第71話:ようこそオタク至上主義の部屋へ
「尊花さん、ご相談があるんですけど……」
「ダメです」
おうおう、そうかい。相談する余地もないですか。
腰をがっしりとホールドされて、身動きが取れない。
なんというか、ちょっと柔らかくて丸いものがお尻にあたっている気がするけど、まぁ気のせいだろう。やっぱり大きいなぁ……。
「ここは、ほら。惚れた弱み的な」
「弱みで嫌われたら困る……」
そんなにか。ここはもう引き下がった方がいいかな。
本来の目的である、間接キッス&プリンあーん事件からは気がそれたわけだし。
でも、うーん。そこまで言われてしまうと気になってしまうわけでして……。
「わ、わたしもオタクだから! ソシャゲとかいっぱいやってるし!」
「…………」
「だ、だいぶ疑いの目ですね……」
「……だって、私の思ってる美鈴ちゃんって、すごいキラキラしてる子だから」
誰その美鈴さん?!
って、わたしが憑依してしまった前の美鈴か。
そういえば、尊花さんはアイドルだった頃のわたしを知ってるんだっけ。
今までの様子を見ていたら、そんなのは幻想で、今のわたしがこんなだから別にキラキラしてるわけじゃないんだけどなぁ。
わたしはちょっと体勢がきついけど、身体をねじって尊花さんの頭を撫でる。
ちゃんと手入れしているのだろう。ふわふわだし、流れるような感触で気持ちいい。
「ふぇ?! な、なに?!」
「い、今のわたしを見てほしいなぁ、とか思ってみたりして……」
「……くすっ」
笑われた?!
「ちゃんと見てるよ! 見てるから、時々混乱するの。私が見てきたアイドルと今の美鈴ちゃんの違いに」
そ、それは。マジですみません……。
わたし、器用じゃなかったから干されて、アイドルやめて今のニートなわけでして。
でも。やっぱり尊花さんも感じてたんだ、相沢美鈴の違和感が。
いつか、尊花さんとまゆさんには言いたい。転生してきましたー! って。
「じゃ、じゃあ! 今のマヌケで情けなくて不甲斐ないオタクのわたしにお部屋を見せてくれますか?!!」
「……それとこれとは」
「ですよねー」
でも。
尊花さんは小さく否定の意を込める。
「……美鈴ちゃんには、本当の私を見てもらいたい。でも、うーーーーーん!!」
めちゃめちゃ悩んでるじゃん。
そこって、素直に見てもらいたいでいいのでは!?
わたしも多分そんなに悩むけども。
それとそろそろ尊花さんのシザークロスがエグくなってきた。
痛い。めちゃめちゃ痛い。貧弱な身体を長時間締め付けられるのは結構腰にダメージを与えますよ。
「尊花さん、そろそろ、ギブ…………」
「あ、あ! ご、ごめんなさい!!」
開放された身体はぐでーっと床に崩れ落ちる。
情けない。わたしは今、尊花さんの家のモップみたいなもの。
いや、どっちかと言ったら雑巾かな。また絞られるのか。
「ごめん、美鈴ちゃん……」
「い、いいんですよ。お詫びにお部屋を見せてもらったら」
「ホントにこだわるね……」
だってここまで来たらめちゃめちゃ気になりますし。
「……分かった。でも、手をつないでもいい?」
「へ? いいですけど」
のそのそ立ち上がったわたしの手を掴む。
最初はドキドキしてたけど、尊花さんが事あるごとに手を握ってくれるから、最近はちゃんと彼女の柔らかさとか優しさを感じるようになっていた。
ちゃんとチカラ加減考えてくれてるんだなー、とか。やっぱり肌すべすべだなーとか。そんなことばかり。
同時に勇気もちょっと分けてくれてるみたいで、わたしも嬉しかった。
「こっちです」
連れてこられた扉の前には、開けるな厳禁、という看板。
うーん、このなんたら・ポッターと秘密の部屋感。
尊花さんはそのドアノブに震える手を添えて、開け放った。
「なっ?!」
「……こちらが、私のお部屋です」
まず目に入るのはキャラクターのタペストリー!
それから布団には抱き枕! 普通のじゃない、女の子のキャラが描かれたカバー付き!
さらにぬいぐるみ! これはちょっとディープなゆるキャラだ!
あっちは変身アイテム?! こっちは缶バッジが飾られたコルクボード!!
お、おおおお!!!
「オタク部屋だーーーーーー!!!!」
「み、美鈴ちゃん!!」
「す、すみません! でもここまでのオタク部屋、こっちに来てから初めてだから!!」
すごい、前世でも今世でも見たことのあるオタクグッズやアニメのポスターがいっぱいだ!!
あっちは先日ライブに行ったムーちゃんとみーちゃん! それからりんちゃん3人のキーホルダー!
こっちは確かバーチャル配信者のグッズだ! アクリルフィギュアだ!
うわぁ、ここ天国かぁ? しばらくここで推しの空気と一緒に息をしてたい。
「あ、あはは……。なんかその様子、全然引いてないね」
「どっちかというと尊花さんの方が引いてますね!!」
「そんなに目をキラキラさせてる美鈴ちゃんを見たの初めてだから……」
すぅーーーーーーーはぁーーーーーーーーーー!!!!
最高か。相沢美鈴の中の佐山奈緒が叫んでいる。ここで生活しよう、と。
「わたし、ここに住みます!!」
「美鈴ちゃん落ち着いて!」
「……ハッ!」
肩を揺さぶられて、気づいた。
ここで生活したら、尊花さんと同棲していることになるのでは?
い、いやぁ……。それはそれで嬉しいけど、わたしの心と身が持たない。
「そ、そこに座って」
「は、はい……。すみません、年甲斐もなく興奮してしまって」
「大丈夫だよ、私も美鈴ちゃんの部屋に行ったときもこんな感じになってたし」
そうだったのか。隠蔽力高すぎないか?
前職はアサシンかスパイでもおやりに?
「驚きました。尊花さんがここまで重度のオタクだったとは……」
「ま、まぁ……」
気まずそうな顔してるなぁ。
まぁ、友だちに今まで隠し事してたってことになるから、ちょっとした罪悪感があるのだろう。
「私、高校デビューみたいな感じだったから、こういうことは隠してたの」
知られざる尊花さんのお話だ。
高校デビューを機に、ちゃんとした人間になってこういう趣味は隠そうと決めたらしい。
今どきオタク趣味なんて珍しくとも何ともないが、確かにここまでの部屋を見せられると、ドン引きする人は多いだろう。
鈴鹿さんとかは「アタシ毎週ホップステップ読んでるからオタクだぜ?!」とか言いそうだし。
そんな人にこれを見せたときの反応は、あまり芳しくないのはわたしも経験がある。
「だから、他でもない大好きな美鈴ちゃんには見せたくなくて……」
大好きって、そんな平然と口にする言葉ではないでしょ。ちょっと照れる。
でも、悩んでいる尊花さんには悪いけど、わたしの答えは真逆なものだった。
「隠す必要ない、というかわたしもオタク友だちがいなくて寂しかったから。そういうの気軽に話せる相手に尊花さんがなってくれそうだから、わたしは嬉しいですよ!」
「っ!」
「わたし、このソシャゲをずっとやってて……、って聞いてます?」
尊花さんがわたしから顔をそらす。
え、またわたし、なんかやっちゃいました?!
「だ、大丈夫ですか?! わたし、そんなに気持ち悪いことを……!」
「ううん。やっぱり、私の光だなー、って」
光? 光ってなんだ? わたしは陰キャだから光ってませんが。
わたしからしてみれば、そんなことを口にして笑う尊花さんの方が光なわけで。
ま、まぁ。とにかく!
「あ、これずっと前からやってるソシャゲだよね?!」
「そうなんです! サービス開始時からやってて……」
このオタク部屋で、オタクトークするのは、本当に楽しいなぁ。
推しの笑顔も見れるし、最高だ!




