第52話:夏休みに入ったし、家出するか!
4章です。夏休みです
終業式も終わり、晴れて学生であるわたしは夏休みを迎えることができた。
夏休み。夏休みですよ奥さま!!!!
はぁ……。学生のうちは、これのために生きてるって感じ……。
何もしなくてもいい。どこにも行かなくてもいい。
合法的に引きこもることができる、この幸せな時間をなんと例えよう……。
ビバ! 夏休み! クーラーの効いた部屋最高……。
「あー……」
そんなだから、さくっと午前中に今日の分の宿題を終わらせた後はひたすらダラけるわけで。
手元にはいつものソシャゲ。目の前にはPCで適当に流している動画。空気は冷たく、夏の暑さにも負けないクーラーの涼しさ。魂はどこかへ行ったよ。
服装ももう元アイドルなんて肩書は捨て去ったダサTシャツに半ズボンだ。
もう、なんというか。人を捨てた感じが、好き。この時間、いい。
「あー、もうすぐお昼だったっけ。だるぅ」
お母さん(今は仕事中)はお昼ごはんを作っているだろうか。
まぁ、1食抜いたって、なんとかなるかぁ……。
天国から扉を開けると、ムワッとした湿気が顔にまとわりつく。
これだから外は嫌なんだ。日本の夏はこの湿気さえなければ、普通に暑いだけなのに。
階段を降りて、キッチンを覗き込む。
……ない。仕方ない。そうめんでも作ろうっと。
あー、でも茹でるのもだるい。なんか外で。いやぁ、外出たくないし……。
その時だった。
ピンポーン、という無機質で人の来客を知らせるインターホンが鳴ったのは。
「ん、誰だろ」
宗教勧誘とかかな。
やめてほしいなぁ。わたしそういうの断りきれないから嫌いなんだよぉ。
外のカメラから該当の人物を覗く。新聞の勧誘とかだったら、居留守使おー……おっ?!!
「ちょ、ちょっと待っててください!!!」
待って待って待って?! なんでこんなところにいるの?!!
急いで外行きの部屋着に着替えるため、自分の部屋へと戻る。
一分一秒も無駄にできない。だって。だって……!
「まゆさんが大荷物持って来るなんて聞いてない!!」
そんなイベント心当たりあるのなんて、ひとつしかないよ!!
と、とりあえず落ち着けぇ。落ち着いて、着替えよう!
こ、これでいいかな? いやでも、こっちの方が家にいる感じなんじゃ……?
こんなフリフリの部屋着なんて使わねぇよ暑いんだから!!
もういいや、この格好で!!
かろうじてダサTから無地のTシャツに着替えたわたしは、ドタドタと階段を降りて女神の待つ扉を開ける。
「あはは……。こんにちは」
「う、うん。まゆさん、こんにちは。な、何か用事?」
予定なんてものはしていない。
尊花さんとのライブのお出かけ以外は、本当に何も予定してなかったわたしだ。
強いていえば3人で遊びたいねー、ぐらいにしか言ってなかったはず。
そ、それが何故カバンに大きな荷物を持って、紙袋を持ったまゆさんが目の前にいるのだろうか。
い、いや。理由はわかる。転生者としての情報が、ありありとこの結論を示す。
「えっと……。家出してきちゃったー!」
まゆさんの専用ルートの始まりは、こんな大荷物を持った彼女が家に押しかけるところからだ。
ちゃんと履修はしてるけど。けどさぁ……。
そんな元気に言われましても……。
と、とりあえず中に通そう。
額に汗をにじませて、髪の毛まで肌にくっついちゃってるし。
長いこと外にいたのだろう。涼しい部屋で一回リラックスしてもらうとしよう。
「ま、まぁ……中へどうぞ……」
「うん、ごめんね」
気まずい。こういうのって深く掘り下げたら絶対地雷なんだよなぁ。
そしてまゆさんの家出の原因は両親にある。家に戻れだなんて言えないし、うむむ……。
居間に通したまゆさんはちょこんとソファーに座る。
か、かわいいんだけど……。なんか今日は雰囲気がどことなく重たいっていうか、周りのオーラが一段階下がっているような気がする。
「デバフもらってきました?!」なんて言えるわけもなく、わたしはただ麦茶を差し出すことしかできないのだった。
「……っと。寒くないですか?」
「うん、大丈夫だよー。ありがとね、美鈴さん!」
麦茶を口にするまゆさんが、すべての疲れを吐き出すかのようにため息を放つ。
う、うぅ。めちゃめちゃしんどい。主に空気感が。
こういうとき、中途半端に知識があるっていうの面倒くさいなぁ!!
ま、まぁ。家に帰す訳にはいかないし、他のアテもないわけで。
「……えっと、ね。美鈴さん!」
「は、はい!!」
「まゆさんを、夏休みの間だけでいいから泊めてほしいの!」
そうきますよねーーーーーーーーー!!!!!
家に帰れないから家出してきてるわけで。
ま、まさか。こんなところでまゆさんルートに入ってしまうとは……。
ん? わたし主人公じゃないのにまゆさんルート?
……まぁ、考えても仕方ないか。とりあえず。
「わ、わたしは、いいですけど。お母さんがなんて言うか……」
「そ、そうだよね……。じゃ、じゃあ! それまで今日は居させてくれない?」
うっ!!!
わたしの手を両手で包み込んで、潤んだ瞳での上目遣い攻撃!!!!
なんだそのテクニック?! わたしそんな技を使えだなんて、まゆさんに言ってないぞ!!
か、かわよ……。顔面魔法すごすぎ。あ、肌ちょっと濡れてて、なんか劣情を抱いてしまうというか……。
いやいやいやいや!!!! 女神に欲望をむき出しにしてはいけないでしょ!!
だいたい相手は女の子で、困ってる子なんだ。そんな。そんな下心丸出しで……。
「う……」
「う?」
「うぼぁ……」
「美鈴ちゃん?!!」
RPGのラスボスの断末魔みたいな声を上げながら、わたしはソファーに身体を託した。
それ以降の記憶はおおよそ2時間後から始まった。
自己矛盾と、女神の可愛さと妖艶さによって、わたしは処理機能を停止。気絶したのだった。




