第70話:こうかはばつぐんです
「ん~~~! 美味しい~~~~~!!!」
わたしも、プリンを食べて可愛く悶ている推しの顔はかわいくて美味しいよ!
評判の窯出しプリンは流石だ。かわいくて素敵な最推しの笑顔が見れたんだから!
褒めてつかわす。今度また買いに行こう。
「美鈴ちゃんは食べないの?」
「いいですよ、尊花さんへのお詫びの品なので」
ごめんなさい。わたし、これでも小金持ちだったりするので、好きな時に買いに行けたりするんですよね、へへへ……。
だから推しが喜んでくれるなら、いつだってスパチャ、もといギフトを差し上げますとも!
あまり遠慮させない程度の距離感、わたし分かってますからね!
「むぅ……」
でもその反応にやや不満げな尊花さん。
どしたーーーーーーーーん、話聞こうかぁ???
と、ややおじさんめいた反応をしかけてしまったが、わたしはまだまだピュアな16歳(+20歳)。こういう対応は自然にやった方がいいに決まってる。
「なにか不満げですね」
「私が迷惑かけたのになー、って思って」
「へ? ……あー」
それって告白の件か。
そのことはもう謝ったし、わたしが5000割悪い。
一生尽くしても返せるかどうかわからないお慈悲だから、もっと偉そうにふんぞり返ってもいいのになぁ。
などと考えているところに、一匙のプリンのかけらが乗ったスプーンが近づいてくる。
「……な、なんですか、これ」
「私からのお詫びの品です。どうぞお納めください」
ん?
さり気なく口を開けた。
ゆっくりと運ばれた尊花さんのスプーンが口の中に入って、冷たくぷるんとした感触を口の中に落とす。
ん? いま、何された?!
プリン。尊花さんのスプーン。それから口を開けて……。
「なっ?!!!」
「どうかした?」
「いや。いやいやいや!! い、いいいい、今のって……?!」
「んん?」
わたしの動揺がそんなに見ていて面白いのか、クスクスと笑いながらわたしの口の中に入れたスプーンで、プリンを掬って口にする。
お、おおおおおお、おいおいおいおいおい!!!!
い、いくらわたしが好きだからって、やることがちょっと過激すぎませんか?!!
だって、今の、って……。
「間接キス、だよね?」
「と、尊花さん!!」
珍しく声を荒らげた。
今まで手をつなぐとか、そういう接触技を使ってくるのはまゆさんの方が多かった。
尊花さんはあくまでも雰囲気とか、シチュエーションで攻めてくるタイプ。
だから、あまりにも不意打ち気味なあーん、からの間接キスは予想外だった。
わたしが顔を真っ赤にしてるのがそんなに面白いか市川尊花!!
やがて声を出しながら、笑っている姿はやんちゃな子がかわいいイタズラに成功して、嬉しがっているように見えた。
か、かわいいけど。けどさぁ……!
「あはは! ごめんね、美鈴ちゃんがそういう反応するの珍しくって!」
「い、いつもしてるじゃないですか!」
むしろ心の中では12の試練を迎えた美鈴ヘラクレスは数回死んでる。
「私、いつもこんなことしないの、知ってるでしょ?」
「え、えぇ。まぁ……」
「今のはちょっと遊び半分、というか……。まゆちゃんには負けたくなかったから……」
尊花さんの耳先が徐々に赤みを増す。
あぁ、そっか。まゆさんと最近妙に張り合っていたのはそういうことだったのか。
ってことは、随分前から尊花さんとまゆさんはわたしのことを好きだった、ということになる。
少なくともコトノハ神宮祭の辺りでは……。
……まじかぁ。全然気づかなかった。
「私の気持ちを伝えた後なら、こういうのも効くかなー、って……」
「そ、それはもう。こうかはばつぐんです……」
やばい。めちゃめちゃ恥ずかしい。
それ以上に、わたしの口の中と尊花さんの口の中は同じ味がするって考えだしたら……。
も、妄想が過ぎるって! わ、わたしはそういうこと考えたことなかったし、友だち同士で、そんなの……。
でも友だちの顔をまともに見れないのは事実なわけで。
くっ! 尊花さんに一杯食わされた。な、何か別のことでこの恥を誤魔化さなきゃ。
えーっと。えーーーっと……。
「そ、そうだ! 尊花さんの部屋ってどこですか?! わたし見――」
「ダメです」
はっはっは。マッハの拒否。わたしなら聞き逃しちゃうね!
ダメじゃん聞き逃したら! ひょっとしたらもう一度聞けばワンチャンYESと答えてくれる気がする!
「で、でも見――」
「ダメだよ?」
尊花さんの顔を見た。
笑っていた。今まで見たことのないものすごく怖い張り付いた笑顔だった。
「そんなに?」
「うん」
「わたしの部屋見たのに?」
「うん」
うんって。そんなに否定することはないでしょ?!
わたしだって恥ずかしい部屋見せたのに、それは酷い。
酷すぎるので第3の手に頼ることにした。
おもむろに立ち上がってから、尊花さんの母を探す。見つけた。
「あの、お母様。尊花さんのお部屋ってどっちですか?」
「あっちよ~」
「お母さん?!!」
わたしは走った。
教えてもらった場所に向かって。
だがわたしの運動能力はFランクである。元アイドルの筋力はどこへやら。
「待って!」
「うぅうううううう!!!」
尊花さんにあっという間に追いつかれた後、腰を抱かれてブロックされてしまった。
動けなかった。情けなかった。
「ほ、ホントにダメなの……。見られたら、嫌いになっちゃう……」
えぇ、そこまでなの。
逆に興味が湧いてくるんですけど。
でもオタクをナメないでほしい。基本的にオタクはドン引きされる生き物だから!!
「大丈夫ですよ。わたしを引かせられたら大したものですから」
「それは、タフだね……」
えへへ、推しに褒められたぜ。
「じゃあ、見せてくれますか?」
「そ、それはちょっと……」
どうやらまだまだ部屋を見せてくれないらしい。
でも諦めないからな!




