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第72話:1日1回イチャイチャじゃんけん!

 今日は尊花さんが泊まりに来る日だ。

 この日のために入念に掃除した。もちろんまゆさんと一緒に!

 おかげで昼前なのに、身体はめちゃめちゃ疲れたし、今すぐにでも布団に入ってぐっすり眠りたい気分だ。


 ただ、この綺麗な部屋を見ていると、掃除の成果はちゃんとあったなぁ、と感じるわけで。


「楽しみだねー」

「ですねぇ……」


 しかし、わたしは1つ懸念していることがあった。

 この夏休みの間、尊花さんとまゆさんは一度たりとも出会ったことがない。

 むしろ、2人の告白の後はやや犬猿とした仲になるのではと考えていた。

 2人ともわたしを争う恋敵なわけで。だからわたしを取り合ってしまいかねない、と考えるぐらいには怖かった。


 その時は「わたしのために争わないで!」とでも言えばいいだろうか。

 多分だけど。それを言ったら最後、絶縁まで行くな、うん。


「まゆさんと美鈴さんの愛の巣に尊花さんが来るんだねー」

「その言い方、どうにかならなかったんですか」

「大丈夫だよー」


 大丈夫、って。何が大丈夫なんだ。

 いま、一瞬だけまゆさんが信用できなかったぞ。


 そんなことを考えている間に、ピンポーンとインターホンが鳴る。

 間違いない。この正確な時間。5分前行動と言えば委員長の得意技だ!


「お、お待たせしましたー!」

「尊花さん!」

「待ってたよー」


 少しだけ大きいキャリーバッグをガラガラと音を鳴らして、玄関に入ってきたのは尊花さん。

 先日お泊りしようという、強制的な約束を取り付けられたが尊花さんなら全力歓迎しようじゃないか!

 はぁ、今日はなんていい日だ。尊花さんにまゆさん。両手に花とはまさにこのこと。

 思う存分「何もしない」を堪能しようじゃありませんか!!!!


「あ! そーそー、尊花さんには最初に言うべきことがあったんだー」

「なにー?」

「まゆさんも、美鈴さんに告白したんだー」

「「なっ?!!!」」


 ぴったりと声だけはハーモニックしたが、多分考えていることは別なんだろう。

 驚きと驚愕と、それから意表を突かれた、びっくりした表現がちょうどいい。

 尊花さんは目をかっぴらいた。口も空いてた。


「そーいうことだから名実ともに、尊花さんのライバルってことだねー」

「ま、負けないからね……!」


 おぉ、なんたることか!

 目の前で美少女と美少女がわたしを取り合って争っているじゃないか!

 見える! わたしには2人のオーラが見える!

 わんことオオカミだ! 尊花さんが犬で、まゆさんがオオカミね。

 どっちも種族一緒では?


「じゃあ、早速準備通り……!」

「うん!」


 こ、これは! いきなり拳を天高く上げて、それから――!


「「最初はぐー! じゃんけんポン!!!」」


 やっぱり夏祭りの時のじゃんけんだった。

 尊花さんはチョキ。まゆさんがパー。尊花さんの勝ちだった。


「やった! また私の勝ち!」

「うぅ……、また負けた……」


 なんというか、戦い方が基本的に平和に見える辺り、2人ともかわいらしいというか。

 目の前でキャットファイトなんてされたら、それこそ困るしね。


 で、このじゃんけんにはいったいどういう意味合いが……?


「と、とりあえずリビングに行きませんか? もっと涼しいと思いますよ」

「あ、そうだね! お邪魔しまーす!」


 これがすべて玄関で行われていたことだと思うと、なんだかシュールだ。

 全部クーラーが聞いているリビングでやればよかったのに。

 まぁいいや。これからは「何もしない」をだらだらと繰り返せばいいんだから!


 なぜ「何もしない」をこんなにも言い繰り返しているかといえば、最近いろいろありすぎて疲れたんだよ……。

 慣れない恋愛とか、すぐに体力が持っていかれる。

 せめてもうちょっと段階踏んでほしいよ。2人同時に相手とかじゃなくて、さ。


「では……」


 はて。なぜわたしの前に立つ市川尊花。


「ど、どうしたんですか?」

「私はまゆちゃんとのじゃんけんに勝ちました」

「はい」

「わ、私と、その……。1回イチャイチャしていただければ……、と」

「はいぃ?!!!」


 今日イチの悲鳴が出た。

 何て?! イチャイチャしたいって?!! なんでさ!!!!!


「尊花さんと、1日1回じゃんけんをして、勝った方がその日美鈴さんを好き勝手していい、って決めてたんだー」

「わたしご褒美扱いですか?!」

「嬉しくないのー?」


 いや、それは……。

 嬉しい嬉しくないとかそれ以前に、わたしとイチャイチャする券をこんな簡単に付与していいものなのだろうか。

 いや、もっと言おう。恥ずかしいです。


「いいんだよー。まゆさんは壁のシミだと思ってくれて」

「そういう意味じゃ!」

「じゃあ。……する、ね?」

「待って、何するんですか?!!!」


 最推しに「するね?」と言われたら、もうなんか破裂しそう。

 最近気絶してない気がするけど、もうそれ以上に内臓がパァン! って破裂する!!

 で、でも、わたしはご褒美なわけですし。

 わたしも2人のことはちゃんと好きだから、断る理由もなくて。


 言われるがまま、ソファーに座ったわたしは尊花さんと向かい合わせになる。

 な、何が、行われる……?!


「手、出して」

「は、はいぃ……」


 両手のひらを尊花さんに向ける。

 尊花さんもその手に触れる。

 あ、お祭りの時にも味わったひんやりとした手だ。

 これ、なんだか落ち着くかも……。と、考えた矢先だった。


 生糸のようにわたしの手の隙間へと尊花さんの指が落ちてくる。


「あ、あわわ?!」


 あっという間に4つの隙間が尊花さんの指で埋まる。

 残っていた小指はそんな手を落ち着かせるみたいにホールドする。

 こ、これって、もしかして……。


「こ、恋人つなぎ……!」

「な、なんか恥ずかしいね……」


 待って待って待って!!!

 待ってを3回繰り返しても待ってくれない天使さまは実は堕天してるな???

 じゃなくて! これは、その。本当にガチっぽくて、ヤバいかも……。


「美鈴ちゃんも」

「……ぴ、ぴぃ」


 言われるがままされるがまま。

 ご褒美と言われたら、それはもうおもちゃみたいな扱いだろうとしなければならない。

 指を曲げるたびに尊花さんの指を強く感じる。ひんやりとした手は、わたしを熱くさせるのに十分なほどの熱量を宿していた。


 そうして完成したわたしと尊花さんの愛のゲートに、わたしはもう処理能力が限界だった。

 脳はオーバーフロー。これ以上何か情報を詰められてしまったら、すぐにシャットダウンするレベルだ。


 は、早く解かなきゃ。

 でもわたしだけではこの拘束は解けない。

 あ、ダメだ。わたし死んだかもしれん。


「え、えへへ……」

「あはは……」


 でも尊花さんの幸せそうな笑顔を見たのであれば。

 それも本望、かな。ガクッ!


「あ、あれ? 美鈴ちゃん?!」

「……座ったまま気絶してる」


 わたし、相沢美鈴はオーバーフローを迎えて、再起動を始めた。

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