第61話:熱を宿して
「お、お泊りぃいいいいい?!!!!!」
なんとか声を荒げない程度に悲鳴を上げてみた。
本当はこのレストラン全体に響くぐらい叫びたかったけど、必死にこらえた。迷惑だしね。
それにしても、突然お泊りとはいったいどういうことなんだろう。
「じゃあこの日に3日間泊まるからね! よろしく!」
「ちょちょっと待って!」
「待たない!」
「なんでぇ?!!!」
こんなに押しの強い尊花さんを見たのは初めてかもしれない。
泊まりたいと言うのは嬉しいけど、それはそれとして話が急すぎるといいますか……。
え、いま脈絡ありました? わたし、話を聞き飛ばしたりしてないよね?
……してない。思い返しても尊花さんの話を飛ばしたことなんて一度もなかった。
だって大切な推し友だし。そんなの当たり前だよ。
じゃあ何? ひょっとして時間が一瞬飛んだ?
「私ね、前からずっと美鈴ちゃんと夏休みの思い出を作りたかったの。ちょうどいいでしょ?」
「ま、まぁ……それ自体は嬉しいですけど……」
「……まゆちゃんには負けてられないし」
小声で言ったつもりだと思うんですが、ガッツリ聞こえてるんですけど。
最近尊花さんとまゆさんが妙に張り合っている気がする。
仲がいいのは嬉しいけど、なーんかハブられてる感じがあって嫌だなぁ。
……もしかして、尊花さんとまゆさんがデキてる、とか?!!!
それならわたしはさり気なくサポートしながら、うまく立ち振る舞って最後にはすっと消えるつもりなので。えへへ。
どうぞ若いもの2人でね。へへ。
「美鈴ちゃん、変な顔してる」
「へ?!」
やば、顔に出てた?
「まぁいいや。楽しみにしてるね!」
「も、もちろん!!!!」
それはそれとして、やっぱり友だちがわたしの家に泊まりに来るって、学生っぽいよね。
青春の香りがするよ。ちょっと甘くてつーんと酸っぱく香る感じ。
わたしもその端っこに入れてくれて嬉しいや。
「じゃあ食べちゃおっか!」
「はい!」
そのままパクパクとお昼ごはんを食べていき、ちょっと休憩。
軽く会話しながら、わたしたちは時間が来るとライブ会場に向けて歩き始めた。
いつものように尊花さんと手をつなぎながら歩く。
んー、いつの間にか日常みたいになってしまったけど、これ結構恥ずかしいんだよなぁ。
他の女子高生とかも、仲の良さをアピールするために腕を組む習性はあるけど、手をつなぐのはなんか、ガチっぽいと言いますか。
ひょっとしてあの子たち、付き合ってるのかな? なんて言われたら、尊花さんに迷惑かもしれない。
尊花さん、わたしの事どう思ってるのかな。
大切な友だちだって思ってくれれば嬉しいんだけど、たまに怖くなる。
わたしが求めているものとは、少し違う方向な気がして。
「ここかぁ。うわ、人すっご」
「美鈴ちゃん、大丈夫? 人酔いとか」
「大丈夫です、明日は休みだから!!!!」
「倒れる気満々じゃん!!!」
あはは、って笑いつつも、いつものことなのでマジなのです。
明日は特に予定を入れていない。言ってしまえば、今夜も。
何故なら、死ぬ気でこの時間を楽しむからだ!!!!
「ま、まぁ……美鈴ちゃんがいいならいいけど……」
「えへへ、行きますよ尊花さん!」
「待ってよー!」
あー、いま青春してる!
取り戻してるよ、淡い夏の思い出を……!
それからというもの、それはもうあっという間の時間だった。
ざわついていた観客が演者の一言で静まる。
そこからトークが始まり、歌が始まり、皆が熱狂する。
わたしも尊花さんも、とてつもない熱量で声援を送った。
きっとわたしという存在史上一番声を出した気がする。
ライクオアラブのライブがあったらこれ以上だったんだろうなぁ、という後悔と、その世界に来たからこその幸せがわたしの中に生まれていた。
そんな調子だったので、疲れるのは当然の結末だった。
「うぅ……よかったぁ……」
「うん、そうだねー……」
それはもうヘトヘトでした。
元の体が相沢美鈴という元アイドルのものでなかったら、多分倒れていたのはライブ会場だったと思う。
尊花さんもバテ気味だし、これはわたしがなんとか家まで返さなきゃ。
でも一回休憩しようかなぁ……。
「尊花さん、もう少し歩いたらベンチがあると思うので、そこで休みましょう」
「うん……」
「肩、貸しますね」
なんか、予想以上に疲れているみたい。
いつもとは真逆の関係で、わたしたちはゆっくり一歩ずつ歩いて行く。
そういえばこの体勢、わたしが風邪引いたときにされてたっけ。
ちらりと尊花さんの顔を見る。汗と疲労が滲んだ美少女の顔に胸が高鳴る。
うぅ、顔がいい。やっぱり最推しだなぁ……。
「座りますね?」
「ん……」
ベンチにたどり着いたわたしたちは、尊花さんを座らせてから、わたしも腰を下ろす。
わずかに吹く風が気持ちいい。夏でも、夜ともなれば涼しくなる。
この後は解散して、各自の家に戻る。多分尊花さんを送り届けてからかな。
「……んん、美鈴ちゃん」
するりと彼女の腕がわたしの腕に絡まる。
ん? ん?!!! わたしは抱きまくらじゃないぞよ?!!!!
というか汗臭いし、尊花さんの顔とほぼゼロ距離……。胸も当たってるし、どうしてこうなった。
「しばらく、このままでいたい」
わたしも固まって動けないので、イイデスヨ。
本当に大丈夫かな。胸のドキドキも全然収まる気配がない。
ま、まぁ……。尊花さんが珍しく甘えてきてるし、いいか。
わたしは目を閉じて、静かに流れる風に身を委ねる。
まるで、このわたしと尊花さんの空間だけ切り取ったみたいに静まり返っていた。




