第60話:それはそれとしてお出かけもある
4章も半分
そろそろギアを上げます
「早かったかなぁ……」
尊花さんから連絡が来て、服装をどうこうとか、推しカラーがどうとか考えている内に、気づけばライブ当日となっていた。
わたしはその辺のにわかオタクとは違うため、そのライブを全力で楽しもうと調べる女だ。
てことで、尊花さんに具体的なアーティストの内容を聞いてみたところ、なんとアニメのアニバーサリーライブらしい。
なんとめでたい。というか、尊花さんもそういうの見るんだ。という気持ち。
アニバーサリーイベントかぁ。確かに嬉しいもんなぁ。推し作品なら絶対行きたいよ。
わたしで言えば『ライクオアラブ』のライブなんてあったら、マッハでチケット予約しますもん。
ちなみにいつもやってるソシャゲにもコラボしていたらしいので、それも含めて履修。
内容は頑張り屋な女の子がアイドルとなり、周りの子たちと一緒に酸いも甘いも知りながら、アイドルとしての道を走っていく、というもの。
わたし、こういう系弱いんです。
23話の主人公のソロライブは本当に泣いた。
周りが頑張っているのに、成果が出ない私なんか。くじけそうなところをプロデューサーさんが助けてくれるのだ。
そこからの復帰ライブ。最高だったなぁ……。
ま、わたしはアイドルをやめた身なんですけどねーーーーーーーーーーー!!!!
わたしのアイドルとしての路線はまさしくジュニアアイドル。
逆にアニメと接点がないのも調べて分かった。だから今日はわたしも楽しもうと思う所存だ。
「でも、ピンクってありだったかなぁ」
推しカラーをどうしようってことでその辺にあった明るいピンク色のロングスカート。
動きやすさを注意してのショルダーバッグにスニーカーにしてみた。
でも、これで大丈夫かなぁ。前のフリルドレスよりはマシだけど……。周りとずれてたらと思うだけで、陰キャは怖いものだ。
「何とでもなる、と思えばいいか」
尊花さんと待ち合わせて、ご飯を食べてから、ライブ会場に行こうというスケジュール。
久々に尊花さんと話すから、いろいろ会話のデッキも持ってきた。
アニメ履修勢+オタクというところで、話のネタさえあれば会話が止まることはないだろう。
「あ、いたー!」
と考えていれば視線の向こう側から手を振る1人の女の子の声。
チャームポイントの黒いショートボブの毛先を揺らして、元気にわたしの方へ駆けてくる。
「おまたせー、暑いねー」
「………………」
「どうしたの? そんなおちょぼ口になって」
いや、だって……。
「推し、よぃ……」
消え行った声は尊花さんに聞こえてしまっただろうか。
まぁ、推しって言ってたし、大丈夫か。たはは。
でもかわいい。よすぎる。何この子?!
ノースリーブのガウンコートは涼しさをアピールするためか?
否!! その下に着ている推しTシャツをカモフラージュするため!!!
白いTシャツの上にフルグラフィックのまばゆい笑顔が印刷された推しを!!! 目立たせつつも、周りからは擬態するためのガウンコート!!
かわいい。推し事する推しかわいい……。
基調に合わせつつ、機能性を重視したスキニー。
すべての上に、ちょこんと乗ったオレンジ色のベレー帽が……。
「はぁああああああああぁああああああ…………すきぃ……」
「あ、え。えへへ、ありがとー!」
わたしは膝から崩れ落ちた。
こんな子とわたしは今からデー……。お出かけしようということを!
家ではゆるふわ女神が待っているというのに……!!
「美鈴ちゃんの方がかわいいよ! その色、主人公のムーちゃん?」
「そうです!! 誘われた後早速アニメを見て、ムーちゃんにドはまりしたんです!!!」
「嬉しいなー、見てくれてありがとうね! 長かったでしょ?」
「いえいえいえいえいえいえ!!!! もうあっという間ですよ!!!」
26話構成でも13時間弱あれば見れるでしょ?
それだけあれば1日あれば見れる。引きこもりを舐めるな。
「じゃあ行こっか!」
「はい! その子ってみーちゃんですよね!」
「そうなの! もうこの子の笑顔が最高で……!!!」
まさか推しと推し事について楽しく会話できる日が来るとは……。
もしかしてわたし今日死ぬのでは? 2度目の死を迎えたら、いったいわたしの魂はどこに行くんだろうか。
あのエセカミサマにでも聞いておくべきだったか?
いや、あれだったら適当にその場をかき乱して終わるだけか。
そんなことより今は尊花天使の一挙手一投足を見るだけでいい。
だっていま目の前にはわたしの天使がわたしに語り掛けながら、踊ってくれているんだからーーーーー!!!!!
「幸せだぁ……」
「そうだよね、ウキウキだよね!」
いつの間にか繋がれていた手からもドキワクの鼓動が流れ込んできているよ!
あぁああああ、これが推しの音か……。よい……。
「ご飯どうする?」
「……はっ! えーっと…………」
「もしかして、何も考えてなかった?」
「レ、レストランで! そこのタイゼリヤ!」
「あはは、いつもそこだね!」
「嫌でした……?」
「ううん! わたしは美鈴ちゃんと一緒にいられたら、どこでもいいよ!」
あぁ、なんという天使……。
なんでこんなにもよくしてくれるのだろう。きっと尊花さんが天使だからだろう。
やっぱり二礼二拍一礼した方がいいのでは。
もはや信仰対象ですよ。
軽く悩みながら、とりあえずメニューを確認。
イタリアンレストランなのに、オムライスがあったのはいささか疑問だったが、わたしが好きな料理なので注文した。
尊花さんはペペロンチーノ。確かに何かと飛びやすいミートソースの赤とか、カルボナーラの白よりかはマシですよね。
しばらくしたら到着。
いただきますをして、イタリアンレストランのオムライスを一口食べてみた。
「オムライス、どう?」
「…………まゆさんが作ってくれた方のが美味しいなぁ」
一度アレを口にしてしまうと、レストラン特有の半熟オムライスでは物足りなくなってしまった。
罪な女だぜ、まゆ女神……。
「え。まゆちゃんが作ってくれたの?!」
「は、はい……」
尊花さんは急に血相を変えて、掴みかからんとするレベルで前のめりになる。
なになに?! わたしなんか悪いこと言いました?!
「えっと。まゆさん、家出中でわたしの家にいるんです」
「……えぇぇぇええええええええ?!!!!」
うおっぷ!
それはわたしが今まで尊花さんと接してきた中で、過去一番の悲鳴だった。
白目を剥きそうなほど叫んだあと、力なく彼女はソファーに座った。
そ、そんなに?
「………………」
「と、尊花さん? 大丈夫ですか……?」
「……まゆちゃん、すごく。だいたん…………」
うわごとのようにそんなことを虚空に消していく。
ま、まぁ。大胆なことはありましたけど、尊花さんが気にするようなことは……。
ありますね、言えないような秘密が。例えばまゆさんの胸のてっぺんの色とか。
「……美鈴ちゃん」
「は、はい!!」
気力を取り戻した尊花さんは、わたしを真っ直ぐ見る。
うぉっ。かわよ。真っ直ぐ見ないで光で消し飛ぶ。
のんきに自分の冗談にツッコミを入れていると、彼女は衝撃の一言を放った。
「私、今度お泊りに行くね」
「……へ?」
突然の処刑宣告だった。




