですか!
こうなった真面目風オタク委員長を止めるにはどうすれば……。
まゆさんに助けを乞うための目線を煽る。
た・す・け・て
アイコンタクトを送る。
受信したな? まゆさんとばっちり目が合った瞬間!
普段目が合わないわたしだが、この時ばかりは必死である。
しばらく目を閉じてまゆさんが考える。
あー、まつげ長いなー。なんかくるんとしてるし。かわいいー。
とか思っていたら、目を開けてウィンク。
「かわいく撮ってあげよう!」
こいつーーーーーーーーー!!!!!!
裏切った!! 悪い子まゆさんここに爆誕だ!!
そういえばこの子もわたしのこと好きでしたねぇ!
尊花さんとまゆさんが、がっちりと握手を重ねた。
そういう協力プレイはアニメの中の主人公とライバルだけで十分なんだよぉ!!!
思わず恐れおののいて、半歩下がる。
こいつらはもはや天使や女神などではない。
悪魔と女狐だ。わたしのチェキを撮るために悪に下った、悪い子たちだ!
「い、いやぁ、あの。カメラを見ると、こう気分が……」
「いつもと変わらなかったよね?」
「な、なんというか。こんなダサTシャツで撮るのは……」
「部屋にいろいろあるよね?!」
「…………」
「ふふふ……」
尊花さんの論破攻撃! こうかはばつぐんだ!!
どうしよう、逃げ場がない。気分的自由。衣装的自由。そんなものはすでに封じられている。
残るのは恥だけ。これさえ捨ててしまえば、おそらく……堕ちる。
「んー」
ヌッ?! まゆさんが何かを考えていらっしゃる!
ここから大逆転チャンスか?! まゆさんが思いとどまって「やっぱりー、無理矢理やらせるのはダメだと思うんだー」とか言うに決まってる!
さぁ、その答えは何だ、弥生まゆ!!
「やっぱり、無理矢理やらせるのはダメだと思うんだー」
「そ、そうですよね?! わたしなんかよりも――」
「だからまゆさんも一緒にポーズキメるねー!」
そういう意味じゃないって!!
赤信号 みんなで渡れば こわくない。
じゃないんですよ!!! 恥を捨てるために自分を捨ててくるとは、なかなかに強キャラムーブすぎる……!
どっちかというと狂キャラか?
「あ、ずるい! 私も!」
「じゃあ交代にしよっか!」
「うん!」
あぁ、終わりだ。
かわいい衣装で彩られて、かわいいポーズでキメて、クラスのLINEに写真が更新されるんだ。
あぁ、今生の恥がまた一つ増えそうだ。
◇
「こうかな?」
「かわいい、かわいいよまゆちゃん!」
「…………」
「美鈴ちゃんももっと笑って!」
なにも楽しいことがないのに笑うことなんてありますか?
仏頂面で撮り始めた撮影会は順調に進んでいた。
元々まゆさんは家の服を必要な分だけ持ってきていたし、尊花さんだって、ここ3日の分は持っている。
そしてわたしのクローゼットにはたくさんの華やか衣装!
わーい、わたしが主役だー! あはは!!!
なんで陰キャが主役にならねばならないのか。
正気に戻っても、わたしはしょせん万葉さんのヒロインだったわけで。
何が悲しくてこうやって手の付け根を擦りつけながら、片足を上げているのだろうか。
隣には合わせとして撮っているまゆさんもいて。
ま、まぁ。それはそれで役得と言いますか。かわいいまゆさんが目の前で見られるのを嬉しくない、というのは嘘なわけで。
さらに言ってしまえば、次第に自分がかわいいのではないだろうか?
という一種の洗脳にかかったような感覚を味わってくる。
尊花さんが無限にかわいい! とか、最高! とか口にしてくれるから、徐々に気持ちも高揚していっているのだ。
「こ、こんな感じですか?」
「そうそれ! かわいいよ美鈴ちゃん! 愛してる!!」
「え、えへへ……」
オタクちゃんってそういうこと平気で口にするよねぇ。
口にしている方は別に気にしてないけど、こうやって言われている側になって分かったことがある。
これ、めちゃめちゃ嬉しいわ!! かわいいって言われるの気持ちがいい!!
あー、これをあと1年半ぐらい前に知っていれば、今もわたしはアイドルでいられたかもしれない。
そのぐらいモチベーションとしては高い。
「今度はまゆさんが撮るねー!」
「うん!!」
隣変わって尊花さん。
コーデとしては初秋の色どりというべきだろうか。
このメタメタ暑い夏に、よくそんな衣服を持ってきたなぁ、って感じだけど……。
「そのベレー帽、やっぱりかわいいですね」
「……うん、ありがとう!」
ちょっと照れくさそうに頬を赤らめながら、残暑が少し和らいだ晴れの日みたいな笑顔を光らせる。
うわ、わたしの推しかわいい。最高か?
「はい、じゃあ行くよー!」
「「うん!」」
それから服を着替えてから撮って、ポーズをキメてから撮って。
そんなことに夢中になっていると、気づけば夕方になっていた。
何枚撮ったんだろう。尊花さんがスマホの画面をスクロールさせつつ、わたしは一人ソファーでぐったりしていた。
つ、疲れた……。尋常じゃないほど。
遊園地で遊び疲れた帰りみたいなテンションになってる。
上がったテンションを元に戻すように、わたしの興奮は冷めていく。
同時に疲れが眠気を誘発して……、眠い。
「ぇはー……」
「これとこれとこれとこれとこれはまゆちゃんと共有してー。こっちはクラスのLINEに……」
「それは勘弁してー!」
クラスに晒されるのだけは、マジで勘弁してください。
「ふふ、冗談だよ! 私とまゆちゃんだけのメモリーだもん!」
「ねー! こんなかわいい美鈴さん、誰にも共有したくないもん!」
こいつら仲いいなぁ。
同じ恋のライバルだけではなく、まさか親友というレベルにまでクラスチェンジしたとでもいうのか。
まぁ、張り合っていがみ合うよりは、100億倍マシなのは間違いないんだけどね。
「ただいまー、美鈴ちゃん」
「あ、おかえりなさい」
「お邪魔してますー」
「尊花ちゃん、ありがとうございま……。その写真は?」
あ。わたしのお母さん(元アイドルの母)がわたしの写真を見ている。
なんか。なんかすごい嫌な予感がしてきた。
「尊花ちゃん、これ全部わたしにコピーしてもらってもいい?」
「いいですよ!」
「待って! 待って!!!!」
こうして、親バレの瞬間は訪れたのであった。
これから先、何かと弱みを握られた気分になってしまった。




