第73話:陰キャの天敵はカメラ
「はぁ……」
トイレで一段落。
わたしともなれば、気絶したら数分ぐらいで回復するのだ。
ご飯を食べ終わったわたしは、とりあえず逃げ込んだトイレの中でこれからのことを思案していた。
恐らくだけど、今日明日と尊花さんとまゆさんの攻め方が苛烈さを極めるだろう。
猛攻に対してわたしが為すべきことは2つぐらい。
ひとつは、もうサクッと相手を決めて片方からはもう攻撃を受け付けませんムードにしてしまうこと。
これができれば苦労はしないんだけどなーーーーー!!!!
未だに2人の間で揺れ動いてるんだから、サクッと決めるなんてことはムリ。
むしろ、自分のものにしようと攻め込んでいるのが2人なわけで。
だから手段としてはもうひとつしかない。
頑張って自分のペースを作ることだ。ダラダラゆったり。もう何も考えることをしなくなる思考停止感。
これがわたしにできる唯一のお泊まり会攻略方法だ!
「よし、戻ったらテレビを点けよう。そして何も考えてない顔でダラーっとするんだ!」
蛇口を捻って、トイレから出る。
思考も尿意もスッキリしたぜ。やはり便器は知識の泉だ。
「スッキリしたみたいだね!」
「と、尊花さん?!」
「私もトイレ!」
あぁびっくりした。聞かれてるかと思った。
入れ替わるようにトイレに入った尊花さんを背に、わたしはリビングでひとりのまゆさんに挨拶する。
さて、作戦行動開始だ。
「尊花さんはー?」
「トイレですって」
「まゆさんも後で行ってこようかなー」
ご飯を食べたあとだからか、まゆさんの語尾が妙にぼけぼけな気がする。
かわいいなぁ。空調の効いた部屋。ご飯後の眠気。昼下がり。そりゃ眠くもなるか。
おもむろにテレビをつけてから、わたしもソファーに座り込む。
あ、やば。普通に眠くなってきた。
気を緩めたら、今度は何が飛んでくるかわからないのに……。
「ふあぁ……」
「ねむいー?」
「なんか、最近いろいろありましたし」
「そーだねー」
未だに考えている。2人にとっても、わたしにとってもハッピーになれる関係を。
こういう時に誰かの助言が必要だけど、鈴鹿さんは「気が合えばいい」と言う。
気が合えばって、尊花さんとはオタク語りではしゃげるし、まゆさんとは気が合うというか、気を遣ってもらっているというか。でもムリはしてなさそうに見えるから、気が合ってるんだろうな。
ぶっちゃけて言おう。このまま友達以上恋人未満の関係が心地いいのだ。
曖昧ですべてを先延ばしにした、夏休みの宿題をやらない期間みたいな。
楽しいことだけがずっと続いていく感覚。はっきりしない気持ちが水の中に溶けていきそうになる。
でもこの夏休みは必ず終わりが来てしまう。
8月31日。もしくはまゆさんの家出が終わるまで。
「まゆさんねー。このままじゃダメだと思うんだー」
「と言うと?」
「心の整理がついたら、ちゃんと家に帰ろうって思って。美鈴さんが言ったように、いい子のままじゃ都合のいい子になっちゃうもん」
まゆさんにだって、絶対に罪悪感があるはずだ。
黙って家を出てきて、何も言わずにわたしの家に居座っている。
心配しているだろうか。怒っているだろうか。怖いだろうなぁ、これからが。
「その時は、美鈴さんと尊花さんに来てもらいたいんだ。勇気を分けてもらいたいから」
「……そんなの、もちろんですよ! 誰かに反対するって、怖いですもん!」
「えへへ、だよねー。……ありがとうね、美鈴さん」
だいすきだよ。
眠たい頭を傾けながらそう言う。
あの。サラッと告白されるのは流石に心臓に悪いのですががが……。
さては狙って言ったのではないだろうか。まゆさんのことだ。割りとありそう。
だが、そんな甘くふやふやした空気感は、ひとつのシャッター音で切り替わる。
「尊花さん?」
「へへへ、撮っちゃった」
構えていたのはスマホ。
振り向いた矢先から、またパシャリと撮られてしまった。
「な、なんですか?!」
「たまには写真撮りたいなー、って思って! ほら、美鈴ちゃん、いっつもカメラから離れようとするし!」
そ、それはそうなんだよなぁ……。
陰キャって、何故か写真を撮られたくないっていうか。
あの精神はいったいなんなのだろうか。今や現代社会だ。写真に写し出されたら魂が抜き取られるなんて迷信は昔のもの。
でもなんとなく嫌なものは嫌なのだ!
スマホを向けた尊花さんにわたしはソファーを利用して、影に隠れた。
「あー、すーぐ隠れるー!」
「だって、カメラですし」
「まゆちゃん!」
「うんー!」
ガシッと腕を取られて、引きずり出そうとする。
ちょっ! チカラつっよ! 待って。尊花さんのときも思ったけど、わたしってそんなに筋力落ちているのか?!
こんなチカラが弱そうな女の子に? 簡単にカメラの前まで引きずり出されてしまうほどに?
鬱だ、死にたい。
「や、やっぱり筋肉なんだね」
「美鈴ちゃん、どうしたの?」
「わたしも、筋肉があったらカメラに写らずに済んだのかなぁ、って」
「それは無理だと思うよー?」
やっぱダメかぁー!
しぶしぶフリースペースに引きずられたわたしはどうしたらいいか分からず、オロオロする。
本当に陰キャだな、わたし!!
「うーん……」
そんな様子に尊花さんは不満げである。
な、何かポーズでも取った方がいいのか?!
ポーズ、ポーズってなんだ? ゲームの一時停止ボタンだっけ? 違う?
「よし! 美鈴ちゃん、撮影会しよう!」
「へ?」
撮影会、って……なんの?




