第49話:バカ→主人公→(?)
3章の山場です。NL注意(今更)
なんだかんだで、ハチャメチャに楽しむことができたお祭りは徐々に終わりの時間へとシフトしていく。
「おそーい」
「ごめんごめん! はい、肉巻きおにぎりに焼き鳥。それから唐揚げ!」
「見事に肉系ばかりじゃあないか!!」
それでも夕飯を食べていなかったことを考える。
この肉巻きおにぎり美味しかったなぁ。響さん、美味しいことはわたしが保証しますよ!
サムズアップをしても伝わらないものは伝わらないらしい。ものすごく怪しい人を見る目で見られた。かなしい。
「そういえば、鈴鹿さんはちゃんと万葉さんに告白できたんでしょうか?」
「どうなんだろー。こればっかりは後日聞くしかないよー」
「ですよねぇ……」
できることならちゃんと告白が成功したところを見たかった。
いや、野次馬根性とかそういうのじゃないですよ? 嘘です10割野次馬です。
でもここまで協力したんだから、気にならないって言う方がムリな話だ。
肝心なところで日和らなきゃいいんだけどなぁ。
「ん? あれって……」
「どうしたのー、尊花さん? あ、このケバブ美味しいー」
「あの2人って、鈴鹿ちゃんと万葉くんじゃないかな?」
「えっ?!」
尊花さんの視線の先に、確かに2人の人影がある。
周りが暗いから誰かー、とかまでは特定できないけど、あの髪の色は間違いなく鈴鹿さんだ。
隣の男性も確かに万葉さんが着ていた服に似ている。
と、なるとだ。
あっちの方は結構人気がなかった気がする。ふむ。ふむむ……。ぐへへ……。
響さん以外の3人の口角が歪んだ。
「見に行ってみましょうか?」
「いいねー」
「うぅ、でも。いいのかな。大切な告白を邪魔しちゃって……」
うっ! 尊花さんが天使すぎる!
真面目とも言うが、一世一代の大告白。人に邪魔されるというのはなかなか琴線に触れる行為だと思う。
人によっては絶縁の可能性も。
で、でも気にならないわけではなくてですねぇ……。うーむ……。
「なぁに安心しろ。告白を手伝った手前、なんの報酬もなしに協力したわけではあるまい?」
「響さん、それってどういう……?」
「こういうことだよ」
響さんが見せてきたのは、光る板。もといスマホの画面だった。
ん? なんか通話状態になっている? えーっと、着信先は……。
「鈴鹿さん?!!」
「安心したまえ。ミュートにしているから、こちら側の声は一切聞こえない」
響さんがフリフリの胸元を張る。
揺れるのはフリルだけで胸は揺れない。
「この天才小説家にかかれば、この程度の交渉は容易い!」
「さ、さすが天才小説家!!」
「すごいです、天才小説家さん!!」
「すごいよー、天才小説家さん!!!」
「へへへ、よせやい」
なんて言ってる場合か!!
これ、ひょっとして。生で告白が聞けるってこと?!
そう反応すると、答えはYES。鈴鹿さん、本気で決める気なんだ。
「自分を追い詰めて尻に火を点けたんだろうな。それに関してはバカがバカでよかったな」
「一言余計ですけどね」
「うるさいぞ陰キャ!」
「響さんもじゃないですか!」
バカも休み休み言えとはまさにこの事。
ではないけれど、実際気になっていたし、その思い切りの良さはわたしも見習いたいところだ。
『……この辺で、いいか』
『どうした、鈴鹿?』
「お、始まりそうだよー」
それまで軽口で語り合っていた2人の空気感が変わる。
わたしたちもそれに釣られて口を閉じた。
今から、始まるんだ……。
『なぁ。……今日のアタシ、どうだった?』
『最初に言ったろ。……その、綺麗だって』
『そ、そうじゃなくて、さ。…………雰囲気、みたいな』
思い出すなぁ、じれったくて気持ちをぶつけようと勇気を貸してもらっている時間。
きっと今、一番緊張しているのは鈴鹿さんなんだと思う。万葉さんもその空気感の違いに戸惑っているんだろうけど。
聞いているこっちまで、ハラハラしてくる。
『なんだよ、急に』
『急じゃねぇよ! 今日、の感想みたいな』
『………………』
「人の告白って、こんなに緊張するんだね」
「うん……。響さん、大丈夫ですか?」
「別に。どうとも思ってないさ。情けない義弟を見るのは面白いというだけだ」
本当はそんな軽い気持ちじゃないくせに。
もしかしたら関係性が変わるかもしれない。義姉弟としての関係しか求められなくなって、自分の気持ちを封じなきゃいけない。
響さんにはそれができる。できてしまう。今までがそうだったから。
だから今も目を閉じて、その瞬間を待っている。
諦める瞬間を。
『……いつもより、違和感があったな』
『はぁ?!!!』
『だってそうだろ?! 今日だけ急に畏まるみたいにおとなしくて、そんで張り合いもないから、いつもみたいに見れなくなったんだからさ……』
『……それって、どんな感じに見えてたんだ?』
吸って、吐いて。
万葉さんの深呼吸が電話越しのここまで伝わってくる。
緊張と、緊迫。それから何かが動く境界線が見えていた。
『…………お前も、女の子なんだな、って』
『……っ!!!』
わたしも、こう言われたかったな。
かつてのことを思い出して、少しだけ胸が痛くなる。
繋がりたかった過去と、断絶した今との乖離に、わたしは少しだけ息をこぼす。
「美鈴ちゃん……?」
『あのな! ……アタシ、どうしてもオマエに。万葉に、そう、見てもらいたかったんだ』
『それって……』
胸の奥底の方の黒い粘土が上へと押し上げられるみたいに違和感をもたらす。
ダメだ。今は……。
目を閉じて、目の前が暗転したときだった。
そっとわたしの手に触れる少しだけ冷たい感触。
熱を帯びた違和感をそっと沈めてくれるような、そんな優しさ。
まぶたを開けば、尊花さんの顔があった。
慈愛に満ちた優しく包んでくれている、そっと寄り添ってくれる推し友。
言葉はなくても、わたしを心配してくれていることがわかった。
――どうして、分かったんだろう?
尊花さんは、わたしのエスパーか何かなのかな。
現実離れした考えは次の一言で明後日の方向へと飛んでいった。
『「好き」だ、万葉。……アタシと、付き合ってほしい!』
言った。ちゃんと、言えた。
添えられた優しさのお陰で、わたしはその言葉を聞き届けることができた。
あとは、その返事だけだ。
「鈴鹿さん……!」
『…………正直、俺には分からない。今もお前のことをどう思ってるのか分かってないしな』
『そう、だよな……。ごめんな、変なこと言――』
『でもっ!!』
鈴鹿さんが、諦めかけた瞬間だった。
遮るように、絶対に離さないように。彼は鈴鹿さんを掴んだ。
『オマエとなら。鈴鹿となら、分かっていけそうな気がするんだ』
『かず、は……?』
万葉さんは、彼女を掴んで、離さなかった。
『これから迷惑をかけるかもしれないけど、よろしくな……!』
『……っ! バッカじゃねぇの?! そんな……。そんなカッコつけられたら、さ……っ!!』
布と布が擦れる音がした。
それと一緒に鈴鹿さんの涙混じりで、奥底から捻り出すような感情が1滴落ちてきた。
『好きに、なるじゃんか……』
『もう好きなんじゃないのか?』
『うるせぇ……!』
よ……。
「「よかったぁ……!」」
安堵の声がわたしを含め、3人から聞こえる。
そっか。そっか……。こういう結果も、あるんだ。
「よかったねー、響さん!」
「……ん」
「泣いてるー?」
「泣いてない。こっちを向くな」
まゆさんが響さんに絡んでいる最中、わたしと尊花さんは、まるで線香花火の終わりを見つめるかのように最後まで通話を聞いていた。
わたしの手には、先ほどまで添えられていた優しさがまだあった。
「よかったね、美鈴ちゃん」
「はい。なんか、一仕事終えた感じですね!」
「ふふ、そうだねー」
喜びに触れながら。
決して叶うことのなかった過去から、少しは目を背けることができた。
それは、わたしだけでは成し遂げられなかった奇跡なわけで。
「ありがとう、尊花さん」
「ん?」
「なんでもないですよ!」
彼女がどうしてわたしのことが分かったのかは分からないけれど。
きっと、わたしのことを想ってのことなんだと、自意識過剰にもそう考えるのだった。




