第59話:ズボラsキッチン
「ごめんねー、ホントに……」
「いいんですよ、あはは……」
気絶して起き上がってみれば、時計の針はてっぺんを指していた。
意図せず昼まで寝ていたことにはなる。なるんだけど……。
申し訳無さそうに頭を下げているまゆさんを見ていると、こちらまで心を痛めてしまう。
うーむ、悪いことをしたと自覚しているからか、いつもよりも数段階凹んでるなぁ……。
これはこちらも許しの言葉だけではなくて、もっと変わったものを用意しておけばいいのでは。
例えば抱きしめ返すとか。
……。これはダメだ。夕方まで休みが伸びてしまう。
恥ずかしいけど、こう言うしかないかぁ。
わたしは意を決して、言葉を形にした。
「えっと、ですね……。わたしと致しましても、大変役得と言いますか……。まゆさんのいっぱいを噛み締められたので、満足と申しますか……」
「……っ!」
あ、あれ? なにか選択ミスりました?!
「美鈴さんって、本当に破壊力高いよねー」
「どうしてそうなるんですかぁ?!!」
度々言われるけど、何その……。なに?
こっちまで恥ずかしくなってしまう。いまは自宅なのに、こそばゆくなってしまう感覚が学校以上に感じる。
「そういう2人も、十分破壊力高いと思うんですけど」
「2人?」
「あ、えーっと……。尊花さんも同じことを言ってたので」
「あー……」
納得の二文字。
何だその納得は。あ、尊花さんなら仕方ないよねー、みたいなノリ。
多分わたしの知らないところで何かが行われているんだろうけど、その何かが分からない。
浴衣の着付けのときだって、示し合わせてたし。秘密にしてないで教えてほしいものだ。
「まぁいいです。そろそろご飯食べます?」
「だねー。まゆさんが作ろうか?」
「いえいえ、流石にわたしが作りますよ」
「でもまゆさん、居候なわけだし……」
そうだった。普通にお泊りの感覚でいたけど、これから夏休みの間毎日まゆさんの攻撃に耐えなければならない。
あれ、学校行ってた方が楽なんじゃないの? わたしの身体、存在を保てる?
「じゃ、じゃあ……2人でってことで」
「うん、それならいいよー!」
そんな感じで2人で灼熱の廊下を通りつつリビングからダイニングに。
さてと、今日は何を作ろうかなぁ……。
暑いしそうめんでもいい。それから冷蔵庫にきゅうりとかハムがあったから、適当に冷やし中華作るのもいいかなぁ。
んー……。とりあえず炊飯器を開ける。
「うわ、ご飯残ってる……」
「ホントだー。作りすぎたのかなー」
「この暑さじゃ昼過ぎまでは持たないし、チャーハンでいっか」
手早くご飯をお茶碗によそって、量を見る。
これ、一人分かな。じゃあ冷凍してた残りを使ってー……。
「美鈴さん、なんかすごいねー」
「何がですか?」
「料理のとき、すごくテキパキ動くなーって」
「自分の家だから慣れてるってのもありますよ」
まぁ、あとはちょっとはいいところを見せておきたい、という下心もあったり。
料理は数少ないわたしができることである。
それすらまゆさんに劣っていたら、もうなんというか。生きる価値がなくなってしまうのよ。およよ。
「えーっと、確かチャーハンの素があったはずだから……」
「まゆさんは何すればいいー?」
「とりあえず冷凍庫の中の冷凍ご飯を解凍してもらっていいですか?」
「はーい!」
返事一つ一つまでカワイイなおい。
引き出しの中から素を見つけたわたしは、そのまま卵をフライパンで炒めて、いい感じのところでグチャグチャにかき混ぜる。
それからさっきのご飯と解凍してきたものを一緒にぶちまけ、炒める。
火が通ってきた段階で、素をふりかけて、さらに火を通して完成だ。
これぞズボラ飯簡単3分クッキング! 多分豚チャーハン!
「おー、はやーい」
「ま、まぁ! いつもこういうことやってましたから!!」
陰キャは褒められるとすーぐ調子に乗る生き物である。
滅多に褒められる機会もないからねぇ。はぁ……。
「紅生姜も乗せていいー?」
「いいですよ!」
んー、これぞズボラ飯。こうやって食費を抑えつつ、親に怒られないようにするのがニートの生活のコツです。
「じゃあ食べよっか!」
「はい。いただきます!」
スプーンでご飯をすくってパクリ。
うん、普通。いつもの味って感じだ。チャーハンの素を使ったし、変わり映えしないレシピだからもうちょっと凝っても良かったけど、一応ズボラ飯だしなぁ。
でもまゆさんはちゃんと美味しそうに頬張っている。かわいいなぁ。
「そういえば美鈴さん、夏休みってどこか行く予定あるのー?」
「まぁ、一応は。尊花さんとライブに行こーって誘われてて……」
カチャン。スプーンをお皿の上に落とす音だった。
え、そこショック受けるところ?!
「ふ、ふーーーーん。尊花さんもやるねー」
「は、はい……?」
何故かは存じ上げないが、顔が動揺している。
目がカッと見開いてるし、唇もプルプルと柔らかそうに揺れていた。
そんなに驚くことかなぁ。尊花さんも「まゆさんに誘われてると思ってた!」みたいなことを言ってたし。
誘われていると思ってた。と言われるのはいいけど、実際尊花さんだけしか誘ってくれなかったし。
鈴鹿さんはきっと万葉さんとイチャコラ。響さんは外に出たくないとか、そういうことだと思う。
「まゆさんも負けていられないなー……」
「何がですか?」
「まゆさんはその日お留守番かー、って思って!」
なんか妙にグサグサ刺してくるじゃないか。うぐっ。
確かにライブのチケットは2枚しかないし、まゆさんは必然的にお留守番になる。
まゆさんならきっとなんとかなるとは思うけど、どうしようこの罪悪感。
「な、なんか後ろめたさが……」
「後ろめたさ、感じちゃう?」
「ま、まぁ……」
最近わかってきた。まゆさんがこの顔をする時は、確実に何かを言おうとしているということを。
もういい子じゃなくて、小悪魔的にわたしを振り回す悪い子ですよ、それ。
まゆさんなら、それでもいいかぁ、ってなっちゃうのが一番ズルいところ。
「じゃあー、帰ってきたらお願い事1つ、叶えてほしいなー」
「そ、それ。金品的なものだったりします?」
どんなものでも、高価のものでなければ買ってあげられる自信はあるけど……。
まゆさんに限ってそんな高値で取引されているものを買えとは言わない、ですよね?
「ううん、お金はいらないよー。美鈴さんにやってもらうことだから!」
「えっ?!!」
何されるのわたし?!!!!
「大丈夫だよー。ちょっとしたお願いだから!」
「ほ、本当に、大丈夫なんですよね……?」
「うんうん。安心してー」
その言葉に安堵の声が漏れたけど、それはそれとして何を企んでいるか分からないまゆさんの顔が、びみょーに怖かった。




